🌷🌌💬「あにちゃん、いもちゃん、じゃあね!」
一番星がかがやく頃、手をめいっぱいにふる子どもがいました。
子どもは、たくさん楽しかった今日を思って、ごろんと冷たい草の上にねころびました。子どもの帰る場所はもう、あかりが点いていて、晩ごはんのにおいだってしていて。そうして、子どもの帰りを、ただ、まっていました。だから、子どもはさようならをしたら、いちもくさんに帰ってしまったって、よかったのです。
でも、なぜでしょう。
ただ、見えた星がきれいで、風がここちよくて、楽しかった今日で満たされていて。だからでしょうか。まぶたを、ねころがったそこで閉じました。
ぽふ。
ほっぺにふわふわしたものがさわります。ふわふわは、ほっぺをふわふわしたら、次はおでこをふわふわしました。そのときに、まつげにふわふわがかすめて、もう、くすぐったくて。子どもは、くすくす笑いながら、まぶたをもう一度開けました。
「へいたいさん、こんばんは〜」
子どもは、ふわふわのうさぎに、夜のあいさつをします。
「ぴょん……」
うさぎは、夜のあいさつを返して、ふれていた手を、子どもから遠ざけます。そのままうさぎは、どこかへ行ってしまう、なんてことなく、子どものとなりにいつづけました。
子どもは、うさぎのふわふわの毛についている。もう固まってしまったどろを、つめでこそげとりながら、星が空にあらわれるみたいな速度で、しずかに言葉を落とします。
「おはなもおねむだね」
お昼には、元気いっぱいに花開いていた花たちは、花びらを閉じて、夜をむかえようとしています。
「おもちもね、ねむいんだけど」
とろとろ、とけだすみたいに、子どもは目をまたたかせて、あくびをひとつします。
「なんか、なんかね……」
また、まばたきをいくつもして、ひとみの水鏡に、きらきら、星空を宿します。言葉も、とけだしてしまったみたいでした。うさぎは、とけだした言葉をすこしだけ、よせあつめて、子どもにあげました。
「ぴょん、ぴょ……」
「うん。……うん、あさにね、またみたいの」
起き上がった子どもは、
「だから、またね。またあした」
ぎゅうとうさぎを抱きしめて。放したら、子どもの体温とおんなじみたいにあたたかな、帰る場所へかけ出しました。起こす風で花たちをなでて、また明日のあいさつをします。
うさぎは、そうして子どもを見送って、その日はいつもよりていねいに、みずでっぽうの手入れをして、ねむりました。
雲ひとつないきれいな星空、風になでられねむる花、あたたかなかわいい子ども。夢みたいに、おだやかで、平和な、一日のおわりでした。