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    井SUM

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    井SUM

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    沖本夏葉さんの二次創作小説です

    あの日の夜について/夜更け 机の上で横倒しになったシャンメリーが、注ぎ口からぽたぽたと落ち、床を浸していく……。
     ぽたぽた、ぽたぽた、ぽつ。ぽつ。
     動けなくて、うつむいたままの私の手元に水滴が落ちる。あれ、おかしいな。光に透かした泡が綺麗だって笑いあったシャンメリーも、かわいそうな子供たちの泣き声もこんなに近くにないのに。それなのに、水滴が手元に落ち続ける。ぼやけては、途切れて、明瞭になる視界。床についた左手の薬指。そこに残る痕が雫に濡れてきらきらと光っている。
     ぎゅう、と胸が締め付けられるようにひどく痛んだ。喉が引き攣る感覚が恐くて顔をあげる。
     ──そうして、私はなんでうつむいていたのかを思い知る。
     荒れきった部屋。喉が枯れてしまったのか、空咳をしてはまたぐずる子供。座り込んだまま、涙の結晶をつけては流し増やしている子供。ゆらゆらと揺れる子供の細い髪が、ばらばらと肩から流れ落ちて顔を覆い隠してしまう。
     抱きしめて、涙を拭ってあげないと。大丈夫だよって、頭を撫でて、寄り添ってあげて一緒に、おやすみなさいって、今日も。
     手をのばす。足に思うように力が入らなくて這うようにしか近付けない。片足を立て起こし膝に手をついて足に力をこめて立ち上がろうとする。ずるり、とスカートの布地に手が滑り膝をつく。
     ぐちゃ。
     今日は特別な日だから、素敵なスカートでいてとねだりながら、しまい込まれていたスカートを引っ張り出して手渡してくれた。ささやかな白いレースをやわらかな手で触れてにこにこと笑いかける子の髪を撫ですいた。しゅわしゅわとお祝いの拍手みたいに弾けるシャンメリー。今日のために用意した小さなホールケーキ。四等分されたそれを大きく見えるね、ときらきらした瞳で見つめる私の子供達。そのそばで私と違う紫色の瞳を、私と同じように細める私の子供がいた。色も形もばらばらのお皿に、おそろいの真っ白なクリームと真っ赤ないちごのケーキが一切れ一切れ取り分けてられていっていた。
     そのうちの一切れが、私の膝の下でもうまったくどうにもならないくらい潰れてしまっていた。赤い果汁がスカートに点々と飛び散っていて、どうしようもない気持ちが喉元にせり上がる。
    「おかぁさん」
     手をのばした花樹の手のひらから、きらりと溢れ落ちた指輪がころころと転がる。私の薬指から奪い取られてしまった指輪よりもあたたかみのあるそれ。濡れた薬指から寒気が体中に広がっていく。私のはどこに行ってしまったんだっけ。
     宗次郎がまた泣き出して、私を呼ぶ。
     私の、私の。
    「おかぁさん」
     あ、駄目だ。

     ……。
     …………。
     
     ぱちぱちと弾ける音。どろどろに溶けたケーキ。綺麗な指輪。あたたかな家。
     たくさんつらかった気がする。かなしくて。くるしくて。ずっと、ずっと、そう思いたくなかった。しあわせだったこともすきだったことも、ずっと遠くでぼやけてしまって、わからなくなっていた。だから、だから、
     ──不幸せなことを幸せなことと一緒にしてしまいたかった。
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    Replies from the creator

    井SUM

    MOURNINGガンちゃんのリリックだ〜いすき
    ウサちゃんになっちゃうよ〜「なるほどな。そうだな、例えば──
    紙魚という虫がいるが。もう絶版になってデータベースにもされてない化石以下の古本を入手したりだとかして保存状態に一通り憤ったあとにやれやれと開いて見た時にいるアレだ。あいつらは知識欲の欠片もないがやたらと知的財産を侵害する存在だろう。どこへでも入り込む平たい体で張り付いて紙上を這い回り書物の寿命を書いて字の如く食い潰す。価値を理解しないくせに価値を損なうことばかりしやがる。そいつにはその平たい体に目がついているわけだ。もちろんその眼にも書物に対する価値はないな。その眼に書物に対する価値があれば書物から離れるわけだからな。ないわけだ。じゃあその眼には何が映っているかといえば接写されすぎてぼやけた白色と黒色があるわけだ。ふざけているな。そうしてやたらとバカみたいに拡大された世界で目的意識の欠片もないまま食い進めるわけだ。うぞうぞと。その視界には無限のエサがあるように映るわけだが実際には有限でありそれは住まいであり足場でもある。それを食い進めるわけだ。考えなしにな。そこにはひたすらに生命活動のみがあり、社会活動は失われている。社会活動を行うための知識の集合体を食らい生命活動にあてる紙魚がいる。そこに社会的な争いが存在するとは思えん。
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