その日は度数の低い、ジュースのような酒を片手に松田の家で休日の夜を楽しんでいた。他の仲の良い同期とは休みが合わなかったから二人だけで。それでも気心知れた相手なので少しばかりアルコールに酔いつつ楽しい時間を過ごせていたのだ。
『──陣平ちゃん恋人作んねえの?』
回らなくなり始めた頭でそんな話題を振ったのは俺だった。なんてこと無い、特に深い意味もない話題。
松田はここ数年間恋人を作っていなかったのが疑問だったのだ。
もともと取っ替え引っ替え次から次へと恋人を、なんてタイプではなかったが、ここ数年間は浮ついた噂すらなく、ずっと俺と一緒にいるのだ。俺に恋人ができても問答無用で隣に居座る。別にいいけど。
深く考えずヘラヘラと笑いながらそう疑問を口にしたの俺に松田がため息をつく。
『作ろうと思って作れるもんでもねえだろ』
それはそうなのだが。しかし松田は中身こそ荒っぽくデリカシーの欠片もないが顔は良いのだ。
そう、顔は凄く良い。
『顔に騙されちゃう女の子とかいねえの』
『いねえよ』
居ないらしい。
『え〜、じゃあいいなーって子は? 佐藤ちゃんは?』
『ねえな』
速攻で否定されてしまった。捜査1課へ移ってしまった松田の隣には佐藤ちゃんという美人さんがいたので思わず勘繰ったのだが違うらしい。
『そもそも』
『うん?』
『──俺は萩一筋だからな』
プシュ、という缶を開ける音と共に呟かれたのはそんな言葉だった。手は缶に触れているのに視線はこちらを見据えていて、普段なら少しドキリとしてしまったかもしれない。萩原研二の中にある乙女心(笑)が芽生えていたかもしれない。
しかし残念ながらこの時俺は酔っていた。
このとき既に俺はジュースみたいなもんだしな〜とか言いながら度数の低い酒をいくつも空にしていて身体はポカポカ、頭はポンコツになっていたのだ。そのせいだろう。
『へぇ〜! 萩さん一筋!』
口から出ていたのはそんな言葉だった。
──お酒って、怖い。
『……』
クソポンコツ野郎と化した俺に松田は正常な思考ができていたんであろう松田はにっこりと微笑んでいた。正常な俺が見ていたらゾッとしていたような笑顔だ。しかしクソポンコツ野郎の俺は強かった。
『そろそろ眠くなってきたし寝るか〜』
く絶対零度になった部屋の空気なぞ気にもせずクソポンコツ野郎は図々しくも松田のベッドに寝転がって寝やがったのだ。家主の許可もとらずに。
翌朝、起きてすぐ自身の蛮行を思い出し青褪める俺に対していつも通り接してきた松田が妙に怖かった。