「……行くか」「……っす」-------
8/8 / ワンドロライ / 『アリバイ』『君は悪くない』
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「そろそろイサミの誕生日が近いだろ」
「まぁ、そうですね?」
「……近頃の若者ってのは、一体何が欲しいんだ……?」
じゅーーっ。おごってもらったレモンスカッシュをストローで飲みつつ、ヒビキは「本人に聞けばいいのに」と思った。しかしそれは言っちゃいけないことだろうなとヒビキもわかっていた。だからこうやって口止め料を兼ねてカフェでおごってもらってるのだし。
「イサミ相手なら筋トレグッズあげとけばいいと思いますよ。ウェアとか」
「恋人相手だぞ。もうちょっとほら、何かあるだろ」
「それこそ何貰っても喜びますって。……高いもの以外」
「くッ!」
年齢って大変なのね。私は何も気にしないけど、向こうが勝手に気にするものなのね。いやでも、さすがに私も二桁万もするようなものはちょっと。一桁万後半の物でも、ちょっと。
「日程は抑えてましたよね。日中適当にデートしていいとこのディナーに連れてってあげるとか」
「いや、その、それはそれとして、形に残るようなものをやりたくて、だな」
「うーーーん……あの、ベタなことを言って申し訳ないんですけど、イサミだったらサタケさんから貰ったってだけめちゃくちゃ喜ぶと思うんですけど……」
「最初の一回だぞ。恋人になって最初の誕生日のプレゼントだぞ……! 『あ、こんなもんか』と思われたら!」
「アイツそういうの気にしませんって!」
どーーーしよーーかなーーー。目の前でうなだれる年上を見て、ヒビキは軽くため息をついた。
◇
「誕生日だからお祝いにって、今度デートすることになって」
「よかったじゃないか、Bro」
「頼む。デートの心得を教えてほしい」
「What's?」
ビデオチャットの向こう側、真剣に思い悩むバディに向かって、スミスは隠すことなくため息をついた。
「あのなイサミ。俺は今までジョックだったことなんかないんだ。分かるだろ。デートなんかしたことないぞ」
「でも俺より コミュ力はあるだろ」
「そりゃコミュニケーションぐらいは。イサミだってやってる。大差ないって」
「ある! お前の方が女にモテてた!」
「イサミだってヒビキと仲いいだろ!」
「あれはもうなんか違うやつだろ! 同僚だぞ!」
「俺だって同僚だった!」
ぺちん。己の額を叩いて、スミスはやっぱりため息一つ。真剣な表情をするイサミに対し、何をどう言っていいかと頭を巡らせた。
デート、デートなぁ。
「なぁ、イサミ。きっと、ありのままでいいと思うんだ。カーネルはきっとイサミと一緒に出掛けられるだけでハッピーさ」
「でも、一緒に出掛けて、もしもなんか、失礼なことをして『うわあ……』って思われたら……!」
「考えすぎだよ、イサミ」
「初めてだぞ。恋人になって初めて迎える『誕生日のデート』だぞ! 今回を乗り切らないと次のリュウジさんの誕生日だってちゃんと祝えない!」
頼むスミス! そう必死になって頭を下げるイサミに、スミスは頭を抱えた。
◇
「あ、もしもし、ミユ? こちら、ルル!」
『ルルちゃん! お久しぶりですね、どうしたんですか?』
「今度のトーキョー旅行、暗雲が立ち込めてる……!」
『何ですって! それは大変です。どうしたんですか?』
「スミス、イサミの相談に乗ってる。チョー大変そう」
『あ、私もサタケさんの相談に乗ってるヒビキさんの相談に乗ってます。イサミさんとサタケさん、月末にデートするんですって』
「ややこし! みんなで夏祭り行きたいのに、今のままだとスミスとイサミ、楽しむどころじゃない。二人で先にデートしそう」
『それ本末転倒ってやつですね。私もヒビキさんと一緒に行くつもりだった下見の日がサタケさんに取られそうで……』
「ガガピッ! それ、それルルの浴衣の話?!」
『そう、そうなんですよ! レンタルショップ見に行くって話だったのに……』
うーーーん。どーーーしよっかなーーーー。
◇
「サタケさん、プレゼント買いに行く話、あったじゃないですか。あれ、別の人に任せてもいいですか」
「迷惑かけてるのは分かってる! 頼むから今見捨てないでくれ……!」
「違いますって。適役がいるんですって。私の弟分なんで、素性は確かだし、私よりもっと具体的な話聞けますよ!」
「そ、そういうことなら……!」
◇
「なぁイサミ、デートの実地訓練の話だけどさ、あれ、他の人に頼んでもいいかい」
「す、スミス……! わるい、そりゃ、お前にとって気分のいい話じゃなかったと思うが、頼む、今回だけは……!」
「違う違う! ほら、対カーネルで訓練した方がいいだろ? だから、よりカーネルと年の変わらない人の方が、きっと訓練になると思うんだ」
「そ、そういうこと、なら……!」
「イサミもよく知ってる人だから、きっと大丈夫さ!」
◇
サタケはその日、なるべくふんだん着ないような取り合わせで家を出た。うっかり外でイサミと鉢合わせしても気づかれにくい様にという配慮だった。ほら、生活圏被ってるし?
イサミだってその日、帽子とサングラスを目深にかぶって家を出た。うっかり外でサタケに見つからないようにと思ってのことだ。だってほら、生活圏被ってるから。
そんでもって二人そろってコソコソしながら待ち合わせ場所に行ったんだそうだ。
勘のいい諸君なら、もうこの後のオチは分かるだろう。待ち合わせ場所に本人と双方の相談者が大集合するわけだ。
「やっぱ、本人に聞くのが一番ですよ」
「リオウッ!」
「不安があるならちゃんと二人で話し合う。付き合いの基本だよ、イサミ」
「スミスッ!」
「私、ヒビキさんとルルちゃんとで今度の夏祭りの下見に行くんですっ。あとはご本人たちでどうぞ!」
「あ、それついて行っていいかい?」
「もちろんですスミスさん!」
「「お前ら騙したな!」」
「やだなぁ。嘘は言ってませんって」
「ああそうさ。年が近いのも、弟分ってのも真実だろ?」
真っ赤になって黙り込む二人に向かって、愉快愉快と大笑するのは中々実らない相談を受けた二人だ。迷惑かけてた自覚はあるけど! ほら、こういうのは、相手の見えないところで努力して、スマートに終わらせたいじゃないか……!
「ちょうどいいじゃない。本番の前にデートが一回増えたんですよ。より良い情報収集してください」
「ガピッ! 二人とも、ファイト!」
「それとも、二人で一緒にい出かけるのは嫌かい?」
からかうような視線に、真っ赤な顔のまま、サタケもイサミも顔を見合わせた。それでもじもじやってんだから、いい年こいた大人が一体何してる、ってやつ。
ああもう、はいはい。犬は食わず、馬に蹴られることもない。後は『お若い』お二人で。
本日快晴! デートその他に最適の日でしてよ!