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    KiryuuAoi

    @kiryuu1109

    現在、ブレバンとszkrtの沼でもがいている腐女子

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    KiryuuAoi

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    サタイサ
    SOLTさんがダイダラ水族館オンリー開催されると言う事なので、お祝いとして、ダイダラ水族館のお話をまた書かせて貰いました

    #サタイサ
    #ダイダラ水族館

    Halloween show カチャ、と扉の開く音がするのと同時に傍らに居たイウコトキカナイペンギンことアオがぴくりと顔を上げたから、佐竹は部屋に入って来たのが誰なのかを振り返る事なく理解した。
    「お疲れ、勇。レストラン部門から新作の味見をしてくれって幾つか料理が届いているから、お前も味見して貰えるか?」
    「はい。……でも、良くこちらを見ないで俺だって分かりましたね」
     硬い長靴が床を叩く音を響かせながらゆっくりとやってきた勇が不思議そうに呟くのに、佐竹は苦笑交じりの笑みを浮かべて視線だけで傍らのペンギンをなぞった。
     嬉しそうにぱたぱたとフリッパーを忙しなく動かすアオの視線は勇の肩の上のコツメカワウソの隊長を真っすぐに見上げている。
    「ああ……」
     アオのその反応で佐竹がこの部屋に入って来たのが隊長を伴った自分だと気付いたのだと悟ったのだろう、小さく喉を震わせながら勇は僅かに身体を屈め、隊長が床に降りる手伝いをしてやる。
     無論そんな事をしなくても、隊長の身体能力ならば、するすると勇の身体を伝って床に降りる事など容易いのだが、賢い隊長は自分の居住エリア外では勇の許可を得ない内に勝手に床に降りる事は滅多にしない。
     隊長が床に降りるのと同時に、こちらは佐竹の反応などまるきりお構いなしにぺたぺたと足音を響かせて隊長の元へと駆け寄るアオを苦笑交じりに見守っていると、じゃれ合う二匹を微笑ましそうに見つめながら勇が佐竹の傍らへやって来る。
    「ハロウィン向けの料理だから、見事に南瓜ばっかりですね」
    「ああ。だが、洋食一辺倒にはならない様に工夫はされてるぞ」
     ハロウィンと言えば一番に思いつくだろう南瓜はさっくりと焼き上げられたパイ、クルトンの代わりにカボチャの種の浮いたパンプキンスープ、それからナッツとレーズンと和えたサラダと言った洋食と、カボチャの煮物と言った和食に加工されている。
     パイは通常なら網目模様になっている筈の上部が包帯を巻いた様になっているし、パンプキンスープの表面には生クリームでおばけの模様が書かれており、パンプキンサラダには十字架を模した硬いビスケットが乗っており、煮物には大幅にデフォルメされた蝙蝠とおばけの形の高野豆腐が入っている。
    「それに、これなんかは南瓜じゃない」
    「……このミイラみたいなの、お稲荷さんだ」
     普通の稲荷寿司が揚げでご飯をくるんと包んでいるのとは異なり、今回の新メニューの稲荷寿司はは開いた揚げの中に丸めたご飯を入れ、海苔で目を付けて薄く刻んだカマボコを包帯の様に巻き付けている。
     どうしてもハロウィンと言えばメニューが洋風に偏りがちになるものだが、和食が好きな人間にもアピール出来る物を用意しなければならないからこその苦肉の策だろう。
    「カマボコが入ってる以外はただの稲荷寿司だが、味は案外悪くないぞ」
     見た目の愛らしさを堪能する様に見つめる勇の口元に摘まんだ稲荷寿司を差し出せば、少し迷った後でぱかりと口を開ける。
    「うん、揚げの甘いのとカニカマのしょっぱいのが結構合いますね」
     最初の一口に噛みついた後で、稲荷寿司を受け取ろうと手を伸ばして来るのを無視して、小さな口が一口二口と食べ進める間中ずっとそうして持っていると、ふと足元から睨む様な視線を感じた。
     視線の主を何となく察しつつちらりと視線を向ければ、そこにはやはり胡乱気な瞳をこちらに向ける隊長の姿があった。その小さな手がやんわりとアオの目を覆っているのに、相変わらずの過保護さだと思わず小さく吹き出しそうになるが、確かに教育上よろしくないかもしれないな、と僅かに内省する。
    「全部美味いです。特にこのスープが美味い」
    「南瓜の種も中々良いアクセントだしな」
    「パンプキンパイはバニラアイスを添えても良いかもしれませんね、おばけっぽい形に出来たら尚更良さそうだ」
    「悪くないな」
     味見して欲しいと告げた通り全て一口ずつ摘まんだ後で率直な感想を吐き出すのをアンケート用紙に書き込んでいく。
     実現出来るか出来ないかはさておいて、意見は多いに越した事は無いだろう。
    「それより、俺達ばっかり食べてるんじゃ、アオ達が可哀そうじゃないですか?」
    「ん? ああそうだな」
     一頻りじゃれ合った後で興味津々の顔をしてこちらを見上げるアオをちらりと見つめて告げるイサミに、ああ、と呟くと佐竹は備え付けの冷蔵庫からおやつの魚を2尾取り出し、アオと隊長に差し出す。
    「しかし、ハロウィンか。レストラン部門の企画は順調に進んでる様だが、俺達も好い加減何か考えないといけないな」
     美味そうに魚を食べる二匹を微笑ましそうに見つめる勇の柔い笑みをそれこそ微笑ましく見つめながら佐竹はぽつりと吐き出した。
     例年の事だからクリスマス用のショーはある程度内容が固まっているが、ハロウィンとなるとこれまで特別イベントを行った事が無いからまるでイメージが湧かない。
     大体、佐竹の幼い頃にはハロウィンなどと言うイベントは今ほどメジャーではなかったのだ。ここ数年の急激な盛り上がりにはどうにもついていけなくて困惑するばかりで、ハロウィン向けのショープログラムを考えろだなどと言われた所で全く考えが湧いて来ない。
    「一応、ちょっとした案は考えてはみたんですけど」
    「へえ、どんなだ?」
     魚を食べ終えて再びじゃれ始める二匹を幸せそうに見つめ、勇はこの部屋に入って来た時からずっと手にしていたトートバックを広げて見せた。
    「ハロウィンと言えば、安直なんですけどコスプレかなって」
     告げながらバックの中から取り出したのは、耐水性の布を使った小さな洋服だった。
    「隊長、ちょっと良いですか?」
     ちょいちょい、と隊長を手招くと、手にしていた濃い紫の布を肩に羽織らせ、緩く紐で括って固定する。小さなマントはハロウィンと言う前提条件の元、一般的に想像する吸血鬼のマントに見えた。
    「で、こっちはアオ君用なんですけど」
     告げて広げた黒い布は神父の纏うカソックをシンプルに改良したものだった。
    「これ、試しにちょっとだけ着てみて貰えないか?」
     同じ様に耐水性の布で作られたカソックもどきを広げれば、アオが伺う様に傍らの隊長を振り返る。
     その視線にこくんと隊長が頷けば、即座にアオはフリッパーを勇へと向けて大きく広げてみせた。
    「脱ぎ着はしやすい様に袖は大きくしてますし、何処かに引っ掛かっても大丈夫な様に首回りはゴムを付けてますし、強い負荷が掛かればマジックテープが外れる様になってます」
     優しくそうっとフリッパーに袖を通させカソックを羽織らせると、ボタン代わりに付けたマジックテープで前を合わせる。
     恐らくは耐水性のマジックテープを用い、遠目にはボタンに見える様な刺繍を施しているのは万一にでも誤飲などが無いように配慮した結果なのだろう。
     ちょっとした工夫とは言っても、全てが手間の掛かるそれに、勇なりのアオへの愛情が垣間見えるのが少し微笑ましかった。
    「窮屈だったり動き難いとかそう言うのはあるか?」
     告げながら、勇はもう一度アオの傍らにしゃがみ込んで彼の顔を覗き込んだ。
     慣れないカソックもどきを興味深くきょろきょろと見つめた後で忙しなくフリッパーを動かすその様子を心配そうに見つめる勇を他所に、一頻り新たな衣装を見つめ終えたアオはと言えば、ぱたぱたと楽し気に隊長の元へ駆け寄り自慢するかの様に大きくフリッパーを広げてくるりと一回転してみせた。
    「気に入ったみたいだな」
    「動きにも特別問題はなさそうですね」
     何時もの様に軽快に手に手を取って踊り出す二匹をほっとした様に見つめて立ち上がると、勇はトートバックの中から更に新たにクリアファイルを取り出した。
    「吸血鬼の隊長と神父のアオ君で、ちょっとした物語仕立てにするのもありかなって。……一応、ショーのストーリー原案はレストランホールのカトウが考えてくれたんですけど」
     差し出されたクリアファイルの中には何枚かの紙の束が入っている。
     未だ手書きのままのいかにも企画途中のそれを受け取って目を通していると、「あと、こんなのも作ってみました」と勇が再びトートバックを広げる。
     一体どれだけ仕込んでいるのか、まるで何処かの青いネコ型ロボットのポケットだなと思わず苦笑していると、勇が佐竹の手に小さなポーチを差し出した。
    「何だ?」
    「期間限定で俺達も制服にバッジくらい付けても良いかなって」
     促されるままにチャックを開けると、中から蝙蝠とジャックオーランタンとおばけの形をしたフェルト製のバッジがころりと転がり落ちる。
    「まだ見本用に三つしか作ってないですけど、ハロウィンのショーに向けて、飼育員全員分くらいなら作るのも間に合うと思うので」
    「……全員分となるとそれなりの数だぞ」
    「そんなに難しい物じゃないし、型を作ったので二、三日あれば作れます。隆二さんは知らないかもしれないですけど、俺、結構こういうのは得意なんです」
     自慢げににこりと笑う勇に反射的に「知っている」と吐き出してしまったのは、可愛い恋人の特技すら知らない様な男だとは思われたくなかったからだったが、それを受けて、勇がくしゃり嬉しそうに笑うのが堪らなく可愛かった。
    「今度の会議で話を出してみる。もし、この企画が通ったら、今回はお前が責任者をやれよ」
    「え?」
    「今後の良い勉強になる。……勿論、お前ひとりに任せきりにはしないし、ちゃんとサポートはする。だが、折角お前がこれだけやってくれたんだから、これはお前の実績にしろ」
     これまで勇は佐竹の企画に沿って幾つかの提案をする事はあっても、企画の段階から案を出して来る事は無かった。
     だが今回は、余り馴染みのないイベントに困惑している佐竹を案じてかは知らないが、企画から携わろうとしてくれたのだ、その努力に何らかの形で報いてやりたかった。
    「勿論、企画が通れば……の話だがな」
    「はい」
     最後に念を押す様に告げはしたが、恐らくはこの企画が通らない事は無いだろうと、佐竹は未だ楽し気にじゃれ合う様に踊る二匹を見つめながら考えた。
     ショーで一番見せたいのは、動物たちの技の巧みさや見事さも勿論だが、何よりもその愛らしさなのだ。
     ならば、こんなにも嬉しそうに楽しそうに踊る二匹を前に、否を紡ぐ人間など恐らくうちの水族館には居る筈など無かった。
     
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