歓喜する蝶 すずれちゃんに美味しいチョコを食べさせよう。
俺は花々のつどいでチョコを配ると謳うチラシを握りつぶした朝から、躍起になっていた。
とっても好きなアリスのすずれちゃんに、食べさせたい特別なチョコレートを考えることで頭がいっぱいだったのだ。
日当たりの良い明るいキッチンは、試作したチョコレート菓子で溢れていた。
でも、まだまだ物足りない。
コーヒーが好きなすずれちゃん。お酒が好きなすずれちゃん。どんなチョコレートなら喜んでくれるのかしら?
クリームをかき混ぜるボウルに自然と力が入る。跳ねたクリームが頬に付いたが気にならなかった。
クリームの隠し味にスミレのリキュールを入れてみようか。
そんなことを窓を見ながらぼんやり考えていると、よく知った人影が映った。
「あれ?すずれちゃんだぁ♥️」
窓を開けて呼び掛ける。
「バターさん…!」
俺に呼び掛けられて、すずれちゃんは目を丸くした。
「どうしたのお?すっごく早く歩いてたねえ!」
「ちょっと…。材料で使ったチョコが、なんだか変で…!」
確かに、今日のすずれちゃんは特に甘い匂いが強い。チョコやバターの香りがする。
「すずれちゃん、お菓子作ったのぉ?」
「ええ。まあ、初めて作ったものなんですけど…。味見をしたら、なんだか様子がおかしくて…」
すずれちゃんは赤い顔をしながら、もごもごと言った。
「ねえ♥️それってもしかして、俺が食べてもいいお菓子?」
すずれちゃんが初めて作ったお菓子!
俺はとてもとても食べたかった。
「バターさんの為に作りましたから…。食べさせたい気持ちはあるんですけど、材料に何かあったみたいで」
すずれちゃんは、また言葉を詰まらせながら言い淀む。
俺のために、お菓子を作ってくれるなんて!!
心臓に向かってどんどん嬉しい気持ちが登ってくる。
とにかく嬉しい気持ちがたくさんになったので、ボウルを放り投げるように置くと玄関に走った。
ばたばたと玄関を抜けて、花が咲き乱れる小道に飛び出す。
窓の近くで固まっていたすずれちゃんに、俺は飛び付いた。
全ての腕ですずれちゃんの身体を持ち上げながら、くるくる回った。
「嬉しい!!俺ぇ、すずれちゃんが作ったお菓子食べたい♥️すずれちゃんが作ってくれたものならぁ、なあ~んだって食べるよぉ♥️」
嬉しいような楽しいような、くすぐったい気持ちがいっぱいになって、すずれちゃんの頬にキスをした。
「でも…バターさんにこんな怪しいもの食べさせられないわ…!」
「だって俺のために作ってくれたんでしょお?とってもとっても食べたいなあ♥️」
たくさんのキスに眉を下げながら、すずれちゃんは持っていた小さなバッグから、小綺麗にラッピングしたトリュフチョコを出した。
俺は待ちきれずに、トリュフを持つ指ごと口に入れた。
丁寧に混ぜて作られた、チョコレートと生クリームの風味がとても美味しかった。
「すっごく、すっごく美味しいよお♥️」
食べた瞬間から身体中、火で炙られたように熱い。
それでも俺は気が遠くなりそうな幸福感でいっぱいだった。