不意打ち「……うわっ」
突然、円城寺さんの飛び上がるような叫び声が聞こえた。
なんなんだ。どうせアイツのせいだろうとはすぐに察しが付いたが……意味がわからないことに変わりはない。だってアイツも円城寺さんも、さっきまでそこで寝てただろ。
読んでた本から目を上げて、声の方を振り向く。窓際んところ、鳥か小動物の巣穴のように座布団が積み上げられてて、さっきまでそこにソイツが埋まってた。そんでその隣に円城寺さんが追いやられ、座布団一枚を枕にして昼寝してた。
今は座布団の山は崩れてるし、円城寺さんは目を丸くして起き上がってる。で、その傍らにしゃがんだソイツは不機嫌そうに口を尖らせて円城寺さんの顔を覗き込んでいる。
「びっくりした! 漣、いったいどうしたんだ?」
「……晩メシの時間だからァ」
と、不機嫌そう……じゃなくて、気まずそうに言い訳した。右手を気にして何度も握り直している。コイツ、もしかして。
「自分を起こそうとしてくれたのか?」
「だからって円城寺さんの口ん中に指突っ込むなよ」
「え? じゃあさっき寝ぼけて自分が噛んだの、漣の指か。結構思いっきりガチンといってしまったぞ。大丈夫だったか?」
「るせ。こんなのなんでもねー」
円城寺さんがソイツの手を掴もうとしたが、ソイツはじたばたして逃れる。そのはずみで右手を開いた。……やっぱり、人差し指の真ん中が結構赤くなってる。円城寺さんの歯型……コイツの手、白いからかなり目立つ。痛そうだ。
でもその割には文句も言わねぇし、痛いとも言ってなかった。コイツにしては、しおらしい。自業自得だってわかってるからだろうか。
起こそうと思って円城寺さんの顔覗き込んだら、口、開いてたんだろうな。きっと無防備な顔してて……んで魔が差した。指突っ込みてぇ、って。……コイツの気持ち、わかっちまった。つーかむしろ俺が先に円城寺さんの寝顔見てたら、やっちまってたかも。
いや、それはないか……俺はそこまでガキじゃないし……。
「赤くなってるじゃないか。保冷剤持ってくるから、ひとまず冷やしておこう。漣、ごめんな」
「こんぐれー舐めときゃ治るし」
「あ」
俺と円城寺さん、同時に似たような声出した。ソイツが円城寺さんの噛み跡を自分でぺろっと舐めたから。
間接キスだ。でもコイツは何も考えてなさそう。舐めて治るって野生動物じゃねーんだから。クソ、やっぱ俺が先にやっとけば……いや、俺はこういう行儀が悪いことはしねーし、ていうか円城寺さんにそういういたずらみたいなことしねぇし……。
「……口開けて寝てちゃ、危ないな。怪我させたくない」
円城寺さん、何故か俺の方見ながらぼそっとつぶやいた。