ころころ しまったなあ、と思わず呟いてしまったのは建前じゃない。二人には悪いことをしてしまった。反省している。でも同時に、口元が緩むのも許して欲しい。
掛け布団の隙間から顔を出して、自分を見上げてくるその様子が愛おしくて。いやそれだけじゃない。二人とも自分の下半身に身体を乗り上げているんだが、その事実がまずかわいい。自分の前で仲良く……実際にはついさっきまで二人とも夢の中だったのだから、本当に仲良くしていたと言えるかどうかは疑問の余地があるとしても……とにかく今のところは喧嘩はせずに布団の中で顔を並べている。その愛しいぬくもり。下半身に伝わってくる。そして寝ぼけ眼で瞼を瞬かせているところも。
ただしどうにも機嫌が良くない。二人ともだ。
「らーめん屋」
「円城寺さん」
それぞれ自分のことを呼ぶ声は眠気に抗いながらだった。眠気に抗いながら……漣は怒っているし、タケルは困惑している。
何しろ二人とも急に起こされたんだ。どうやら二人とも変な寝相で、自分の胸や腹の上に頭を乗せて寝ていたらしい。で、朝が来ていつも通りの時間に目が覚めた自分が何の気なしに起き上がったら、そこからずるずるころころと落ちていった。
……正直に言って、愛しすぎないか。タケルがびっくりして困惑しているのも、漣が怒っているのも、申し訳ないとは思うけど。それはそれとしてだ。
「悪かったって」
謝りつつ、二人の頬にそれぞれ手を当てる。ぶつけていたところは、おそらく痛くはなかっただろうが。なにせ下は布団だから。
触れるといつもよりふくふくと腫れぼったくて柔らかい。それに温かい。寝起きだからだ。かわいいなぁ。
「おい、何ニヤけてんだ」
「あー……いや、なんでもない」
「オレ様に断りもなく勝手に起きやがって」
「まあ、だって朝だからな」
「朝とか知らねー」
「円城寺さん……」
次第に目が覚めてきたのか騒ぎ始める漣を他所に、その隣でタケルが眠気を訴えている。それに応えて頬を撫でていると、驚いて丸くなっていた目が瞬きをする間隔が次第にゆっくりになっていく。
こっくりこっくりと頭の力が抜けていって、自分の手にはタケルの柔らかい頬がぎゅっと押し当てられる。自分の手にぴったりくっついたタケルの口元がむにゃむにゃと動いて、「円城寺さん」とまた自分のことを呼んでいくれているような気がする。そうしているうちにまたすっかり眠ってしまった。
で、そんなタケルの様子を横目で見ていた漣も、怒って口を尖らせたままではあったが、少し声を潜め始めた。
「漣も寝てていいんだぞ」
「ったりめーだ。らーめん屋も勝手に起きんじゃねェ」
「いや自分は朝飯を……」
そう言って起き上がろうとしたものの、漣が腹の上まで乗り上げてきて布団の中へ押し倒された。と、いうかタケルも自分の太腿の上で寝ているから、どちらにしろどうやって起きたものか。
「飯はいいのか?」
「……うるせぇ。チビが起きんだろーが」
そして怒りながら寝始めた。
これは、ちょっと……愛しすぎて困るんだが……。