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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    まだ蛙の姿の小さい大ガマさんと土蜘蛛さん

    ##妖怪ウォッチ

    天気予報


     雨の匂いがすると言う。わらかぬでもない。確かに天候の変わる前、彼方より雨雲を押し運んでくる風の匂い、それは水気を含んだ彼方の土地の匂いとして、わずかに感ぜられる。
    「ヘン」
     と咳払いをした。蛙が咳払いとは不思議なものだ。蓮の葉の上に座って、小さな身体でふんぞり返る。
    「まだまだだな」
     蛙の喉から、人らしき声が。いややはり人とは少し違っている。まだうまく舌を回して言葉にするのが難しいらしく、音の一つ一つが舌っ足らずな。それに小さな身体に釣り合って、微かで、跳ねるように高い。
     その声を聞き漏らさぬために、こちらも池の淵にしゃがみ込む。
    「まだまだとはどういうことだ」
    「雨の匂いについて、まだちっともわかっちゃいないってことさ。仕方ねえな。人間てぇ、そんなもんか」
    「吾輩は妖怪だが」
    「どっちも一緒だ。どう違うのかよくわからん。少なくとも蛙じゃない」
    「蛙は特別か」
    「そうだ、特別だ。こんなに雨に親しいのは蛙だけだ」
    「それはそうかも知れぬな」
    「うん、あんたはよくわかっている。いいか、雨の匂いというのは、水の匂いや土の匂いだけを嗅いではだめだ。それだけじゃねえ、ええ、なんだ。人の言葉で、なんと言えばいいんだ。ふわふわと浮いているうっすら白い寂しさというのが通り過ぎていくんだ」
    「魂か、それとも死霊か」
    「どっちもよく見かけるが、どっちもちがう。ううん、あんたに習った言葉の中にはない……ないな」
     小さな身体の大きな目玉を幾度か瞬きさせ、首を傾げて、考えている。吾輩が教えたことが、この手のひらよりも小さな身体に全て詰め込んでいるのだろうか。なんとも言えず愉快である。
    「人間の言葉も不便だな。人間が見たことのあるものしか、ないんだろう」
    「それも当然だ。見えぬものを言葉に言い表す必要がないのだ」
    「ゲコ。あっしまった。ついつい元の声が出ちまう。いやそれより、なんと言って説明してやりゃいいのかな」
    「お主の言う浮遊する白というものを一度吾輩に見せることができたのなら、わかるやも知れん」
    「あんたに説明したいんじゃないんだ。昨晩、おれのところに下の村からぞろぞろと何人か来て、次の雨はいつか知りたいと言った。だからおれは雨の匂いを教えてやろうと思ったんだ。そうしたら皆が便利だろう。しかしこの、この白いこいつが、人間には見えないし、言葉にも出来ねえんじゃ、なあ」
    「今そこにあるのか?」
    「ああ、少しばかりはな。だから雨の匂いがするだろう」
    「ふーむ」
     辺りの匂いを嗅いでみる。言われてみれば雨の匂い、であるような、ないような。
    「あんたも知らないってんじゃ、困ったな」
     蓮の葉の上の小さな身体で、いつの間にか器用に腕組みをして座っている。
     これを崇めに人が山を登ってくるという。知らぬうちに、らしい姿になっているようだ。


    (了)
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