以心伝心 アイツが猫のようにぐっと背伸びをした。……円城寺さんの膝から起き上がりながら。その反動で、ソイツの反対側の膝で寝ていた俺の頭がゆっくり滑り落ちていきそうになった。
あぶねーな、と夢の中では苦情を口にした……気がする……が、多分ここは夢じゃねぇ。頭が、半分寝てる。そんな俺の額に円城寺さんがそっと手を当てて、落ちないように支えてくれた。手の腹で撫でるぐらいの力加減。その手の影から、背伸びしたソイツが円城寺さんの顔に鼻先をぐっと近付けてるのを、見てる。
「ん? 漣、どうした?」
ソイツは円城寺さんの問いかけには答えないし、何故か目を閉じている。俺と同じでまだ半分寝てるのか、それとも……そういう期待の顔、なのか。ぶつかりそうな鼻先に円城寺さんが困っている。
頭突きのつもりじゃねえよな。まさか、いくらコイツでもな。
「れーん。……おはよう、か?」
あ。と思ってる間に円城寺さんはソイツの額にぎゅっと唇を押し当ててキスしていた。
ソイツの期待、どうせそういうことだろうと俺も思ってた……けど。
「ちげぇ!」
ソイツが騒ぎ出すまでは。
「え!? 違うのか!?」
「だからァ、そう言ってんだろ!」
「ごめんごめん」
拗ねてるソイツ相手に円城寺さんがかなり適当に相槌を打っている。すげえ笑顔で。絶対に悪いとは思っていない顔だ――実際、円城寺さんは一つも悪くねぇし。
で、いい加減俺もそのやり取り見てて騒がしくて寝てらんなくなって、起きた。楽しそうな円城寺さんと目が合った。
「おはよ、タケル」
「ん……」
円城寺さんがまた俺の額を撫でた。ソイツがさらに口を尖らせて円城寺さんに頭突きする。そんなソイツの頭を円城寺さんが片手で押さえつける。ああ、ソイツが期待してたこと、もしかしたらわかったかもしれない。
して欲しいなら素直に言葉にしたらいいだろ。コイツが素直だったら、明日は雪が降るかもしれないが。
ソイツがあんまり悔しそうにするからだろう、円城寺さんは宥めすかすようにソイツの頭を撫でた。……自分で言い出さないから、先を越される。
「円城寺さん、俺もさっきソイツにしてたやつが欲しい……」
「ああ、そうだな。タケルも、おはようのキス」
「ここがいい」
ソイツされてたのを思い出しながら、俺は起き上がって自分の手で自分の前髪を掻き分けた。その上から円城寺さんの太い指が覆いかぶさってくる。額をくすぐるように、俺の指に指を絡めて……そういう仕草だけで、甘い。
寝起きの頭でぼーっと考えてるうちに、円城寺さんの柔らかい唇が俺の額に触れた。円城寺さんの熱い呼吸を感じた。
見てるだけのソイツは、悔しそうに唇をぴくぴくさせている。
だから、自分でちゃんと言えばいいだけだろ。そんなに後悔するぐらいなら――いや、そいつの辞書に『後悔』なんて文字はないはずだから、ソイツ自信もわけわかんねー感情でぐるぐるしてる、んだと思う。
「漣ももう一回、か?」
円城寺さんがソイツの頭を優しく優しく撫でている。でも違うんだろうな。ちょっと、わかる。
コイツが今何をして欲しいのか、多分わかる。でも自分でして欲しくてしてもらうのと、円城寺さんが勝手にやんのは、同じでもちょっと違う。それも、わかる。それから『撫でてくれ』が恥ずかしくて言えないのも、わかる。ついでにちょっと違う不満はあるもののもっと撫でて欲しいのも事実だから、この状況に甘んじるかどうかの葛藤もある――コイツの考えてること、俺には簡単にわかっちまう。
今はきっと円城寺さんより俺の方が、コイツの言いたいこと理解できてる。だからって代わりに言ってやったりはしねーけど。