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    masasi9991

    @masasi9991

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    ゼロクスの平和な日曜日と小さな事件

    ##RMX
    ##ゼロクス

    日曜日とマーケットと小規模な事件


     全速力で走っても普段の半分の速度も出せやしない。この軽量スニーカー風のフットパーツでもダッシュ用に多少のジェット噴射はできるけど、そんなことしたらそこら中の人にぶつかってしまう。
     日曜日の晴れた青空と綿毛の花びらが舞う平和な並木道。こんなに焦ってるのは、オレひとりだ。
    「どいて、……あ! すみません! どいてください!」
     どうにか大声で謝りながら、道を開けてもらって、時には失礼にならないように押しのけながら、走っている。
     これほど人が集まってるなんて予想外だった。公園の入り口あたりじゃ、まだそこまでの人出じゃなかった。だから急がなきゃと思った通りに走り出してしまった。ところが二つ目のゲートを越えて広場に続く並木の道に差し掛かると、だんだんと人混みが激しくなってきた。混雑のあまり前がろくに見えないほど。それはオレの背が低いせいもあるんだけど。
     何しろ今日の予定は買い物だけだったから、ほとんど武装をしていない。そう、いつものフットパーツも置いてきた。なおさら目線が低くなる。フットパーツの高さなんて数センチ? その程度でも、オレの身長じゃ大問題だ。
     並木は時期を迎えて薄紅色の綿状ガラスの花を一面に咲かせている。つまり、花見客か。こんなときに困ったな。いや、待ち合わせと買い物だけの日曜だったら、むしろすごくいいタイミングだったのに。
    『大丈夫ですか? もしよかったら他のヒマそうなハンターに声をかけようかと思ってたんですけど。あー、アクセル! いたー!』
     繋ぎっぱなしの通信回線からパレットののんきな話し声が聞こえた。どうも通信の合間にスナックでもかじってたみたいで、パリパリというノイズが時々聞こえる。仕方がない、彼女も今日は非緊急事態対応の待機で日曜出勤だ。
    「すみません! いや、うん、こっちの話。心配しないで、すぐ捕まえるよ」
    『でもそんなに急がなくても、スリのシルバー・ネクストが拘置所から逃げ出したってだけですから、他のハンターでも充分だと思うんですよね』
    「いや……今日のこの人混みは、被害者を増やしてしまいそうだ。それに追跡データがはっきり受信できるうちにカタを付けたい」
    『イレギュラー? ボクが行こうか』
     会話にアクセルの声が割り込んできた。パレットのマイク越しで、ちょっと遠くに聞こえる。
    『そうする? 待ってね、データ出すから』
    『休暇中で丸腰のエックスよりボクが行ってバンバン撃っちゃった方が早いでしょ』
    『エックスさーん! 聞こえてました? アクセルが』
    「聞こえてる。でもだめだ。あ、すみません……。お荷物、持ちますよ」
    『何やってるんですか』
    「おばあさんが、あ! 行っちゃった。とにかくアクセルじゃだめだ。こんな人混みで銃なんか撃てないよ」
    『ボクの狙撃能力を信じてないの』
     さっきまでより大きな声がマイクに割り込んだ。きっとパレットの隣で顔をくっつけて叫んでる。想像して、思わず吹き出してしまった。それどころじゃないってのに。
    「それにシルバー・ネクストは変装の名人って話だ。近づいて慎重に対応しないと」
    『変装? コピー能力?』
    『変装って言ったら変装だよ。エックスさん、反応は広場のあたりです』
    「了解」
     花見の人混みを抜けて、広場へ――といっても、広場も人影だらけだ。何しろこの公園では日曜日にマーケットが出る。花の季節じゃなければ、普段はむしろこっちが本命なんだ。しかし今日は花に客を取られているのか、それともオレが走ってきたおかげなのか、マーケットの買い物にはいつもより余裕が持てそうだった。
     もちろん、イレギュラーを確保してから。
     沢山の出店で迷路のように入り組んだ広場を警戒して歩く。スリの心理で考えたら、ボーッと歩いてる人とか、他のものに気を取られている人とかを狙って怪しい動きをしているんじゃないだろうか。ということは……。
     考えながら歩いていたら、待ち合わせの噴水前まで来てしまっていた。
     まだ、ゼロは来ていない?
     と一瞬思ったのは、その場所に居た背の高い女性の方が先に目に入ったからだ。知らない人だ、もちろん。そしてもちろん、オレはすぐにゼロの存在にも気がついた。
    「ゼロ」
    「エックス!」
     女の人の影からひょいっと顔を出したゼロが、オレに向かって手を上げる。なんだか、話し込んでたみたいに見えたけど。
    「あら、残念」
     ハスキーな声で女の人は呟いて、ゼロの傍から離れてこっちに向かって歩いてきた。
     ゼロは特に興味もなさそうだ。……そりゃそうだ、わかってはいる。
    「待ってたぜ。人が多くて参ってたところだ。さっさと用事を済ませよう」
    「あのさゼロ、悪いけど今それどころじゃなくって」
     こんなときにナンパの相手なんかしてるんじゃない。きっとナンパだとも気付いていないな。まったく君はいつも無防備すぎるよ。無頓着というか。
     頭の中で一通り考えながら、結論としてこれって八つ当たりか何かだと気付いたので、思わず自分自身にため息が出る。
     気を取り直して、前を向いて、
    「さっきパレットから通信が入って――」
     その瞬間だった。ゼロの金の髪と赤いボディが、青い空の下で閃光のように瞬いた。
     オレのすぐ横をすれ違いざまに――そして同時に、鈍い音が広場に響く。
    「グェッ」
     発声機関が押し潰されたような悲鳴。何かが吹き飛ばされ、地面に何かがめり込んだ、一連の鈍い音。広場にちょっとしたざわめき。そしてオレの横で拳を握りしめて仁王立ちしているゼロ。
     ぎょっとして地面を見下ろすと、顔面を殴り飛ばされて地面にめり込んでるのは……さっきの女の人!?
    「ぜ、ゼロ! 何やって」
    「エックス、お前の財布だ」
    「えっ? わっ!」
     ゼロがポンと投げて寄こしたのは、たしかにポケットに入れていたはずのオレの財布だった。
    「ええっ!? ということは」
     拉げた顔のフレームにバチバチと電流が走っている。ひび割れたそこが更にショートして、バキン、と音を立ててロングヘア風のアクセサリーパーツまで割れる。そしてその下から現れた顔は、結構な……。ヘアアクセサリがないだけで、随分顔の印象が変わるものだ。
    「シルバー・ネクスト……」
    「誰だ?」
     ゼロはやっぱり前っ全わからない、興味がない、って感じで首を傾げている。
    「き、君、手加減した?」
    「俺がそんなことできたと思うか?」
     改めて、そのスクラップ寸前のボディを見下ろす。寸前で済んでいると願いたい。頭部に一撃を食らっただけなのに頭から地面にめり込んで、全身を痙攣させているが。何かしらのパーツで盛られた胸とお尻も外れかけている。
     にしても、さすがにスリで問答無用のスクラップというのは……。
     やっぱりオレが早く対応しなければならなかった。
    「まあ、そんなことより早めに買い物でもなんでも済ませて帰ろうぜ。人混みはあまり得意じゃない」
    「いいや、そういうわけには……回収班を待たないと……」
    「これのか? どうせもう動かんだろう」
    「だからって放置はできないよ」
     だんだん広場の人出も増えてきた。人の目が痛い。遠巻きに見られている。今日は平和な休日のつもりだったのに。
     落ち込んでるオレをよそに、ゼロは「何を買う予定だったのか? 食い物か?」なんてのんきなことを言っている。


    (了)
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