気怠い休日「今日の予定は、何も聞いてないぜ」
モゴモゴと、布の奥からくぐもった声。こっちまで眠くなりそうな気怠い響きだ。
「わかってるよ。君は昨晩まで任務で忙しかったし、無理にどこかへ連れ出そうとは思っていない」
「そいつは良かった」
「この間君が言っていた水上チェイサーの試乗、今日までだったのは心残りだけど」
あっ、という声がベッドの中から聞こえた。
さっき訪ねてきたオレを玄関まで迎えに来たゼロは、なんとそれからまた二度寝とばかりにベッドの中に戻っている。こんなゼロの姿はとてもじゃないがイレギュラーハンターとしての彼のファンには見せられない。イレギュラーを前にしては冷静沈着苛烈なあのゼロが、休日はこんな自堕落だなんて。そもそもオレ以外は知りようもないが。
つまりオレはさっきから丸まったブランケットに向かって話しかけている。
気まずそうに驚きの声を上げたブランケット……のはじっこから金色の髪が漏れている。もぞもぞと寝返りを打って、隙間から顔を出した。毛布型のメカニロイドみたいな……そんなもの、おそらく誰も作っていないけど。
「しまったな。今から出かけ……いや……今夜にでも」
「最終日だし、夜にはきっと混んでいるよ。そこにオレや君みたいなのが邪魔したら迷惑がかかる。顔だけは売れてるからね」
「ああ、それはそうだが……」
ブランケットの隙間から覗く顔が明らかにしょんぼりと意気消沈している。笑っちゃ悪いと思いつつ、こらえきれず吹き出してしまう。
「ははっ。試乗せずに買っちゃってもいいんじゃないか? 評判だと新型はかなりデキが良いみたいだし」
「そうは言うがかなり出費としてはデカいからな……一度乗るだけでも、と思っていたんだが」
「まあ、そうやってベッドから出られないようじゃ今日は無理だ」
ウーンと唸ってまた寝返りを打ち、ブランケットの中へ丸まってしまう。顔も隠れてしまった。長い髪だけはまだはみ出ている。
「起きたら寝癖がひどいことになってそうだ」
オレもベッドの上に乗り上げて、はみ出たしっぽみたいなゼロの髪を指にくるくると巻きつけた。柔らかい。
「今日は問題ない。お前が居るからな」
「起きたらもう帰ってるかもしれないぞ?」
「ん」
ブランケットの中でもぞもぞしていたゼロの動きが止まった。かと思うと、急にガバッと起き上がる。
「うわっ。な、なんだ? どうした、ゼロ?」
「起きた」
「それは見ればわかる」
さっきまで二度寝を決め込んで怠惰に転がっていたくせに、一転してはっきりと目を覚ました。オレの手を掴んで、一体どうしたんだ?
「出かけるのか?」
「いや」
「それじゃあ?」
「寝癖を直してくれ。帰らずに」
「君の寝癖を直しに来たわけじゃないんだが……」
「もちろん、わかっているぞ!」
なんだその自信は。
しかしそのどこからが前髪でどこからが後ろ髪なのか全くわからないような有様の寝癖は見過ごせない。でもベッドを降りてヘアブラシを取りに行きたいんだけど、ゼロが手を握ったままだから動けないんだが。