秋の味覚の楽しみ テーブルの上に土鍋がどん! と置いてある。蓋の隙間から秋のいい匂いが部屋中に漂う。
「うーん……これはきのこ……そして栗……鮭……だ!」
「あっはっはっは。正解だ! もしかしておれが料理しているところを見ていたのか?」
「おっ? 今日はグランツの方がうっかりしているじゃないか。おれは今帰ってきたばかりだから見ていないぞ! 匂いでわかる。おれは食いしん坊だからな」
「そうかな? 匂いだけでわかるのは、キミの方が料理がうまいから、勘が働くんじゃないか」
「えっおれの料理が上手? ムフっフっフ、それほどでも! ありがとう! 実にありがとう!」
「今日の料理当番はキミほどには料理上手じゃないから、味の方は大目に見てくれよ」
「なにを言っているんだ、おまえの料理もおいしいぞ。なにしろこのお鍋の中ではきのこ、栗、鮭が……」
「それはもうさっき言っていたぜ」
「米と一緒にサンバを踊っている!」
「ぷっあっはははははははは! そんな例えは初めて聞いた!」
「味見をしてもいいだろうか、待ちきれなくなってきた」
「まだ、キミの弟と妹が帰ってきてないぜ。それに、まだ手も洗ってないだろ?」
「ウッ、それは実は……」
少し背伸びをしたグランツが、おれの鼻の頭をメッと突いたからタジタジだ。採掘から帰ってきてそのままの、泥と汗にまみれた手袋の両手を後ろ手に隠す。
「いつもはちゃんと帰ってすぐに手を洗ってるじゃないか」
「実は家に帰り着く前からすでにいい匂いがしていて、大急ぎで帰ってきたんだ」
「あははっ。鼻がいいな」
「おれは食いしん坊なんだ。ウン、わかった。すぐに手を洗ってくるから、それからつまみ食いさせてくれ!」
「いや? 要するにキミが手を使わなきゃいいんだ」
「ム」
「よし、一口だけだぜ」
と笑ってグランツが机の上の土鍋の蓋を開ける。白い湯気がフワーッと舞い上がり、お鍋の前のグランツに直撃している。グランツがおいしそうなにおいになってしまう……。
「まだ熱いかな? 火傷しないように気をつけてくれよ」
振り向いたグランツの手にはお箸、その先にはすばらしくいい香りの炊き込みご飯が!
ツヤツヤのお米が山と海の恵みとともにサンバを踊っている。炊きたてホカホカ。そのまま食べたら確かに危ない。
おれの口元へお箸を差し出すため背伸びをしているグランツでは、フーフーが届かなそうだ。だからおれがつまみ食いの責任を持ってフーフーする。
「フーっ。フー。もういいかな? フーっ」
「あっはっは。ご飯を通り越しておれの顔まで息が、あはははっ、くすぐったいな」
グランツのおデコにぴょこんとこぼれた前髪がソヨソヨとそよいでいる。もしかしてご飯には届いていない?