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    masasi9991

    @masasi9991

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    masasi9991

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    土蜘蛛さんと大ガマさんの出会ったときの話

    ##妖怪ウォッチ

    悪い妖怪 鬱蒼と茂った深い山の奥だ。あまりにか細い獣道を見るにつけ、人も獣もまともに寄り付かぬと見て取れる。
     その場所によくない噂があるのは知っていた。それを重々承知でやってきた。根も葉もあるのかどうかは知らないが、噂なんぞは怖くない。むしろこちらが恐れ追い立てられる側なのだ。そこに潜むのが妖怪変化の類ならばはらからだ。話の通じる相手であれば、と断り書きを入れようが。もしも話せぬような相手であれば……まあよい。まずは会って考えてみようではないか。仮にここがだめでも、幸いこの国は広い。まだ彷徨うあてがある。
     ……などと考えて歩く折、何かに追われているのを察した。
     命を付け狙うといった苛烈な様子ではない。獣道の草を踏む怪しい足音。草木を分け入って、吾輩とそう変わらぬ速さで歩いている。付かず離れず、こちらの様子を伺っているようだ。
     不思議なのはその足音が、かつて聞いたことがないほど軽いということだ。跳ねるような足音、それは森を掻き分けねばならぬならぬほどの大きさの獣の足音としては軽すぎる。
     すると、なるほど。これが噂の正体かと合点した。
    「お主、いったいどこまで付いてくるつもりだ」
     何の気なしに話しかける。相手はまさか話しかけられると思っていなかったようで、ピタと足を止めた。
     いや……ぴょんと一回跳ねてから、止まった。よほど驚いたようだ。
    「この先には悪い妖怪が住んでいるそうではないか」
    「わかっていながら何をしに来た?」
     まだ若く甲高い声だ。予測していたものと少し違う。今度は少しこちらが驚いた。さてこれに話が通じるか否か。
    「実は故郷を追われてきた。故に棲家を求めて放浪しておる。吾輩もまたお主と同じ悪い妖怪だ」
    「おれは悪い妖怪じゃねえ」
     後ろでぴょんと跳ねた音がした。すると間を置かず木々がざわめき風が鳴り、瞬きの後には眼前に蛙が一匹落ちてきた。先程まで聞こえていた妙に軽い足音と共にであった。
     いやそれは、あまり蛙らしい姿はしておらぬが。ともかく蛙であるとすれば何んの不思議もなく、そのよく発達した後ろ足で吾輩の頭上をひとっ飛びに跨いだのだ。
    「人間ってのがその時々でおれのことを良い悪い勝手に呼ばわるだけだ。おれはあんたと違って悪い妖怪なんかじゃねえ」
    「ふむ、なるほど」
     その蛙の言い分はわかりやすい。実際、同じ妖怪が当の本人の主張も聞かず善である悪であると人によって断ざれるのは実によくあること。妖怪に対してだけでなく、人同士でも同じであるから全くこの世はままならない。もっとも吾輩に関しては、そんな世俗の理などもはや関わりもないことだが。あまりに永く生きすぎた。
    「なるほど、で済ますなよ。おれは悪い妖怪じゃないが、この先の池に住んでいる。つまりここらはおれの縄張りだ。そこにあんたが勝手に入ってきた。悪党じゃなけりゃ見逃してやろうかとも思ったが、あんたは悪い妖怪なんだな? それじゃ見逃しやおけねえよ。どうしたらいい?」
    「どうしたら、とはまた変わったことを聞く。ここがお主の縄張りだというのなら、好きに振る舞えば良いではないか。吾輩を退治するなりなんなりと。お主、腕に覚えもありそうに見えるが」
    「うん、そりゃそうだ。おれは腕に覚えがある……戦うこともできる。こうして言葉を話すこともできるし、見ての通り人に化けることもできる。あとは歌を歌ったり、明日の天気を占ったりもできる」
    「それは大抵の蛙ならばできることであろ。それより結局のところ吾輩のことをどうするつもりだ?」
    「ちょっと待ってくれよ、さっき言ったとおりおれを悪い蛙だと里の人間どもが言うせいで、誰もここらに寄り付かねえし、こうして話せる相手と会ったのも随分と久しぶりなんだ。一体どうしたもんかな、前はどうしてたっけ」
    「ふふ、お主随分と俗離れした妖怪だな」
    「俗とは何だ? いや違うぞ、おれは大抵の言葉は知っている。どういうつもりで言ったのか、と聞きたかったんだ」
    「まあ悪い意味ではない。さて決まらぬのなら、こちらから注文を付けて構わぬか。先の通り吾輩は長旅の果に疲れている。どこか休めるところへ案内してもらいたい。できれば清浄な水の飲めるところがいい」
    「頼み事にしては態度が大きいな」
     よく喋るこの子蛙の妖怪は、ここでちょっと黙り込んで目をパチクリとさせた。とはいえしっかりと吾輩のことを観察している。頭の上から足の先まで、まるで穴が空くような、とそれぐらいには。
    「もちろんこのあたりを縄張りとしているお主なら、案内するのも容易かろうと信じて頼み込んでいる」
    「……なんだ、おだてているつもりなのか? どうもあんまり、うまい文句とは思えねえなぁ」
     こんな山奥の垢抜けない蛙に、おだて文句を非難されるとは。思わず言い返しそうになったが止めにした。垢抜けない、も知っていると言いそうだ。
    「まあいいか。親切をするのは嫌いじゃないぜ。あんたも言うほど悪い奴には見えないしな」
     不満げに尖らせていた口が、次の瞬間にはケロリとして笑っている。そしてまたひとっ飛びに吾輩の頭を飛び越えて、宙で身を翻しながら、
    「こっちだ」
     と誘った。
    「あんたの注文にぴったりのところに連れて行ってやる」
     と飛び跳ね、ほとんど足音を残さない。すると、足跡だって残らない。
     なるほど、そういう訳があってこの地に獣道が僅かにしか残らないわけだ。今更ながら、これにも合点がいった。


    【了】
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