いい夫婦の日「今日はいい夫婦の日らしいぜ」
「ほおーう」
商品棚の上にある掲示板にそんなことが書いてあるのを見つけて、なんとなく読み上げた。今日はいい夫婦の日ということで、記念日割で魚が安いらしい。まあ単にセールの口実として掲げているだけで、特に意味なんかないんだろう。
でも、そうか。今日はいい夫婦の日か。キミはなんて反応するだろうか? 何の気なしに言ったようなフリをして、反応を伺う。
キミは今日の割引のかまぼこを手にとって、じっと見つめている。
「うーむなるほど。白、ピンク……そうだ! ショートケーキだ!」
「あははっ。色が似てるからか?」
「そうそう。こんなふうに名前を入れてもらったり、顔を描いてもらうのはどうだろう」
デグダスがさっきからにらめっこしているかまぼこは、一見すると普通のピンクと白のかまぼこだが、切ると断面にかまぼこ工場のキャラクターすり身キグルミの顔と名前が出てくるらしい。パッケージにそう書いてある。それを指差しながら、「おれとおまえの似顔絵」と。
「それからクッキーのプレートにチョコレートでメッセージを書いてもらって……、ロウソクはいち、に、さん……」
「楽しそうだ。でもな、実は今日はおれの誕生日でもキミの誕生日でもないんだ」
「そうなのか!?」
「いい夫婦の日、だそうだ」
改めて、掲示板を指差してそこに書かれた文字を読み上げた。自分で話題に出しておきながら、ちょっと恥ずかしい。キミはふんふん、と興味深そうに頷くばかりだけど。
「なるほどなぁ。確かにおれの誕生日でもおまえの誕生日でもなさそうだ。しかし似たようなものじゃないか。始まりの記念日という意味ではな」
「そ、そうかな」
「そうだ! そして記念日には大きなケーキが必要だ。あっ、決してケーキに目がくらんでいるというわけではないけれども!」
「……ふふっ、あはははは! じゃあ、あとでケーキを買って帰るか。キミの弟たちも喜びそうだし」
「そうだそうだ、きっとよろこぶぞ。いい家族の日だものな!」
それじゃちょっと違う日になっている。でも同じようなものだし、そっちの方がいいかな。二人だけの家族じゃないし。
「問題は今から買いに行って似顔絵まで描いてもらえるかどうかだな。メッセージプレートはきっと大丈夫だろうけど」
「だめか? おれとグランツの似顔絵は?」
「そんなにしょんぼりするなって。そういうのが得意な料理人に頼んでみようじゃないか」
「よし!」
パッと明るい笑顔になってうなずいたキミは、買い物かごにかまぼこを大切に放り込んだ。今日の晩ごはんはかまぼことショートケーキか。