夜歩き 随分、眩しい。夜行性の身には堪える。人の世に擬態して歩くには、そんなことも言ってられないが。
この灯りは繁栄の証だから、人にとっては好いことばかりだろう。眩しさに目を細めながら、その豊かな営みにあやかってコンビニの自動ドアをくぐる。これも初めて人の街に現れた頃は、意味もわからずガラス戸に追突する妖怪が多くて往生したな、と古いことを思い出したのは連れの姿が頭にチラついたからで。あれも打つかった妖怪のうちの一人だった。自動ドアというやつをすり抜けるにしろ動かすにしろ、人ではないものがそれをやるにはちょっとしたコツが要るのだ。
陳列棚から目当てのものを手にとって、無人のレジの前で立ち止まる。商品と腕につけた時計をかざすとものの数秒で会計は終わって、ピッという電子音があとに残った。もちろんちゃんと支払いは済ませてある。ムジナじゃないんだから本物の電子マネーだ。とてもじゃないが枯葉じゃ代わりにならない。ムジナの連中こそ昨今往生しているだろう。
外に出ると今度は暗さで目が細くなる。これほどなら空を見上げれば星でも見られるかと期待したが、そうでもなかった。
一つ、二つ、三つ、と数えられるほどに数を減らした星を追いながら上を向いて街を歩き出した。
そこで、
「待て」
と背後から声をかけられて、やっとオレは振り返る。
「ああ、忘れてた。置いて帰るところだったぜ」
「お主が連れ出したのであろうが」
「ノッたのは土蜘蛛さんだぜ。ほら、見つけたよ。帰って飲もうぜ」
片手に下げた袋を揺らして手招きすると、路地の影の中から影がゆっくり現れた。顔をしかめてはいるが、眩しいわけではなさそうだ。
「同じ看板の店をいくつか巡ったようだが……どこにでも売っているものではないのか」
「限定品だから売り切れてたんだよ。つまり人気があって珍しい酒だぜ? 風情があるだろう」
「ふむ」
視線を降ろし、オレが手に下げた袋を覗き込む。透視できるわけでもなし、そんなところを見つめたって仕方がないと思うんだが。
それより蜘蛛の目の方が夜には弱いはずだから、そうあちこち余所見せずに付いてきて欲しい。言っても老人扱いするなと怒るだろうけど。