選びきれない マーケットで買い物をするとき、こういった店だとかなり大変だ。
小さな屋台の端から端まで、無数の種類のドーナツと値札が並んでいる。一つの種類につき、残っているのは二つか三つぐらいしかない。もうカラになっているカゴもある。そうなると逆によほど人気のあるフレーバーだったのだろうな、と想像をかきたてられて、購買意欲をそそる。
とはいえおれもデグダスも、それほど優柔不断というわけではない、はずなんだが。
「これとこれとこれ……で、六、七、八個。あとは……」
「これ、おれも食べたいな。あとこのトマトとアンチョビのやつ、酒に合いそうじゃないか?」
「おおっ。じゃあそれ、おれの分も買っていいか!? トマトまんじゅう!」
「あはは、ドーナツ屋に饅頭は売ってなさそうだな! ……これで十個」
「足りるかな」
「うちには四人いるしな。しかしこれから晩飯も買って帰るし、あとはあの二人に一つずつってところか」
「うんうん、そうだよな。致し方がない。となるとあのクリームが溢れている、まるでケーキのような……あの豪華なのを食べた……いや、食べさせたい!」
「ふふふ、キミが食べたいならキミの分として買って帰ろうぜ」
「いやいやそんな一人で三つも四つもドーナツをいただくなんて」
「だってさ、この豪華なドーナツ、残り一個しかないぜ。どっちが食べるかで喧嘩になっちまうんじゃないか?」
「は、はんぶんこ、ができる! 二人はいい子だ!」
「でも上に乗っかってるいちごは一つしかない。どうしても不公平になる」
「うぬぬ。しかしおれの分だとして買って帰っても、おまえといちごのはんぶんこができないのは同じじゃないか」
「おれはキミが半分かじったイチゴでもいいぜ。いいアイディアだろ?」
キミの顔を覗き込んでそう尋ねる。
「そっそれは」
するとキミの顔が耳までポッと赤くなった。すぐ隣の至近距離で、少し背伸びをするように、上を向いて見つめると、キミの鼻の頭にはじんわり汗が浮かんでいる。
「エッチだな」
「あははっ」
キミが押し殺した小さな声でそうつぶやいた。おれもキミにあわせて、できるだけ声を抑えて笑う。周りの客や店主には聞こえないように。
「じゃあ、これと……あとはロッタナとロッタナのために一つずつ」
「ロックの分もな」
「あっ、そうだ、うん、そうだ。全部で……十三個!」
「計算は合っている! まっこんなもんだろう」
選んだドーナツを大きな紙袋に包んでもらう。予定よりかなり荷物が多くなってしまった。飯の買い出しに出るといつもこうだ。