淡い色のマーキング「今度からそういうことは予告してからにしてくれんか。まだ心臓がドキドキ言っとるけぇ」
「もう唇での練習は二人でする仲なのに?」
「そうじゃが、じゃとしてもじゃ!」
「兜くん、かわいい。まだ中学生だもんねー」
ほっぺに手を当てたまま、むっと頬をふくらませる。手で押さえてるとこがむにっとしてる。ちょうど僕がキスしたとこ。柔らかさを思い出して、胸がフワフワした。
でもこれで、ちゃんと年上らしいところ見せられたな。
「ワシもすぐ大きゅうなる。百々人もうかうかしてられんぞ」
「でもずーっと僕の方が年上だけどね?」
「それは、どうしようもないのぅ」
うーん、とうなって兜くんは両腕を頭の上に伸ばして背伸びをした。そうするとちょっとだけ大きく見える。まだちょっとだけ。
それからもうとっくに続きが始まっている動画に兜くんは視線を戻した。
さっきキスした横顔。
「あ」
「ん?」
すぐに振り向いて首をかしげる。その頬に、淡く色が付いていた。
思わず自分の口に指を当てる。そっと離して指先を見つめると、しまった。やっぱりこの色だ。
「今度はどうしたんじゃ?」
「あー、えっと、ごめん! 跡が付いちゃった」
「あと?」
兜くんはよくわかってないみたい。自分の顔だから鏡でも見ないとわかんないよね。
うっかりしてた。さっきまで撮影だったから、メイクもしてたのすっかり忘れてた。
今日は配信動画用で、ライブのときよりもかなり薄いメイク。唇に付けてたのも、うっすら淡いピンクだった。
だからキスした瞬間は、気付けなかったんだ。……兜くんのほっぺもピンクだし。
「ごめんね、すぐ取るから」
「あとって何のことじゃ?」
「う……き、キスマーク」
自分でやっといて恥ずかしくなるの、どうしようもない。さっきまで年上ぶっといて。
でもこんなにはっきり、兜くんの頬に自分の付けたしるしが残ってるの見ると、頭がわーっとなる。また顔が熱い。兜くんと居ると、そればっかりだ。
「ハンカチじゃ落ちないなー」
「本当か? 本当にキスマークが付いとるんか? 落とす前に鏡で見たいんじゃが! そこのトイレで見てきてええか?」
「えっ、だっダメだよ! そっちはスタッフさんやぴぃちゃんに見つかっちゃう」
「じゃが落とすにも水か何かが必要じゃろ」
「水……じゃダメかなぁ。んん、じゃあ一緒に楽屋に行こう。あっちの会議室を楽屋にしてるから」
「なるほど。楽屋なら鏡も置いとるな」
「あるけど、恥ずかしいな……」
「ワシは恥ずかしゅうないぞ」
兜くん、すごく笑顔だ。まさにはなまる笑顔って感じ。眩しいなぁ。
「でも、楽屋まではほっぺ隠しといてね」
照れ隠しに兜くんの手首を引っ張るように掴んで立ち上がった。年下なのに、想像してたよりもずっと太くてしっかりしてる。