連休後半 連絡しても、気が乗らないという理由で断られた。後で他の奴から聞いたが、その日は午後から同級生と集まって河川敷でバーベキューをしていたらしい。別に何を優先するかは喜八郎の勝手だし、それが自分でなかったことにいちいち思うところはない。
が、あいつがそんなパリピみたいなことを好んでするとは知らなかった。
楽しかったか? とあとでメッセージを送ってみたら、「肉」と一言返ってきた。なるほど。
その後、連休中こっちが忙しくて連絡を取らないでいたら、土曜日の夜に突然部屋にやってきた。コンビニで遅い夕飯を調達してきて、アパートの前に戻ったらドアの前に座り込んでいる奴がいる。
「連絡してくれたら待ってたのに」
「久々知先輩、さっき下のコンビニにいましたよね?」
「いたけど」
手に下げたビニール袋を軽く持ち上げながら返事をする。探偵ごっこか? これを見れば誰だって推測できることだろう。
「雑誌を物色しているのを店の外から見ました。僕もここに来る前にコンビニに寄ろうと思ったんですけど、先輩と顔合わせたら気まずいなって思ったんでそこのドラッグストアの方に立ち寄ることにしたんですよ。それで充分時間を稼いでから来たつもりだったのに、先輩の方が帰ってくるの遅いっておかしくないですか?」
「レジが妙に混んでたんだ。別にコンビニで顔合わせても気まずくはないと思うけど」
「まあまあ」
早く部屋に入れろとおれの腹を軽く殴りながらせっつく。喜八郎の手の中で、ドラッグストアのレジ袋が夜中の住宅街でガサガサ言っている。
「気まずいといえばなんで水曜日にバーベキュー行ったの知ってたんですか」
「知り合いから喜八郎の学年がバーベキューやってるって聞いたんだ」
アパートの部屋に我が物顔で転がり込んで、他愛のない話。喜八郎は部屋に二つしかないクッションをあえて上下に重ねて、その上に座り込んだ。ペラペラの薄いクッションだから二枚重ねたところでたかが知れているが。
「当たり前のように行動を把握されていたので後からちょっと引きました」
「やましいことでもあった?」
「そう来ましたか」
やや関心したように喜八郎は頷く。おれもらしくないことを言った。拗ねてるわけでもない、つもりだったけど。
「次は先輩も呼びます。下級生のイベント、全部一緒に参加してください」
「嫌だよ、気まずい。変なこと聞いて悪かった」
「僕は久々知先輩がいても気まずくないですよ」
「そりゃ喜八郎はそうだろうけど」
「まあでもその埋め合わせと言ってはなんですけど、先輩がお好きそうなもの手土産に買ってまいりましたので。そう考えるとドラッグストアに立ち寄って正解でした」
「なんだって?」
妙に軽いドラッグストアのレジ袋を投げるように手渡される。食べ物か何か……を一瞬期待したが、すぐに期待はずれだと理解した。袋の中は大箱入り。
「……よくこんな数売ってたな」
「コンビニだと小さい箱のしかないじゃないですか。やっぱりお得な方がいいかなーって」
「別におれはこれが好きなわけじゃないよ」
「いつもこれじゃなかったでしたっけ? それともやっぱり生の方がロマンあります?」
「そういう意味じゃなくて……。しかももう連休も終わるってのにこんなに」
「やっぱりお好きですね」
何と言ってもどうにもならない。喜八郎はいそいそと箱を開けようとしている。その前に、お互いシャワーでも浴びた方がいい。五月の夜だというのに、外はそれなりに暑かった。しかしその提案にも「やる気ですね」と返ってくるのは目に見えている。仕方がないか。