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    me_No_oeo

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    マデリーン→モーヴ←マロンの話(後編)その2
    本編17章
    後編その1(漫画) https://www.pixiv.net/artworks/117492283
    前編(同人誌) https://www.pixiv.net/artworks/113330199

    ##モヴマロ
    ##モヴマデ

    白馬の王子サマは助けてなんてくれない(後編)その2 ――あれはもう何十年も昔。父が流行り病で倒れた頃だった。敬虔な神竜信徒であった母は今日も神竜王に祈りを捧げる。俺もその姿を見て手を組んだ。
     神様どうかお父さんを救ってください。俺から家族を奪わないでください。その為なら何だってします。それから、今はまだ上手く杖を使えないけれど、いつかは立派な癒し手になって大切な人を守る力を――

     だが、そんな祈りも空しく父は帰らぬ人となり、その日から優しかった母も変わってしまった。

     口を開けば『祈るだけ無駄だった』『祈ったところで恩恵が受けられる訳ではない』『あの人を返して』と泣き叫びながら家中の物に当たり散らして使用人にも厳しく接する。当時まだ幼かった俺は、父の死で受けた心の傷を癒やす間もなく変わり果てた母の姿を見せられて生きた心地がしなかった。いっそのこと逃げてしまいたい。だが、そうしたら母がひとりぼっちになってしまう。どうするのが正しいのか――今思うと、この頃から何かと選択を迫られる人生だった。
     そんなある日、目を血走らせた母が俺の肩をがっしりと掴み、視線を合わせてある事を告げて来た。

    『そうだわ…!何もしない神竜に祈っていても仕方がないもの……邪竜に……ソンブル様に祈っていた方がマシよ…!きっとこんないい加減な世界を壊してくれる……!』

     ――この人は何を言っているんだと驚愕した。確かに父は助からなかったが、だからといって悪い竜に縋りつくなんて。でも、それで母の心が救われるなら。二人きりになってしまったけど、また家族としてやり直せるなら。無言で母の手を握ってしまった。使用人には自由にしていいと言い渡し、屋敷も売り払って母と二人でイルシオンに向かう。最後に見たフルルの港町の景色は心に闇を抱え始めた俺にはとても眩しく見えた。
     そして、生前の父の看病に付きっきりで当たっていた母も、この時点でかなり身体を悪くしている様だった――

    ◆◆◆

    「………これで傷は塞がったはずだ。平気か?」
    「う~~~………ほんっとにムカつくよあの下僕ども……!」
    「お前の慢心が招いた結果だろう……」
    「はぁ!?何言ってんの!キミがあの子とおしゃべりしてるからさっさとやっつけてあげようとしただけなのに!」
     マロンの怪我を治療し、はいはいといつもの様にモーヴは受け流した。そうしていないとやっていけないくらいに毎回戦闘後に何かと話しかけられる。ただ、ソルム城での戦いの後の様に静かすぎても心配だが。元気ならいい、とは思った。
    「おっきい斧で鎧たたき割られたり魔法で狙われるのも辛いけどさあ、細い剣も隙間から入ってくるからキライだよ……」
    「もっと守りを固めたらどうだ……盾があるとはいえ、重装兵の割に俺よりも軽装じゃないか…」
    「動きやすくて可愛いからこれでいいの!てゆーか、いつもそう思ってんの?ボクのこと目で追ってんの?ふーん……そっかあ……」
    「…………?」
     マロンが何か言いたげににやにやと笑みを浮かべるがモーヴには理由が分からなかった。ただ思った事を口にしただけだ。動きやすいのは一理あるかもしれないが、毎度手当をしなければならないこちらの身にもなって欲しいとため息を吐いた。
    「……つまんないのー!ほんっと………何も分かってない…」
    「…………」
     しばしの沈黙が続く。気まずい。傷も塞がったし救護室を出ようと思ってマロンが立ち上がったところで部下が部屋を訪ねて来た。
    「マロン様、モーヴ様。間もなくフィレネに到着いたします」
    「…………そうか。承知した。直ぐに準備を行う」
     返事をするまでに妙な間があった。そういえばモーヴの故郷はフィレネだという事を影の原野での戦いの後に聞いたような。神竜をおびき寄せるためだとはいえ、あの子は――「ヴェイル様」はとんでもない事を命令するものだと流石のマロンでも少しだけ思ってしまった。
    「………ヒドイもんだよねえヴェイル様も」
    「………………俺は……あの方の為に尽くすだけだ……」
    「……………」
     怒るでも反論するでもなく、諦めたようにモーヴは口にした。



    「うっわ~派手に燃えてるねえ。ボク達も急いで合流しよ」
     船を降り、花畑が荒らされ家屋が燃え盛っている港町を眺める。元々は綺麗で可愛い場所だったんだろうなと思うと勿体ない気もしたが、平和ぼけしてそうなフィレネの連中はこのくらいの目に遭うべきだともマロンは考えていた。
     イルシオンは雪国で地域によっては本当に貧しい。自分だってそんな場所の生まれだから実の親から捨てられた過去を持つ。神竜に祈っても何の意味もない。だったら邪竜に助けを求める。復活の兆しがあると教会の神父から言われ、実際に腹心だというセピアとも出会ってからは沢山尽くした。役に立って、褒められて、やっと居場所を見つける事ができた。ボクがこれだけ苦労をしてきた間にも、この国の連中はぐうたらと過ごしてきた事だろう。そう思うと一気に今の燃え盛る町の光景が美しく見える。隣のデカブツは少し気の毒だと思うけど。でもほとんどイルシオン人みたいなものだし案外――
     
     ゴツンッ、と額に衝撃が走り、生暖かい感覚が顔を伝っていく。ああ、血だ。でもなんで?どうして?まだ神竜たちの居る場所まで辿りついていないのに――

    「マロンっ!」
     よろけた身体を咄嗟にモーヴが抑えてどうにか倒れ込まずに済んだ。思わぬ伏兵が居た事に二人だけでなく部下たちも周囲を警戒していると、茂みから一人の青年が現れて石を投げて来た。流石に二回目の攻撃は盾で弾いてやり過ごす。もう一人居るようだが、そちらは攻撃的になっている方の青年をどうにか抑え込もうとしていた。やっと状況を飲み込めたマロンが斧を握る手に力を込めて声を張り上げる。
    「よくもボクの顔を……!どこから斬られたい!?」
    「やめろマロン!相手は一般人だ!そんな傷、セピアたちと合流する前に治してやるから――」
    「うっさいなあ!キミも巻き添えになりたいの!?」
     制止を振り切って今にも斧を振り下ろそうとするマロンを前に、臆することなく青年は叫ぶ。
    「俺たちが何をしたって言うんだ……!イルシオンの奴らに復讐してやる……!」
    「ま……待て…!落ち着け……!相手は軍人なんだ、勝てっこない!逃げよう!」
    「でも……!」
     石ではなく隠し持っていたナイフを手にマロンに襲い掛かろうとしている青年をもう一人が必死になって止める。表情は暗く、ずっと怯えている様子の彼が、恐る恐る口を開いた。
    「町を燃やされた事はオレも辛い……!で…でも……先に乗り込んで来た奴らが言ってただろ………『神竜をおびき寄せる為にこの町を燃やす』って………神竜様が旅なんてしてなければ……王子たちも同行なんかせずに残ってさえ居てくれたら…この町は……」
    「お…お前……!なんて事………」
     ぽろりとナイフを落とし、二人して地面にうずくまる。そんな青年たちの様子を見て、かつての自分の母と重なってしまいモーヴの心が痛んだ。祈ったところでどうにもならないという事を彼らも知ってしまったのだ。憐れんでいるうちにマロンを抑えていた腕の力が少し弱まってしまい、振り切った彼女が彼らの元へ歩み寄った。
    「…………言いたいことはそれだけ?じゃあさ、今からでもキミたちもソンブル様を信仰しなよ。それでさあ……信仰の証として、血を捧げるんだよ――!」
     斧を大きく振りかざし今度こそ彼らに危害を加えようとするマロンの方へ駆け寄り、間に入った。その事に気が付いた彼女は咄嗟に腕を止めるが間に合わず、少しだけモーヴの背に傷を付けてしまった。膝をついて苦悶の表情を浮かべるが、どうにか言葉を紡ぎ出す。
    「……死にたくなかったら今すぐ立ち去れ。いいか、これが最後だ。まだ抵抗するようならこいつも他の兵士も何をするか分からん。戦火で焼け死ぬ事もあるかもしれん。早く消えろ……」
    「モーヴ……!でも――」
     有無を言わさずに炎の槍を掲げて火球を作り出す。戦いに不慣れな青年たちも、魔法耐性のないマロンの事も牽制するには十分だった。
     その様子を見て最初に石を投げて来た青年は一目散に逃げだし、その友人も遅れて立ち上がって後を追いかける――と思ったが、去り際にモーヴの姿をじっくりと眺めていた。
    「あんた……モーヴって……」
    「ん……?」
    「いや、人違いか………すまない…」
     それだけ言い残して彼も去っていった。

    「何なの本当に………あー、誰か!ボサッとしてないでボクたちのこと治して!」
     マロンが声を張り上げて衛生兵を呼ぶ。自分の怪我はモーヴに治してもらうとしても、彼を傷付けてしまった分は他の兵士に頼むしかない。直ぐに駆け寄ってきた兵士によって回復魔法を掛けられた。モーヴは何か考えるように俯いたままで、マロンの額の傷も結局は他の兵士によって治された。やはり故郷が懐かしいのか悲しいのか。でも今はそれどころじゃない。上陸早々こんな目にあわされた上にモーヴの態度も合わさってマロンはかなり立腹していた。早くこの鬱憤を晴らしたい。態勢を整えてから先に上陸しているセピアたちの元へ向かった。

    ◆◆◆

    「マロン。あなたには若き獅子の指輪を」
    「え~?聖騎士の指輪はどうしたんですか?」
     合流し、神竜たちの軍と戦う為に準備をしている際にヴェイルから指輪を託された。ただ、以前影の原野で使っていた指輪からは変わっている。あれはあれで機動力が上がって重装兵のマロンでも遅れを取らずに済んで気に入っていたのだが。思わず不満を漏らした。
    「機動力のあるセピアに持たせた方が奇襲を仕掛けられますから。それに、この指輪の紋章士――ロイは若くして大陸全土を巻き込む戦いに身を投じて勝ち残っています。あなたにぴったりでしょう?」
    「………!」
     紋章士と同じようだと褒められた!その一言が嬉しくて大人しくヴェイルから指輪を受け取った。先程までの嫌な気持ちも薄れていく。
    「えへへ……がんばろーね、ロイ!」
    「…………」
     話しかけても返事もなく表情も変わらない。邪竜顕現のこういう部分はつまらないなあと思う。これじゃあ嫌そうながらも返事をしてくれる時もあるモーヴの方がまだ――

    「さて、モーヴ。指を出してください」
    「はっ……」
     無意識のうちに彼を視線で探していて視界に入ってしまったのは、防具を外させてまで自らの手で、モーヴの左手薬指に指輪をはめるヴェイルの姿だった。
    「…暁の巫女ミカヤは、癒しの力と予知能力で多くの人々を救ったといいます。あなたも……私とお父様を救ってくださいますよね?モーヴ……」
     愛おしそうに手をさすって猫なで声で迫っている。見てはいけないものを見てしまった。視線を逸らそうと思っても中々身体が動かない。
    「…ええ………俺の心はあなた様の為に………」
    「………私がヴェイルなのに。欠陥品が消えたのは先程見たでしょう?そろそろ名を呼んでくださいませんか?騎士様………」
     これ以上耐えられない――やっと足が動いてくれてその場から走り去って前衛へ向かう。スッと隣に現れたロイが、言葉は発さないながらも心なしか心配そうにマロンを見つめている気がした。
    「………ねえ、ロイ」
    「…………」
    「キミの炎ならさ、この町も、ボクの想いも、全部焼き尽くしてくれる………?」
     燃え盛る町の中で、ぽつりと呟いた。

    ◆◆◆

     この戦場にもモーヴが居る。そして彼女も。向かってくる敵を蹴散らしつつ先陣を切ってマデリーンは進んでいく。しばらくすると見慣れた顔が――マロンが居た。
    「マロン殿!」
    「……ああ、キミかぁ…」
     マデリーンの声に呼応してマロンが顔を上げる。だが、いつもと様子が違う。操られているだとかそんな雰囲気ではないにしろ、いつもとは違う方向で機嫌が悪いように見えた。
     今日こそ彼女とは決着を付けたい。今回は以前のようにヘクトルの腕輪と行動を共にしている。エンゲージを、と彼の方を見上げると少々殺気だった顔をしていた。
    「向こうの紋章士……よりによってあのボウズとはな……よし、俺も本気を出すとするか!行くぞ!」
     同じ世界から来ている様子ではあったが自分たちのように何か因縁があるのだろうか?ともかく今は戦闘に集中しなければ。エンゲージし、彼の愛用の斧でマロンに切り掛かる。向こうはロイの得物である剣を持っていて少々不利ではあるが、どうにか力で押していく。一瞬の隙をついて斧を振り抜いてマロンの鎧を砕いた。もうひと押し――!それに、今までの彼女ならこのあたりで戦意を喪失してモーヴに助けを求めに行くはず――だった。でも今日は違う。踏ん張って地面に倒れ込むのを耐え、剣を握る手に力を込める。
    「負けない……キミにだけは………!」
     マロンが剣を勢いよく振り下ろすと、一瞬のうちにあたり一面が炎の海と化した。ロイの指輪が味方側だった時にはこちらでイルシオン勢の足止めに使っていた技だ。来るのを察知して防御はしたが、熱風のせいで息苦しいのは防ぎようがない。しかも運悪くエンゲージの状態も途切れてしまい、その場でよろけてしまった。逃げるか、あと一撃を食らわせるかしなければならないのに――
     カツ、カツ、と足音を響かせながらマロンがマデリーンへ迫る。騒がしいはずの戦場で、この空間だけ静寂が訪れたかのように静かになって足音だけが聞こえた。
    「ねえ………キミ、モーヴのこと好きなんでしょ?」
    「え………、あの、その、それは――」
     好意は抱いている。でもそれは「元の世界」の彼へであって、こちら側の彼にはただ悪事から抜け出して欲しいだけで――いや、それも都合よく自分の中で解釈をしているだけかもしれない。分からない。実際にもっと話し合ってみる場でもなければ。そしてきっとその機会は無い。マロンの一言でマデリーンの中の気持ちがぐるぐると掻き乱される。
    「でも……だめだよ」
     自分のものだ、という雰囲気ではない悔しそうな声でマロンが言葉を絞り出す。
    「ヴェイル様には勝てないよ、ボクたち………」
    「マロン殿………アナタは……」
     ――ボクたち。その言葉でマロンの心情を嫌という程理解した。マデリーンが好きだったモーヴだってそうだ。ヴェイルの事を聞くと懐かしそうに嬉しそうに良い主君だったと話してくれて――失ってしまった負い目もあるのかもしれないが、あの忠誠心は本物だった。だからきっと「あの時」、あちらに逝ってしまったのだろうとずっと考えていた。
     炎の海の中で似た顔で同じ男を愛してしまった二人の少女が立ち尽くす。お互いに外傷も傷心も負ってどちらが先に折れるかという状態だったが、割って入るように馬が駆けてくる音が聞こえ、優しい光が立ち込めた。
    「マロン!無理をするな。前の戦いを………いや、それだけではない。先程の事も忘れたのか?また奇襲にでも遭ったら――」
     現れたのはモーヴだった。マロンに苦言を呈しながらも回復魔法を掛けて気遣っていた。自分の世界の彼よりも不器用というか素直ではないというか――でも、羨ましい。どんなに願っても「モーヴ」は、ワタシの王子様は助けてくれない。もう居ないのだから。涙と炎の熱気で視界が揺らぐ。マデリーンの体力はそろそろ限界だった。ガクン、と崩れて膝をつく。そんな彼女の存在に気が付いてマロンの側のモーヴが顔をしかめた。
    「………せめて、楽にしてやろう」
    「ぁ…………」
     先程とは違う光が戦場に輝く。確かミカヤの得意としていた光魔法だ。あまりにも眩しくて神々しくて、そして悲しみと慈愛の交じり合ったような光。まるで「彼」が迎えに来てくれたようでゆっくりと目を閉じた。やはり、反抗できない――
     
    「そこまでよ!」
     上空から制止の声が聞こえると同時に雷の魔法が降り注ぐ。セレスティアがサンダーソードから放ったものがモーヴの手に当たり、マデリーンを葬ろうとしていた攻撃は中断された。辺りを覆っていた炎もカミラと共に行動していた彼女の能力で打ち消され、呼吸が楽になっていく。
    「また世話かけやがって!痛えか?熱いか?」
     家族の危機だ、と臆病な性格であるはずのグレゴリーがマデリーン目掛けて駆け抜けてきて直ぐに杖を振った。マロンとの小競り合いと火傷による傷が癒えていく。彼の言うようにまた迷惑を掛けてしまった。そして、やはり自分とマロンは対の存在なのだろうなと静かに諦めたように笑った。
    「すみません……ありがとうございます、二人とも……」
    「一人で抱え込まないでって前にも言ったでしょう?家族なんだからもっと甘えなさい」
    「できれば誰も傷付かねえのが一番だがな………それに、お前が死んじまったらあいつに合わせる顔がねえ」
     こうして助けられる度に、四翼は家族で支え合っていかなければという大切な事を、「彼」に助けられた命を無駄にしてはいけないと思い出す。立ち上がって武器を構え直し、マロンとモーヴに向き合った。自分の中でけじめをつける為に。
    「………本当に俺だけ居ないようだな…」
     三人の様子を見てモーヴがぽつりと呟く。会わせたくなかった――マロンが都合が悪そうに地面を蹴った。
    「………マロン。傷は塞いだとはいえこの状況は不利だ。下がるぞ」
    「…………わかった……」
     マロンの気を察したのかモーヴ自身も四翼の存在に混乱したのか。マロンを自分の馬に乗せてその場を去ろうとした。
    「ま…待って……!待ってください、モーヴ…!マロン殿……!」
    「………」
     マデリーンの言葉に応じずに二人は後方に下がっていった。
    「どうして………」
    「…あっちのモーヴにも守りてえもんがあるんじゃねえか?ずいぶん邪悪だけどヴェイル様と……マロンってやつを」
    「やはり…そう……なのでしょうか…」
     名前も姿も声も同じで、今は敵対しているけどきっと慈愛に満ちた優しい心の持ち主で。だからこそやはり邪竜側で戦っている彼をどうにか説得したいが――優しいからこそ、四狗を裏切れない。マロンの事も放っておけない。そして何より、人質同然のヴェイルの事も。全てを理解し、こちら側の世界も随分と残酷だとマデリーンは思った。
     
    ◆◆◆

     フルルの港町での戦闘は神竜側が勝利を収めた。あの町の被害状況やフィレネの今後、そして一部で揺らいだ神竜信仰のことを考えれば邪竜側の行動も無駄ではなかったとはいえ、指輪を二つも奪われてしまった。しかも一つは善の心を取り戻したヴェイルによって。セピアに酷く罵られた後、気を失ってしまったヴェイルをモーヴが手当てしようとしたが、セピアとグリが船室へ連れて行ってしまった。甲板にモーヴとマロンの二人だけが取り残される。
    「……やっちゃったねえとは思うけどさ、助けなくてよかったの?」
     少し揶揄うようにモーヴを見上げる。かなり思いつめた顔をしていた。
    「助けて差し上げたい………だが、お優しいヴェイル様と『あちら』の姿……どちらがヴェイル様とソンブル様にとって良い事なのか………そう思うと動けなかった…」
    「今のモーヴ、あの子みたい。ずっと悩んでる」
     悩んでうじうじしていて見ていてムカついて、何よりも辛い。ボクの隣で戦うんだったらもっとシャキッとして欲しい。そう思って言ったがいつものように痛い所を突かれる。
    「お前もあの者に出会ってから様子が変わったが…………」
    「!!う、うっるさいなあ!誰だってきょうだいでもないのに似た顔の子と出会ったらビックリし――あ……」
    「………」
     今回の戦いで向こうには「モーヴ」が居ないという事実を実際に彼も見てしまった。もしかしたら、今後の戦いでこちらのモーヴも命を落とすことがあるのかもしれない。全然褒めてくれないし会話も弾まないし好きじゃない、好きじゃない!でも、居なくなったら暇つぶしに話しかける相手も居なくなるし、何よりも馬で直ぐに駆け付けて助けてくれる人が居なくなる。「王子様」と呼ぶにはかなり歳もいっている気がするが、ピンチの時に何度救われたか分からない。だからこそ「ヴェイル様」もべったりなんだろうけど――好きじゃない、本当に。ただ都合のいい男というだけで。ああ、これじゃボクもあの子と一緒じゃないか、こんなに悩んで――あの子?
    「……そういえば、あの者の名は何と言うのだ?」
    「へ!?あ………知らない」
     心を読まれたような気がして飛び上がる。モーヴの手にはまだ暁の巫女の指輪がはまっていた。すごい逸話が残っている巫女だから心も読めるだろうし、聖職者のモーヴなら順応していても不思議ではなくて冷や汗が垂れた。どう思っているかとかのあたりはバレていませんように。そして、確かに彼と同じ疑問を抱いていた。こちらからはデスタン大教会の時にも名乗ったし「四狗」という邪竜側の軍勢の上位にいる立場上名も知れていて、向こうはいつも「マロン殿」と呼んでくるが――なんて呼ばれていたか。自分と似た名前の響きだったような。
    「好敵手の名を覚えてやっていないのか……」
    「はぁ!?そんなんじゃないし!あんなうじうじした子と一緒にしないで!」
    「……立ち直った時はお前よりもしっかりしてそうだったがな。先程もあのまま戦っていたら生きて帰れただろうか……」
    「…弱気じゃん。はぁ………やんなっちゃうよ。ホントに……」
     大きなため息を吐きながら、祖国に近付いていく景色を眺めた。次に会った時こそ決着を。マロンも、あの子――戦闘後に町の鎮火や復興作業を手伝っていたマデリーンも同じことを考えていた。
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    me_No_oeo

    DONEマデリーン→モーヴ←マロンの話(後編)その2
    本編17章
    後編その1(漫画) https://www.pixiv.net/artworks/117492283
    前編(同人誌) https://www.pixiv.net/artworks/113330199
    白馬の王子サマは助けてなんてくれない(後編)その2 ――あれはもう何十年も昔。父が流行り病で倒れた頃だった。敬虔な神竜信徒であった母は今日も神竜王に祈りを捧げる。俺もその姿を見て手を組んだ。
     神様どうかお父さんを救ってください。俺から家族を奪わないでください。その為なら何だってします。それから、今はまだ上手く杖を使えないけれど、いつかは立派な癒し手になって大切な人を守る力を――

     だが、そんな祈りも空しく父は帰らぬ人となり、その日から優しかった母も変わってしまった。

     口を開けば『祈るだけ無駄だった』『祈ったところで恩恵が受けられる訳ではない』『あの人を返して』と泣き叫びながら家中の物に当たり散らして使用人にも厳しく接する。当時まだ幼かった俺は、父の死で受けた心の傷を癒やす間もなく変わり果てた母の姿を見せられて生きた心地がしなかった。いっそのこと逃げてしまいたい。だが、そうしたら母がひとりぼっちになってしまう。どうするのが正しいのか――今思うと、この頃から何かと選択を迫られる人生だった。
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