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    kskabe

    mortal kombat のあれやこれや
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    kskabe

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    ヤクザに憧れてた茶屋の店員クンジンとマダム・ボーさんと誰かさんが会う何かしらのアレ

    兄弟盃を交わさせたかったが駄目そうです

    茶屋の青年、○○盃を交わす「待ち人があんたを待ってるから、くれぐれも遅れちゃあいけないよ」
    「…へっ?」
     茶屋のホールスタッフの仕事上がりに、フェンジェン村の青年クンジンは出入口で突然茶屋のオーナーでもあり、拳法の師でもあるマダム・ボーに呼び止められた。従兄のクンラオへの何かしらの伝言を頼まれるのだろうかと思いきや、夜中の指定した時間にクンジンにこの茶屋に来て欲しい人間がいるそうなので時間通りに来いという。予想外素っ頓狂な声が出てしまった。夜中?そんな時間に呼び出す人間は誰だ?ぐるぐると思考を巡らせても、朝からフルタイムで働き疲労した脳では思い当たる人物は浮かんでこない。名前や特徴を聞き出そうとしてもはぐらかされて、結局わからずじまいに終わった。さらに、茶屋を出ようとしたら何故か背中に張り手まで喰らい、クンジンは思わず前のめりに転びそうになったがなんとか堪えた。
    「ちょっと、いきなり何するんですか!?」
    「さてねえ?…ま、しっかりおし」
    「答えになってねー!理不尽!」
     そんな帰り際のすったもんだから数時間後。マダムの言う約束時間の午後十一時を自室の時計の針は指さそうとしていたが、何をするでもなくただベッドに四肢を投げ出して天井をぼんやり眺めていた。あれからマダムの言っていた待ち人の正体について考えていたが、クンジンには正直皆目検討もついていない。だが、マダムが言うのだからきっと悪い人間が待ち構えている訳でもないか、と勝手に高を括ってもいた。
    「仕方ない、行くか」
     約束を反故にした事が知られたら後日マダムに何を言われるかわからない。もしかしたら額を突かれる以上の仕置きが待っているかもしれない。着の身着のままでやっとこさ重い腰を上げてクンジンは独り言ちた。

     日中の茶屋は、村人達の憩いの場なのは勿論、村の外からやってきた観光客や、マダムの提供する“特別なお茶”を目当てに来店する殊勝な客で大いに賑わいを見せる。夜は基本オーダーは受け付けていない為、村の酒好きの好好爺達が集い酒類を提供する為のバーカウンター席を占有して静かに呑んでいる…のだが、今晩彼らの姿はない。その代わり、普段なら夜その場に立たない人物、マダム・ボーがカウンターの向こうで紫煙を燻らせ不敵な笑みを浮かばせてクンジンの到着を待ち構えるが如く佇んでいた。
    「師匠!何でここに!?」
    「待ち人に頼まれたのさ、自分とあんたで飲み交わしたいから酒を提供して欲しいってね。ちょっと遅れてきたようだけど…ま、今日は見逃してやるさね」
    「酒…?」
    「そう。わかったら早く適当に座りな」
     合点がいかないままマダムに促されるまま丸椅子に座る。自分をここに呼びつけたかの待ち人とやらは見当たらないし、照明が落ちて暗闇が広がる店内を見渡しても、整頓された座席ばかりでジンの視界にはマダム以外の人間は入ってこないのだから腑に落ちないのは無理もなかった。
    「ほら、あんた。待ち人来たれり、だよ。恥ずかしがってないで顔を見せておやり」
    「…やっと来たか、待ちくたびれたよ」
     マダムの呼びかけに呼応するように、どこからともなく芝居掛かった声が上がる。カウンター席からかなり離れた方向から微かに椅子を引く音と、床板を踏む靴音が静寂を破り店内に響く。そして、ぬっと暗がりから姿を現したのは、夜の闇に溶け込む様なダークスーツ、インナーにアウターとは対照的な色合いで山吹色のワイシャツを着こなすがっしりとした体格の男。男を注視するジンと目が合えば、軽く手を上げて応えてくる。
    「久しぶり。相変わらず元気そうで何よりだ」
    「お前、は」
     ジンの隣に腰掛けた男の、薄明かりに照らされた顔に息を飲んだ。顎と右頬から鼻にかけての複数の切創跡と、右目を覆う眼帯、肩まで伸びた髪と同色で宵闇の隻眼の瞳がジンの茶色の瞳と交差しスッと細められる。

     ──熱狂的なまでに強い憧憬を抱いていた任侠の世界、それも役者ではなく本物のヤクザが茶屋に客として来店した時は狂喜乱舞したものだが、彼は従兄の友人だというのだから当時は嫉妬からよく従兄に突っかかった。退屈な農村での生活から抜け出したくて、どうにか自分をヤクザにしてもらえないかと会う度会う度頼み込んでいたが尽く断られ、ついぞ憧れの世界に入り込む事は叶わなかった。
     …振りかえれば、彼を取り巻く事情とヤクザの実態を知らずに現実とフィクションを混合し愚かな真似をした、と遅すぎる程後に後悔した。
     マダム・ボーの後輩二人に連れられ村の茶屋にふらりとやってきた自分とほぼ同年代の青年。青年の正体がクンジンが猛烈にアタックし続けたヤクザの従弟で、名前はタケダ、彼もまたヤクザの一員だとホールでの勤務中に耳に入ってしまい、燻っていた憧れを燃料に対抗心がふつふつと燃え盛る。気がつけば、青年らがいるテーブルに足早に歩み寄り、突拍子もない言葉を口走っていた。
    (今度こそオレが勝ったらヤクザに…!)
    (懲りないな、まだ勝てるとでも思ってるのか)
     自分が勝ったら俺をヤクザにしてくれ、と青年に挑戦状を叩きつけ周囲を唖然とさせ、静かに怒りを滾らせた青年にほどなく敗北を喫し床に転がされた。それからというもの、ムキになったクンジンは青年が茶屋に来店する度に喧嘩を吹っ掛けては負け、吹っ掛けては負け続け、その度にマダムから拳骨が飛んだものだ。不思議なことに二人はいつしか気の置けない友人になり、喧嘩した後には食事するのがお決まりのパターン。それがクンジンの日常の一部になった。
     それが唐突に消息を断ち、茶屋に顔を出さなくなったのがほぼ一年前の出来事。来店しなくなって一ヶ月が過ぎた頃から、席に着いていく客を目で追い、悪友の来店を待ち詫びるようになった。一日千秋、クンジンの胸中を見透かすように、彼もヤクザなりの事情があるのだから理解してやれ、とマダムに諭された。ヤクザとは住む世界が違うのだ、と痛感させられ憧憬と友情を無理矢理胸の奥に封じ込める。いくらマダムの元に師事していても、自分には従兄やその友人のライデンの様に卓越した拳法の技術はない。ヤクザを志して村を一人飛び出した所で行く宛もないのだからと、半ば投げやりで村の人間として生きていく道を選んでいた。
    「あれ?酷いな、俺の顔をもう忘れたのか?あんなに犬みたいに懐いてたのに」
    「誰が犬だ…忘れる訳ねーだろ!」
     頬杖をつきつつ、何度もクンジンを負かして床に転がした時に見せた意地悪な笑みを向けて憎まれ口を叩く青年、タケダ。一年ぶりだというのに、まるで十数年来の友人に再開した感覚に陥ったクンジンは、目頭が熱くなっていく。溢れそうになる涙を指で乱暴に拭い、タケダに負けじとニヒルな笑みを作り上げた。
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