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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    視界不良になるカキツバタの話その2です。全然シリーズとかにするつもりではなかったけど終わる気配がまるで無いので見て見てします。まだまだ途中。
    最初から読まないとよく分からないと思うので作品欄の「閉じた世界」を読んでからの閲覧をお勧めします。
    捏造過多。酷いモブが居たりカキツバタが割と不憫です。なんでも許せる方向け。

    閉じた世界 2結局その日もロクな進展は無く、太陽が沈んでしまった。
    僕はアカマツくんと一緒にツバっさんを彼の部屋まで送り届けて、申し訳なさやら胸の痛さやらを覚えながらも声を掛ける。
    「ツバっさん、本当に一人で大丈夫?もう先生にも伝わってるとはいえ、絡まれたばっかりなのに……」
    「気持ちは察するけど、オイラはお泊まり会の気分じゃないなぁ」
    「そうじゃなくて!もうっ!茶化さないで!」
    この人はふざけなければ死んじゃうのかな。本当は不安でいっぱいなクセにいちいちノリが軽い。
    アカマツくんが肩を落とし、僕は呆れた。
    「カキツバタ先輩、変なとこで無防備だから言わせてもらうけど!ノックされたりしても簡単に出ないでよ?せめて相手の声とか、なにしに来たかとか聞いてから……」
    「おー、アカマツはオイラより防犯意識がなってんねぃ」
    「いや当たり前ですよ。相手が誰か分からない時はドアを開けるのにも慎重になるもんです」
    「幾らポケモンが強いからってさあ………」
    「へっへっへー、慣れちまったもんで」
    ツバっさんもツバっさんだが、もっと生徒達に礼儀を叩き込むべきではないか、ブルーベリー学園。彼がおちゃらけていて雑な扱いをされがちな留年生だからって、訪問しながら自分の素性も明かさないとは何事だ。
    笑っているリーグ部長は、ともあれ気を付けてくれるようなので今は納得しておいた。危なっかしくて心配でずっと傍に居たけど、常に誰かがくっついているのはストレスとは分かる。人間もポケモンも、一人の時間は必要だ。
    彼も自室に入られるのはちょっと嫌みたいだし。日中ずっと「戻りたい」「寝たい」と言ってたから、流石に退いてあげることにした。
    いやマジでなに仕出かすか分かったもんじゃないから泊まってでも見張りたいけど!僕にも責任あるから些細なことでも助けてあげたいけど!悪質なストーカーみたいだから自重します!
    「それじゃあ、おやすみなさい先輩!お風呂とか寝る用意とかでも注意してね?」
    「なにかあったら直ぐに教えてくださいね。僕もアカマツくんも、ゼイユ達だって飛んで行くから。……スグリはスマホ持ってないから遅くなるかもだけど」
    「おー、有難いね。まあお呼び立てする程のトラブルは起こさねえようにするわ」
    「うん、それが一番」
    見えてなくても会釈くらいはする。それじゃあ!と僕達はツバっさんに頭を下げて、自分の部屋へと歩き出した。アカマツくんと僕の部屋は反対方向だったので、自然と彼とも別れて一人になる。
    ……念の為、途中で振り向いて確認したら、怠惰な先輩は欠伸をしながらゆっくり引っ込んでいた。それから扉の閉まる音がする。
    物にぶつかるようなものとか、そういう異音は特にしない。一旦は大丈夫みたいだ。良かった。
    ホッとしながら、僕も引き揚げようと再び足を動かした。

    無事に自室へ到着すると、強張っていた身体から力が抜ける。
    今まで色んな経験をしてきた自覚はある。大変な思いは沢山した。しかし、目の不自由な人のサポートというのは初めてのことだ。それもあのツバっさんだったから、つい警戒し過ぎてたのかも。
    「……実際気を張り続けないと危ないって分かっちゃったし……」
    本人も慣れない以上仕方ないけれど、彼は油断してると躓きそうになったりうっかり白杖を手放してしまう。
    ……それだけなら本当に「しょうがない」で助けるけど、リーグ部員以外の生徒達がなあ……と頭を抱えた。
    僕やキタカミ姉弟が睨みをきかせて牽制していたが、どうにも嫌な視線が多かった。あの人に敵意を見せたという集団といい、今が彼を攻撃するチャンスとでも思ってるのか。
    「ツバっさん本人への恨み、っていうより、リーグ部全体への鬱憤晴らしなんだろうな」
    ハッキリ言ってしまっては、主にスグリが傷付いてしまうだろう。だから察しながらも黙ってたけど。
    腹が立って仕方ない。暴君だったスグリの件以外にも、ここは学校だから僕が知らないトラブルはよくあるだろう。小さくとも大きくとも、溜まった苛立ちを簡単に少ないリスクでぶつけられる相手が出来てしまった。しかもあの最強と言われていて、今も部長という立場にある人だ。絶好のターゲットになってしまうのは、正直読めなかったとは言えない。
    勿論全員が全員そんなことをするわけじゃない。リーグ部外でも優しく気遣ってくれた子はそこそこ居た。
    「でもなあ…………うぅん……」
    だからって弛んでいいことにはならない。非常に申し訳ないけど、優しい振りして近づいてるんだろうなって印象を受ける時もあったし。
    ツバっさんはジムリーダーの孫なので、ゼイユやタロちゃんの言うように色々不快な思惑を持つ輩だって……
    「ダメだ。考えれば考えるほど一人にしちゃマズいとしか思えない」
    早く彼の目を治さなければ。最早使命感に近い焦燥が増す。

    とにかく突っ立ってグルグル思案するのはそこで打ち切り、僕はシャワーを軽く浴びて部屋着に着替えた。

    まだ消灯まで時間もあるし、眠気も無い。髪を濡らしたまま椅子に座り、スマホロトムを起動した。
    もう僕も皆も散々調べ倒したけれど、改めてツバっさんの目をどうにかする方法を探す。
    「うーーーん…………同じような記事とか論文ばっかり…………やっぱり素人が考えるよりちゃんと病院に行かせた方が…………」
    病院嫌いなのか本土に帰りたくないのかただ面倒なだけなのか、彼は医務室へ運んだ際『気が進まない』と言っていた。しかしそれでも一度くらいしっかり検査するべきなんじゃ?
    まあこの学園の医療設備も悪くはないらしいけど。本土に行けば目やポケモンの技に関する専門家だって居る筈だ。明日改めて説得してみようかな。
    考えながらディスプレイを叩き、今度はこんな事態を招いてしまった原因の技、"だくりゅう"について検索し直してみる。
    「みずタイプの特殊範囲技……威力はそこそこで、命中率はちょっと低くて……三割程度の確率で、相手の命中率を下げる」
    この技が"あまごい"で威力を増し、おまけに僕もツバっさんも同時に使ったことで水がぶつかり合い、跳ね返って二人揃って被る羽目になって。
    僕は無事だったけど、ただでさえ低い付属効果よりも更に下のほんの僅かな確率。それを引いてしまったツバっさんは、視力が著しく低下した。
    「本当に運が悪かっただけとは分かってるけど」
    なんで僕じゃなかったのか、と思ってしまう。
    向こうも向こうで『自分で良かった』とか考えてそうだけど、代わってあげられるなら代わりたい。目が急に見えなくなるなんて、きっと凄く怖いことだ。おまけに好奇の目に晒されて、攻撃されて……辛くないわけがない。嫌じゃないわけがない。
    勿論僕だって嫌だし想像するだけで恐ろしい。でも、あんなに誰かを頼るのが下手な人に負わせるくらいなら、僕がなった方がマシだったんじゃないかって。
    「ああもう、らしくない」
    ネガティブな方向に向かいかける頭をブンブン振る。
    出来ないこと、もしも話を浮かべてたって意味は無い。それよりも、もっと有意義な動きを。

    そのタイミングで、目の前に浮いていたスマホが着信を告げる。

    「!」
    音に驚いて肩を跳ねさせつつ、誰からの電話か確認した。
    『ボタン』という文字が刻まれている。僕は期待と緊張を胸に応じた。
    「もしもし、ボタン?」
    『おっすハルト。……あ、今大丈夫?そういえばイッシュとパルデアって時差あったよね?寝てたりした?』
    「いや、まだ全然消灯時間前だから平気だよ。そっちは……もしかして早朝?」
    尋ねると、ボタンはバツが悪そうに目を逸らした。
    『…………ペパーには黙ってて』
    「あー、うん。分かった。なんかごめん」
    どうやら彼女はまた夜更かしをしているらしい。
    あの保護者のような親友には言わないでくれと懇願されれば、僕は頷くしかなかった。ペパーには申し訳ないけど、僕も時折徹夜で駆け回ってるからボタンの気持ちがよく分かるのだ。
    それに情報収集をお願いしている身なので、告げ口なんて心理的に無理だった。ペパー、本当にごめん。ダチの裏切りを許してください。
    「えーっと、それで。早速だけど、電話くれたってことはなにか掴めたの?」
    『あの後ネル、じゃなくてクラベル校長と色々調べて仮説立ててたんよ。あの人も話だけは聞いたことあったみたいで、興味津々だったし。そんで、ちょっと考えられることがあるって』
    「考えられる?こと??」
    告げられた言葉の意味が分からず、ハテナを浮かべる。
    天才だなんだ言われているけれど、実は僕はあまり頭が良い方じゃない。ガチの天才ハッカーであるボタンと噛み合わないことも多い。
    彼女は僕の為に唸って言葉を探した末に、『つまり』と続けた。
    『ポケモンの技でこう、体調とかメンタルとかに影響が出るっていうのはまあ割とよくある話じゃん?だから、似たような症例とか、同じく「自然治癒を待つしか無い」って言われてる症状のと、こう、繋ぎ合わせたというか』
    「…………つまり?」
    『完全に治す方法まではまだ分かってないけど、改善とか悪化とかに繋がりそうなものは、ちょっと、分かったかもってこと』
    「!! ホント!?」
    『いやまあ、まだ仮説だし、証明も難しいし、ホント、期待し過ぎないで欲しいんだけど……』
    それでもいい!少しでも良くなるかもしれないなら、酷くなるのを止められるかもしれないなら教えて欲しい!
    そうスマホに掴みかかって告げたら、彼女は勢いに気圧されながら頷いた。
    『先ず、えと、改善の方だけど。確か道具やきのみは効かなかったって言ってたよね?でもそれ、遅れて効果が出るかもって校長が』
    「遅れて?」
    『うん。ポケモンが使う分には即効性があっても、人間とポケモンじゃ身体の作りが違うから。ヨクアタール、はアレだけど、きのみは積極的に摂取した方が良いんじゃないかな。直ぐには効かなくても、状態異常が続く期間は短くなる可能性が…………無いことも無い』
    「成る程……考えてもみなかった」
    言われてみれば、人間用の薬とかもなんでも直ぐに効果が表れるわけじゃない。使えば絶対スパッと治るというのがそもそも間違った認識だったのか。
    僕は通話が終わったら皆に共有することを決めた。ボタンは『仮説』と念押ししたけれど、でもその可能性にすら気付かなかった僕達からしたら大きな収穫だ。
    『で、悪化しそうなものだけど』
    そして今の話と同じくらいに大事な点も伝えてくれた。
    『目の負担になり得る行為は当然として。ストレスが大きいかもって』
    「ストレス…………」
    『まあ要は精神的なものね。カキツバタさんとは別の患者の情報も見たら、メンタル不安定な人の方が治りが遅いように見えた。まあ例が少な過ぎるからこれも仮説だけど……また違う状態異常とか技の効果に罹った人達に共通する点だったから、割と当たってるとは思う。そもそも目ってストレスに弱いから、極力避けるべきかな』
    ストレス……精神的負担。それを避けろと。
    あの取り繕ったニコニコ笑顔が脳裏を過ぎる。
    「それ……めっっっちゃ難しくない?」
    『無理言ってんのはうちも分かってるよ………あの人って嫌なことあっても言い出せないタイプだよね、絶対。いっつもニコニコしてるし』
    トラブルとかからは遠ざけるにしても、ストレスを感じていると気付ける気がしない。
    実際今日の出来事が何処まで心に負荷を与えたかもよく分かんないし。え、これ大丈夫?いっそ本人に言った方がいいかな?
    「…………なんか、ストレスは良くないって言ったら余計抱え込みそうだなあ…………」
    『同感。超めんどいわ』
    大いに困った。ここは友人達と要相談かな。学園の皆は僕よりあの人との付き合い長いし。
    『あー、とにかく、今言えることはこんだけ。決定的なの掴めてなくてごめん』
    「いやいや!ボタンも先生も凄いよ!まだ一日……そっちでは二日?しか経ってないのに!本当にありがとう!」
    とても助かったと感謝を述べたら、ボタンは『まあハルトとハルトの友達の為だし……』と照れ臭そうにする。
    『引き続き色々調べたり考えたりするよ。………直ぐに治る様子無いみたいだし、うち的にはそろそろ病院で検査した方がいいと思うけど』
    「そこも明日説得しようと思ってたんだ。頷くかは分かんないけど……もし連れて行けたら教えるよ!そっちもお願いね!」
    『任せろし。じゃそろそろ眠いし話は終わったから切るわ』
    「ありがとう!またねー」
    『お疲れー』
    ボタンとの通話はあっさり終えた僕は、即座にスマホロトムを引っ掴む。
    それから、さっき別れたばかりのアカマツくん含めた仲間達に、今し方聞いた情報をメッセージで伝える。

    『えっ、きのみって遅れて効果出るかもしれないの!?』
    『じゃあ次はきのみ狩りですか?』
    『ストレスが良くないことは意外性無いけど。あのボタンがそんな仮説立てたなら徹底した方が良さそうね』
    『ネリネは不安です。彼が思い通りに動いてくれるとは思えない』

    各々驚きとか心配とかそんな返信が返って来るので、一つ一つ返していった。
    それから全員に『明日病院に行くよう説得し直してみる』『あとストレス云々とか言うべきかは皆が決めて欲しい』と伝えて、了承の旨が送られてからベッドに飛び込んだ。
    スグリにはゼイユが諸々教えておいてくれるそうだ。一先ず今日やれることは終わった……の、かな?

    「明日になってコロッと治ってくれると嬉しいけど…………」

    そんな予感はしないまま、消灯時間が訪れた。

    眠気に任せて目を伏せる。あの人はこの暗く閉じた世界を常に体験しているのかと思うと、やっぱりどうにも、代わってあげたいくらい苦しかった。















    「…………っ!!」
    眠っていたオイラは不意に目が覚めて飛び起きる。近くに居たらしいポケモンの鳴き声がした。
    「はぁっ、はぁ、はぁ…………」
    なんか、嫌な夢見てたような、気がする。どんな夢かは思い出せないけど、息が切れて苦しい。
    目の前がまっくらだ。昏くて見えない。なにも、なにも、目を開けてるのに、
    えっ、あれ、ここ、何処だっけ?
    「じ……じーちゃん?アイリス?」
    フラフラ手を彷徨わせて探す。
    居ない。誰も居ない。返事は来ない。
    独りだ、独りぼっちだ、なんで、どうしよう、見えない、誰か、
    「だ、誰か居ないのか……?」
    立ち上がろうと床を探すが、距離感もなにも分かったもんじゃなく。
    「っ!!」
    ベッドと思われるそこから下りようとしたが失敗して、ガクリと崩れ落ちて床に身体を打った。
    ふりゃ!というポケモンの鳴き声が響く。冷たいなにかが包むように触れてきた。
    「…………え、あ、」
    ……フライゴン?
    そこでやっと正気に戻れた。
    「……あー…………」
    ここはブルーベリー学園。オイラの部屋だ。ジジイもアイリスも居るわけないし、真っ暗なのも電気が消えてるのと一時的な状態異常の所為。
    痛みと手持ちのお陰であっという間に目が覚めて、全身の力を抜く。
    「ごめん、ごめん。ありがとな、フライゴン。もう大丈夫だ」
    そっと撫でると、ジュカインとキングドラまで出ていたらしい。二匹が寄り添ってくる感触もした。カタカタと他の三匹のモンスターボールが震えるのも聞こえる。
    まさか悪夢で飛び起きて、こんなパニックにまで陥るとは。ポケモン達しか居ないとはいえ、恥ずかしくて情けなくて仕方ない。ただでさえバトルも散歩もさせてやれてないのに気苦労を掛けさせてることも申し訳なかった。
    「はぁ…………」
    自覚しているよりもメンタルに来ていたのかもしれないな。心身共に頑丈な方だと思ってたんだが……自己評価ってのは当てにならねえ。
    「スマホロトム。今何時だ?」
    止まらない震えをどうにか抑えながら時刻を聞く。……まだ日も昇り切っていない早朝らしい。
    あーあ、どうしたもんか。まるで寝直す気になれない。でも起きててもやれること無いし。
    思わず目を擦ってしまいながら、一先ずポケモン達の手を借りて立った。派手に転んだが痛みは酷くない。ちょっとアザになるだけで済みそうだ。
    手探りでベッドの位置を把握して、そこから自分の現在地も知っておいて。壁を伝って一旦トイレに行った。
    陰鬱な気持ちを引き摺りながら用を足し、手を洗う。そこに鏡がある筈なのに、自分の顔は見えない。電気を点けても消してもほぼ同じだった。
    「改善してんのか悪化してんのかもよく分かんないねぃ」
    パチン、パチンというスイッチの音が虚しく聞こえる。
    早々に諦めて、慎重にベッドへと戻った。
    変に動いてまたすっ転ぶのも嫌だし、そのまま横になる。しかし眠くない。寝られそうにもない。元々アクティブな方ではないけれど、いつも以上に動いてないので一層眠気が感じられなかった。
    正常に働いていない視界を閉ざす。ずっと暗いままってのも慣れてきたが、やっぱり不便だ。全然違う所に移動させられたりしたら冗談抜きで一巻の終わりだな、オイラ。
    笑って瞼を持ち上げ、枕元に置いていた筈のスマホロトムを何度か空振りながら掴む。……うんダメだ、なにも見えん。夜更かしの心強いお供は今ばかりは無力だ。
    「あーーー……暇」
    グダグダ文句を言ってゴロゴロ転がり続ける。

    ……キョーダイ、起きてっかな。いや流石にまだ寝てるよな。

    先輩のしょうもないワガママで叩き起こすのも可哀想だ。そもそもオイラが「一人でいい」って言ったんだし、緊急事態でもないのに呼び出すのは憚られた。

    やっぱり寝よう。どうにか寝て時間を潰そう。そういうのは得意だろぃ、元々チャンピオン。

    自嘲して、もう一度ロクに情報を仕入れられない視界を閉ざす。その手の技を覚えたポケモンは持っていないので、自力で入眠する他無い。
    煩い心臓の音を無視して頑張った。不安と緊張は強まるばかりだが、ここには自分とポケモンしか居ない。頼めば手の一つくらい握ってくれるのかもしれないけど、彼らだって休みたいだろうと遠慮した。

    大丈夫。大丈夫。オイラにゃ守ってくれる竜が居る。不安に思うことなんてなーんにも無いさ。

    仮に突っ掛かってこられても襲われても、ドラゴン達が傍に…………





    いつもの浅い眠りより更に質の悪い睡眠から、意識が浮上する。
    外で誰かの足音がした所為だった。それはオイラの部屋の前で立ち止まり、次にノックの音が響く。
    「ツバっさーん?僕です、ハルトです。おはようございまーす」
    うとうとしてるうちに朝になっていたようだ。
    時間分からなくなるしいちいちロトムに訊くのも面倒だな……明日からアラームを掛けようと自分らしくもないことを考えつつ起き上がった。
    「おー。おはようキョーダイ」
    ちょっと声を張って挨拶して、ベッドを下りようとする。
    が、さっきのことを根に持っているようでフライゴンとジュカインにめっちゃ過剰に支えられた。一度の失敗で凄い信用失ってる。
    「悪いキョーダイ、ちょっと待ってくれぃ」
    「はーい」
    さて。勝手知ったる自室と言えど、大股で扉まで行く勇気はまだ無かった。それに白杖も持たないと。キョーダイに待って欲しいことを伝えれば、彼も察したのか静かに待機してくれた。
    人工的な明かりが入り込み、ほんの僅かに明瞭になった目と一番の頼りである手で白杖を探す。
    「えーっと、この辺に置いてた筈……」
    杖の色は目立つんだろうが、いかんせん細くて見えづらい。
    やっと発見したかと思えば、昨日部室でやらかしたみたいに倒してしまった。
    「ありゃりゃ」
    「? ツバっさーん?大丈夫ですか?」
    「おー平気よ!ちょっと杖倒しちまっただけ!」
    音を頼りに拾おうとするも、ジュカインに先手を取られたようだ。屈む前にそっと手に握らされた。うん、まるで介護だ。
    寝る前に脱いでいた上着とマントも渡されるので、モタモタ身に纏いやっとハルトと対面する。
    「おーっすチャンピオン」
    「どうも!改めておはようございます!昨日はよく眠れましたか?」
    「まあいつも通りかねぃ」
    咄嗟にちょっと嘘吐いちゃったけど、無垢なハルトは信じたようで「そっか」と言い。
    直ぐに昨日もしていた質問を飛ばした。
    「目、どうですか?ちょっとは良くなりましたか?」
    オイラもここばかりは正直素直に回答する。
    「ぜーんぜん。なんにも変わってねえかな」
    「そっかあ……悪化もしてない?酷くなってたらちゃんと言ってね?」
    「余程違和感があったら流石に言うさ。安心しろぃ」
    笑って見せれば、目の前の頭が縦に動く。頷いたようだった。
    「あ、フライゴンとジュカイン!おはよう。ツバっさんのこと見ててくれてありがとう。よしよし、直ぐにご飯あげるからね」
    キョーダイはオイラの手持ちを構ってから、「ポケモンとかスマホとか、荷物を持って来てください。今日は先ず僕の部屋に行きましょう」とこちらに呼び掛けた。
    まだ部室が開いてない時間なのかもしれないし、オイラは特になにも言わずに従った。一旦室内に戻り準備をして、キョーダイの元へ戻る。
    「戸締りよし!服装よ……くはないけどいつも通り!うん!行きましょう!」
    「はぁい」
    多少慣れてきたのか、迷いなく手を取って歩き出す。昨日の朝と比べればペースや引っ張る力にも気配りも感じられた。流石というか。
    助かるようなしんどいような、複雑になりながらついていく。やがてハルトの部屋に到着したみたいで鍵と扉の開く音が届いた。
    「どうぞ!その様子だとツバっさんも朝ご飯まだですよね?用意しますから、ここで座って待っててください」
    招かれて誘導されて、椅子らしき物に座らされる。こんな状態で手伝いを申し出たところで邪魔にしかならないとは分かる、けど。
    「オイラより先にポケモンに飯やってくれぃ」
    どうせ人間用の方が準備に時間が掛かるから、と頼んだら、承諾の声が返ってきた。
    オイラの手持ちは皆物理的にデカいので、二匹ずつ与えることになる。そこはいつもと変わらない為、いつもの順番をハルトに伝えた。好みの味も教えれば、間も無くザラザラとポケモンフーズが皿に流されるのが聞こえた。
    「昨日も今日もいつものご飯と違ってごめんね。美味しくなかったら言ってね。別の種類の出すから。なんならサンドウィッチだって作っちゃうよ!」
    優しく穏やかな調子でキッチリ全員に話しかけるハルトに、皆も返事をする。
    お利口に文句一つ言わないポケモン達は、オイラ達二人に気を遣ってかあっという間に平らげたっぽい。次々ボールへ引っ込んむ影が見えて、ハルトは驚きの声を上げた。
    「皆早いね?ちゃんとお腹いっぱいになった?足りなかったりする?遠慮無く言ってね?」
    テンポ良く交代して、恐らく十分程度でポケモンの食事タイムが終わる。なんか凄え申し訳ない。
    「そういえば昨日もやたら素早かったような……ツバっさん、この子達いつもこうなの?」
    「うーん、散らかしたり暴れたりはしないけど、いつもはもうちょっとワガママだぜぃ。『今日はこの味の気分じゃない!』とか『もっと寄越せ!』とか。……オイラがこうだし、代わりにハルトが面倒見てるし、気遣ってくれてるのかも」
    「……そっか。優しいんですね。トレーナーに似たのかな?」
    「???? なんでそうなる????」
    心底繋がりが見えなくて首を傾げた。このチャンピオン様は時々よく分からないことを言う。
    ハルトはオイラにモンスターボールを返し、気安く肩を叩いた。
    「さ!僕達もご飯食べないと!ちょっと待っててくださいね」
    「おー……まあ焦らなくていいぜ。怪我しないようにな」
    「はーい」
    ハルトが離れるのと同時にフライゴンのボールが開き、体重を掛けないよう飛びながら軽く巻き付いてくる。デリケートな部分を触ってしまわないよう気を付けながらそっと撫でた。
    昨日から髪も普段のようなセットが出来ず、前髪だけ退けてオールバックにしてるんだが。それが珍しいのか小さな手で弄られた。
    「フライゴン、髪引っ張らないでくれぃ」
    ふりゃふりゃ鳴いて放され、頭のてっぺんになにかが乗る。顎置きにされたようだ。
    もしやオイラの緊張を察して戯れてきてるのかね。……ハルトの部屋は初めて訪れたから、なにが置かれてるのかも知らない。構造はどの部屋も同じだろうけど、やりづらさはあって。
    ただ、それだけだ。ハルトのことは信用してる。ポケモンも居るし危機感とかその手の緊張はしていない。
    「ほらほら、ツバっさんは大丈夫よー。髪食べないでくれーぃ」
    安心させようと笑って撫で回していれば、そのうち朝食の準備が済んだらしい。ハルトの足音がした。
    「ご飯出来たよー!サンドウィッチ!」
    「早かったな」
    「まあ切って挟むだけの具材にしたので。一応食べ易いサイズにもしておきました」
    配慮してくれてんなあ。正直昨日の昼にアカマツに渡されたサンドウィッチは、味は良かったけれど大きくていつひっくり返すか不安だった。小さく切ってあるのは有難えや。
    杖を何処に置くか迷ってたら、「片手で食べられるだろうから」とサンドウィッチを渡された。お節介が上手過ぎて怖い。助かるけど。
    「じゃ、いただきまーす!」
    「いただきます」
    ハルトは礼も待たずにさっさと食べ始めるので、続こうとした。
    けど、その前に尋ねる。
    「今回はなに挟んだんだ?いつもみたいな変なチョイスしてないよな」
    「失礼な。ただのイチゴのフルーツサンドですよ。今回はちゃんと上にパンも載ってるでしょう?」
    「いつもちゃんと載せたらどう?」
    「うーーん、そうすると具材が爆散するから……」
    それがおかしいんだよ。ハルト流のサンドウィッチ作りははちゃめちゃだ。他の料理はマトモなのに何故だろう。
    いざ食べてみたら、今回の物は割と普通に美味かった。なんで毎回この出来にしないのか。効果の為かな?いやそうだとしても『パンを載せたら爆散する』は意味不明だな。
    ……まあハルトだし。面倒くさくなって深く考えるのは止めた。
    「あ、そうだ。実は昨日の夜にボタンから連絡が来て。ツバっさんの目が改善するかもって」
    「え、マジで?」
    そこで世間話のように言われて、もっと早く教えてくれよと思いつつも話を聞いた。
    曰く、「きのみはポケモンと人間では効果の出方が違う」「今は効かなくても摂取することで視界不良の期間が短くなる可能性がある」「だから積極的に食べた方がいい」と。
    確かに即効性が無いだけじゃ意味も無いとも限らないか、と納得した。
    「二日前に食べさせた、命中率を上げるミクルのみ。現状効きそうなきのみはアレくらいですね。パルデアでは見かけなかったけどキタカミでよく採れるらしいから、スグリとゼイユにどうにかならないかお願いしてきたよ。とりあえずあのきのみを定期的に摂取しよう」
    「アレ渋いからあんま沢山食いたくねえなあ」
    「調理すれば他の食材の甘味が引き立って美味しいらしいですよ。だから食べましょうね」
    言いようのない圧を感じる。多分今キョーダイは恐ろしい笑顔を浮かべてるのだろう。
    まあ生で食わなければ美味いとのことだし、オイラも目が治ってくれるかもしれないなら賭けたい。受け入れるのを選んだ。
    「それともう一つ」
    「なんだい?」
    「やっぱりちゃんと病院行って検査受けましょう」
    「ヤダ」
    「『ヤダ』じゃなくて…………」
    次にされた提案は爆速で拒んだ。嫌だ。本土の病院なんて行きません。
    「なんで嫌なんですか?注射とかは、あー、血液検査もするだろうからあるか……でも診てもらいましょうよ。なにか分かるかもしれないし、万が一があっても一度検査すれば対応も……」
    「いや別に注射が怖い年齢じゃねえよ?」
    「じゃあ益々なんで?病院嫌いなんですか?」
    「嫌いとかじゃ……イッシュ本土の医者に頼りたくねえんだよ。そんなことしたら身内にも状況バレるだろぃ」
    「? 別に知られてもいいでしょ。むしろ教えるべきじゃない?」
    「…………………………やだ」
    身内に、祖父や義姉に伝わるかもしれない。一族にまで知れ渡るかもしれない。
    そう考えると、色々恐ろしくて身が竦む。
    「行きたくない」
    子供染みた駄々に映ると分かりながら、ここばかりは譲らずに俯いたら。
    なにかを感じ取ったのか、ハルトは静かになってしまった。
    「…………………………」
    「…………………………」
    室内が静まり返って、気まずくなって手の中のサンドウィッチを詰め込む。
    キョーダイがなにをしてるかは見えなかった。今どんな顔をしてんだか。呆れてんのか、怒ってんのか、それとも。
    「じゃあさ」
    見えない不安が再び湧き上がりかけたところ、自分より柔らかくて小さい手が右手を包んできた。

    「パルデアの病院に行こう」

    ……妥協案、とも言えた。
    「イッシュのツバっさんの家族に伝わらなければいいんでしょう?僕が声を掛ければリーグの人が保護者代理をしてくれるだろうし、信頼もある。パルデアは医療技術も整ってる。だから……パルデアにおいで」
    そこまでしてちゃんと調べて欲しいってか。
    何処までもこの少年は、優し過ぎて人が好い。なんでオイラなんかにこんなに。
    「……でも、外歩くのは。パルデアとか、全然行ったこと無いし」
    「大丈夫。僕が案内します。それに町までならタクシーに乗ればあっという間ですよ」
    頼めば他にも誰か来てくれるだろうし!とのことだ。皆忙しいから無理あんだろ、とは返さなかった。
    オイラが心配らしいキョーダイは、やっぱりどうしても諦めるって選択肢が無いようだ。

    こういうヤツは、一度決めたら折れやしない。

    それを痛い程よく知ってて、且つそんな人間とは正反対な自分は、わざと大袈裟に溜め息を吐いてから結局『YES』と答えてしまったのだった。

    カキツバタという男は、後輩のお願いってのにどうにも弱いのである。















    僕がボタンやゼイユ達にツバっさんの説得に成功したことを伝えると、ボタンは『トップ達と病院に根回ししとく』と言い、リーグ部の皆は直ぐに集まって電話をくれて。
    『この中で一番暇なのは恐らくゼイユですね』
    『ねーちゃん、二人についてってよ』
    『誰が暇ですって!?行くけど!!』
    一番余裕があるのは四天王や部長の業務を請け負っていないゼイユだろう、とのことで、彼女が付き添ってくれることが決まった。
    ツバっさんが「嫌なら無理はしなくても」と苦笑いしたら、ゼイユはちょっと申し訳なさそうに顔を歪めて『アンタなんかが気遣うな!!手ぇ出るよ!!』と怒鳴ってた。ゼイユもゼイユで不器用で素直じゃない。スマホ越しにどう手を出すつもりなのか。

    ともあれ。通話が終わると彼女は直ぐに来た。

    「じゃ行くわよ。えーっと、外出届けでいいのかしら?」
    早速出発してしまおうというゼイユに対して、僕は落ち着いてボタンに確認を取った。
    「ちょっと待って。……『短期間の検査入院になるから一、二泊くらいは必要になる』ってボタンが」
    「じゃあ外泊届けだねぃ。一緒に来るってんならゼイユも準備してきたら?」
    「ま、前例少ないわ改善の兆しも無いわだしね。時間は掛かってもしょうがないか」
    どうやら日帰りで済まないようなので、僕達三人は自室で準備をすると決めた。
    ゼイユは来たばかりで悪いけど一旦単独行動、僕はここで僕自身の準備を整えてからツバっさんの部屋に行こうと。
    「身支度が終わったら改めてエントランスで合流ね。ハルトだけならともかくフワ男は邪魔されたら邪魔だし」
    「塩ー!事実だけど!」
    「外泊届けもお互い先に書いとこっか。手間掛けてごめんねゼイユ、急いで準備するから」
    「はいはい、いいのよ。アンタらはあたしが居なきゃダメだものね。精々待たせないよう気を付けなさい」
    なんともらしい台詞を最後に、背の高い友人は優雅に歩き去って。
    僕は再度ツバっさんを部屋の中へ押し込んだ。
    「チャチャッと終わらせるから、そこで待っててください」
    「おー。まあ焦らずゆっくり行こうや」
    「なに言ってるの、チンタラしてたらゼイユに殴られるよ」
    「そらそうだ。急いでくれぃ」
    僕も彼もゼイユのゲンコツが特別怖いワケではないけど。なんとなーく口実にしてなんとなーく急いだ。本人が居たら「人をダシにするな!」と引っ叩かれていたことだろう。想像すると可愛い。
    様々な苦難にぶつかった僕と長年ドラゴンポケモンを扱ってきたツバっさんからすると、女性による手加減された暴力はニャオハに引っ掻かれるような感覚だった。いや、ツバっさんはまた別のポケモンを思い浮かべてるかもしれないけど。
    進んで殴られたいとは違うものの、まあ可愛い脅しと威力の低い"じゃれつく"だな、程度。ゼイユが思うような効果は、少なくとも僕達二人には一切無い。
    わざわざ言葉にしたりはしないけど、なんて内心呟きつつ着替えや道具を鞄に詰めて、退屈そうに欠伸をしている親友の元へ戻った。
    「準備完了です!」
    「もう?もっと時間掛けてもいいんだぜぃ?」
    「いえ、まあ、なんというか。元々頻繁にパルデアとイッシュ行ったり来たりしてますし、そもそもパルデアの方が僕のホームですから。なにか不足してもどうにかなりますって」
    「そういやそうだった!キョーダイ馴染み過ぎてて忘れてたわ」
    僕にとってもブルーベリー学園は第二の母校と言える。『馴染み過ぎ』というのは自覚してた。なんだかんだずっとチャンピオンやってるし……言ってもツバっさん筆頭とした四天王が誰も通さないからチャンピオン戦は一度もしてない、名ばかりの学園トップだが。
    五年間最強だった親友と、肩書きだけのチャンピオン。二人並んで部屋を出て、また彼の部屋へと向かった。

    彼も彼で「着替えといつもの荷物以外必要無くね?ゲームとかも物理的に出来ないし」と爆速で終えてしまったので、外泊届けの理由欄を無駄に時間を掛けて記述してのんびりエントランスへと行った。
    外に出て直ぐ、僕はあの同行者を探す。
    「ゼイユは居るか?」
    「まだ来てないみたいです。まあ女の子は時間が掛かるものでしょうし、待ってよう」
    どうやら彼女はまだらしい。僕達はバトル中でもなく空いてるベンチに腰を下ろして、気長に待つことにした。
    やることも話題も無く、特に気まずいわけでもない沈黙の中スマホロトムを取り出した。パルデアの天気は崩れてない。そらとぶタクシーも渋滞していない。ボタンとトップ達が予約してくれたらしい病院へ行く分には障害は無いかな。
    色々調べてツバっさんへの補助も考えてたら、隣から通知音が。その彼のスマホロトムにメッセージが来たらしい。
    「あー、いいか?」
    「どうぞ」
    「スマホロトム。誰からだ」
    『ハッサクの旦那』
    「うーんあの人かあ。内容は?」
    『到着予定時刻が分かり次第連絡を。病院にも調整して頂いて小生が迎えに行きます』
    「…………だとよ」
    一言断って読み上げてもらった彼は頭を掻いた。セットされてなくていつもよりフワフワしてる髪が乱れる。
    「流石先生。優しいしよく考えてる」
    「真っ当な連絡だが、でもなんでオイラに送るかなあ。キョーダイでいいだろぃ」
    「いや僕ハッサク先生と連絡先交換してませんもん。担任でもないし当たり前では」
    「うーーーん……そりゃそうか…………仲良さそうだったからてっきり…………」
    「むしろツバっさんはいつ交換してたの?あ、そういえば初めてハッサク先生呼んだ時なにか話してたよね?」
    「うーーーーん…………」
    本当はある程度聞いてたしあの人がこの留年生へ大きな心配を抱いてるのも知ってるけど。さっきの言動からして余程実家と関わるのが嫌みたいだし、本人の口から相談してくれないかな〜という心情で訊いてしまった。
    が、彼はすっかり黙ってしまう。……諦めた振りをして追い打ちは掛けなかった。ストレスは回避しないといけないんでした。言いたくないなら今はこれ以上は問い質しません。ごめんなさい。
    「そうだ、パルデアに行った後のポケモン達の預け先ですけど」
    「! あ、ああ」
    話題を逸らすようにすべき説明を分かる範囲で重ねていたら、間も無くゼイユが現れた。
    「ハルトー、カキツバター」
    「おーっす」
    「やっと来た……もーっ、長かった!幾らなんでも張り切り過ぎ!ゼイユにだって説明したいことあるのに!」
    「ズボラなアンタ達と美しいあたしは違うのよ」
    待たせるなと言いつつ自分はめちゃくちゃ待たせてくるその横暴さ、謝らない点も含めてゼイユらしい。
    堂々髪を靡かせてドヤ顔までするんだから、僕は頭を抱える。ぼんやりとしか視認出来ていないツバっさんはハテナを浮かべてた。
    「ほら早く行くわよ!出発まであと十分も無いんだから!外泊届け寄越しなさい!」
    「あっ、」
    時間が無いのはゼイユの所為では?そう言い返すより先にツバっさんの外泊届けを引ったくられて提出された。ちなみに僕はオレンジアカデミーへの留学生なので必要は無かった。そもそもでなければ好きに行ったり来たり出来ていない。
    あっという間に受理させた彼女は僕達に手招きするので、溜め息を吐きながらなるべく急いで通路を進み。

    本当に出立寸前だった飛行機に乗り込み、いざパルデア目指して一旦イッシュ本土の空港へ飛んだのだった。
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    Rahen_0323

    MOURNING押せ押せ全力投球鋼鉄メンタル主人公アオイとトラウマ持ちで結構マトモでアオイに特段そういう興味の無いカキツバタの続きです。くっつかないカキアオです。途中で終わります。
    1〜3話から読むことをオススメします。
    カキ←←←アオ要素とモブツバの香りがあります。捏造妄想自己解釈だらけ。ご注意を。
    気が向いたので久々の更新です。続きを投下するかは分かりませんが。
    くっつかないカキアオ 4交換留学終了まで、残り四日。

    「オイラ明日実家帰るわ〜。部の仕事はやれるだけやったしまあよろしく」

    「えっ」
    「え?」
    「えええっ!?」
    朝から突然爆弾が投下されて、主に私とタロちゃんとゼイユが取り乱した。
    言い放ったカキツバタ先輩は相も変わらずケロリとしてて、チョコ菓子の封を開ける。
    「いやいやいや!!困りますそんな急に!!」
    「だーから、困らないよう仕事はやったって。ほら」
    「ホントだ!?先輩やればできるじゃん!」
    「少々粗はありますが、カキツバタにしては素晴らしい出来栄え」
    「だろぃ?そういうことなんでよろしく」
    「う、うぅん、いえまあいいんですけど!!ちょっと突然過ぎますよ!!そういうことはもっと前もってですね……!!」
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    Rahen_0323

    MAIKING以前書いた「閉じた世界」の補完話、の途中経過です。本当は完結して直ぐに書き始めていたのですがなんか止まってしまっていたので一旦置いておくことにしました。
    「閉じた世界」を先に読むことを推奨します。なんでも許せる方向け。
    完成させたい気持ちだけはずっとあるんですけどね……編集も頑張って進めます。
    閉じた世界 補完(途中)孫息子のカキツバタが帰って来ることが決まった。それも、知らず知らずのうちに募っていた沢山の誤解を解いた末に。
    あの子が学園に入ってから五年間。顔を合わせるのは大事な会合やアイリスに関する記念日ばかりで、年末年始から当人の誕生日さえ自分から帰省してくれることは一度だって無く。その上会っても目が合わず碌な会話もしていなかった。それがどれだけ辛く悲しく苦しかったか。
    そんな孫が、帰って来る。合意の上で戻ると言ってくれた。なんとめでたきことだろうか!
    彼の両親に当たる娘夫婦とずっと気に掛けてくれていた執事はそれはもう大喜びで、アイリスも「私だけ仲間外れにさせない!」といつも嫌がる事務仕事を一気に片付けて集まった。ここまで一斉に集合したのはカキツバタが産まれた日以来かもしれない。なにせ一族の集まりでさえ誰かしらが欠けていたのだから。
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