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    朝野@テキスト置場

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    企画「雨ノ国」のうちよそCP小説序盤
    うちの子(雨森日暮)の過去のトラウマと生活を少し描写してます
    地雷ない人向け、過去の死ネタを含みます

    #雨ノ国

    雨ノ国【雨降る国、花愛でる男】この世界では雨が降り続いている。
    過去にあったはずの文明はおろか、人類でさえ大半の数を失った世界。そこに降る雨は生物の遺伝子に関与し、その身を変容させる特別な能力を持っていた。雨に打たれた生き物たちは凶暴かつ醜い姿へとその身を変え、日々人々の生活を脅かしている。その動物達を狩り、食い、研究することで、残された人々は生活をしていた。雨に打たれると変異してしまうヒトのうち、稀に雨に適応する力を持ったヒトが生まれた。彼らをこの世界では『RAINER(レイナー)』と呼び、ヒトとレイナー達はそれぞれに役割を持ち、この孤独な世界を生きていた。

    ***


    人々が多く住む中心地からいくばくか離れた場所に、緑が多い緑化地帯があり、そこに1人の男が住んでいた。
    名を日暮(ヒグレ)といい、苗字も持ってはいたが、そうそう名乗ることが少なくなり、もはや仕事の時でしかフルネームを名乗ることがなくなっていた。彼の家には工房と温室が備え付けられており、工房では竹の加工を、温室では少しばかりではあるが、花を育てていた。男は喧騒を嫌い、喧嘩を嫌い、戦いを嫌った。レイナーであった男は、そもそも大した戦闘能力も持っていなかったものの、特に逃げるのが上手かったため、この孤立した家に住み続けることができていた。

    「もうこんな時間か」

    男は立ち上がり、椅子の傍に立てかけていた竹でできた杖を持って扉の前に立つ。片手で扉を開け、傘を開く仕草をする。その目に映るのはいまだ透明な雫であったが、『傘を開き切った』ときには、彼の肩を濡らすものはなかった。かわりに、『開いた傘』が降り止まぬ雨を弾いている。
    先ほどまでただの杖であったそれは、屋外において彼の能力を発動するための道具になる。水の傘の軸となり、その雨足から身を隠してくれるのだ。

    工房に休憩中の札をかけ、裏へと回る。雨を弾く生物の皮と竹の葉を敷き詰めて作った屋根の下で、可憐な花たちが身を寄せ合って咲き綻んでいる。
    色とりどりの花たちは、彼が狩りを行った各所で根ごと種ごと持ち帰って育ててきたものであった。ガーベラ、ラベンダー、グローブ、マーガレット。他にも地面に直接植えられているものもある。イチジクやブルーベリー、紫陽花など。本来季節も種類も異なる花たちは、この世界で順応するためにその花を咲かせる時期が混同してしまったようで、それが少し寂しかったりもする。

    室内へ入り、日暮は傘を閉じた。そのまま柄の一部をくるくると捻ると、ぽんとその部分を取り外した。中には並々と透明な水が入っている。
    鼻先に近づけてくん、と匂いを嗅げば、案の定何の匂いもしない。そのまま筒を傾け、土が乾いてしまっているところへ水をやっていく。粗方の花たちに水をやったところで、服が汚れるのも気にせずに膝を地についた。

    「綺麗に咲きましたね、いい子」

    花弁にそっと触れると、彼の声に応えるように花がふわりと揺らいだ気がした。

    「さて、と」

    ゆっくりと立ち上がり、膝についた土を軽く手で払い、温室の机に置いていた小さな鞄の中身を確かめる。そこには規定値より多く入った血清のシリンジが2本と、包帯が1巻、それにスミレの砂糖漬けの入った小瓶。小瓶を取り出し、中身を1つだけ口に放り込む。花の香りが優しく鼻先を掠めて行って、その甘さに思わず笑みがこぼれる。

    砂糖漬けはよく作っていたが、最近一方的に知っている人の目の色にとても似ていて、なんとなく最近はスミレばかりを作ってしまっている。優しい紫色に、ほんの少し赤みが混ざって、それはそれは綺麗なんだろうな、なんて思いながら。
    日暮が彼を知ったのはレイナーの狩り募集に混ざっていた参加レイナーの顔写真だったから、向こうがこちらのことを知ることはない。だから、今はまだ一方的に気になっているだけなのだ。偶像崇拝というと規模が大きすぎてしまうが、まだ若いのにその力を正しく使い、この世界で生きていっているというのがなんだか彼をより魅力的にしているような気がした。

    「いつか会う機会が…あるでしょうか」

    どんな声でどんな話をするんだろう、とか。
    あの顔が綻ぶのはどんな時なんだろう、とか。
    怒ったりするんだろうか、とか。
    好きなものは何なのだろう、とか。
    ……誰か好きな人はいるんだろうか、とか。

    そんなことを考えるうちに、いつもスミレの砂糖漬けが山のようになってしまう。そのたびに己の過去のようにはけしてするまい、と誓うのだ。



    日暮は異性愛者ではない。
    ただ、物心ついてから好きになる相手が悉く同性であっただけで、その性別に関しては特に何も思うことはなかった。心が通じた相手を心底愛し、慈しみ、その意志を尊重した。ただこの世界は残酷で、いとも簡単に彼から愛を奪い去っていく。
    珍しい花を見つけたからと、彼のために外へ取りに出かけた男はその姿を大きく変えて、彼の元へ帰ってきた。

    『……タ、ダイマ』

    顔の半分以上、体はほぼ欠損した状態で、崩れた腕とも指とも言えぬ塊に似つかわしくない眩しい橙の花を携えて、それは日暮の前に立っていた。
    ぼとぼとと体から泥を落としながらも、ずいっと花だけを彼に差し出していた。

    震える手で花を受け取れば、『ヨカ、…タ』とだけ発して事切れた。ヒトは雨に耐えられない。そんなことわかっていたはずなのに、大した装備もせずに行ってしまった。あまりにも楽しそうに出かけていったのを引き止められなかったのだ。

    彼の遺体が下手に生き返らないよう、ナイフでとどめを刺す。大した残骸も残っていなかったのもあり、小さくなった彼を腕の中へ閉じ込め、家から少し離れた緑地に穴を掘った。そこへ彼を横たわらせ、また再度土を盛る。命が尽きるその時まで、彼は日暮に花を渡すことだけを願っていた。
    その彼の意志を尊重したことが悔しくて、辛くて、嬉しくて、寂しかった。
    暗い穴へ完全に土を盛り、近くに生えていた野薔薇を添える。

    「…綺麗な花、ありがとう」

    その声に応える者はもうおらず、その背にはただひたすらに雨が降っていた。






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