アモンとお昼彼女は大きなスプーンでパクパクと夢中になって食べ進めて、それからハッとしたように顔を上げてオレをみて破顔する。
「んまぁい〜」
「よかったっすね」
「とろとろオムライス大好きなの。ホワイトソースがたまらんよ!あもぴもパスタじゃなくてオムライスにすればよかったのに!」
オレはホワイトソースととろけたチーズにデミグラスソースがたっぷりの彼女の前のオムライスを見て、自分の目の前のこってりとしたカルボナーラをフォークで巻き取る。
「いいんすよ。パスタの気分だったんで」
カルボナーラも良いもんっすよー、と適当に返事しながら口に運んで咀嚼する。もったりとした甘みとコク。
「じゃあ一口あげる。一口あげるね」
彼女はスプーンを不器用ながらに掬って一番とろけてソースが混じり合った美味しそうな部分をケチャップライスと一緒に掬い取り、その上から更にホワイトソースをオムライス本体の上から抉るように掬った。それから笑顔で「はい、あーんして!」とスプーンを差し出してくる。
少し首を伸ばして一口でそれを食べると彼女のわくわくした顔。オムライスの味は置いといて、自分の分の好物を減らして、一番美味しいところを掬ってくれるキミの愛がオレは本当に好きだ。
「美味いっすね。さすが看板メニュー」
「ね、パスタも一口」
「はい、どうぞ」
オレの手の先からパスタを食べてむぎゅむぎゅと頬張る姿がかわいくてじっと見つめていると、彼女は視線に気がついて口を押さえながらもニヤけたのがわかった。
「おいちいね」
「そうっすね。キミが食べさせてくれたから余計に」
彼女ははにかんでアイスティーをストローで飲む。ストローを支えた細い指の内側の白くて柔らかそうなこと。そこが柔らかいのを実際に知っていること。
「あもぴったら、すぐそんなこと言うんだからさ。恥ずかしいやつめ」
「オレといると恥ずかしいっすか?」
「そうじゃなくて……もう。思ってもないでしょ!」
「どうでしょう。オレも傷ついたかもしれないっすよね?」
「その顔してる時はわたしにもっと恥ずかしい思いさせたい時だ!」
「さて。よくわかんないっす」
とぼけて見せると彼女はそれ以上突っ込むでもなく「うへへ」と笑った。オレの言葉で、身体で、ドキドキするのが好きなくせに。
食べ終わって少し飲み物を飲みながら談笑した後会計を呼んで席を立つ。彼女に財布を出させないように言い含めたのはオレだけど、相変わらず気まずそうにしているから可笑しくて吹き出しそうになる。
だけどそんな恥ずかしがり屋の彼女は店を出る前店員に、「美味しかったです」と言って頭を下げた。そんな彼女に合わせてオレは「ごちそうさまです」と付け足した。
ホールスタッフのバイトらしき店員は少し驚いた顔をして会釈した。
彼女はすぐ振り向いて店外に出ると「美味しかったね。予約してくれてありがとね」とオレに言った。
「キミの為ならそんなことぐらい訳ないっすよ」
彼女は「やだもー!」と言ってオレの背中をぱしぱし叩いてから満足げに店をもう一度見て、「店員さんに美味しかったって言えてよかった」と呟いた。オレは「そうっすね」と同意したけれど、内心では少し妬けた。
飲み物を飲むときに平気でテーブルに肘を突くくせに「美味しかったです」を欠かさない彼女から寵愛されるオムライスが少し妬ましくて。でも彼女のそれがかわいくて。どうしようもない浅ましい独占欲。
それを滲ませながら彼女の手を自分のそれと絡めると、彼女は楽しげに笑って手をブンブン振った。その子供っぽくてたのしいねと言わんばかりの顔と、たった今点滅してる信号を渡らずに止まったキミの大人っぽさがたまらなくて、オレはキミに傾倒していくばかりなのだ。