幸いよ、悲劇の上に咲く花よ 誕生日の行事性は年を降るごと失われ、還暦を迎えてからは加齢するにつれて再び祝われ始めるという不思議なところがある。二十代後半のシライに当てはまるのは前者だ。二十代の終わりが指折り数えて近づく……などと考えてしまうのは、弟子が執拗に「おじさん」と呼んでくるせいかもしれない。それに、誕生日祝いの記憶自体も遠いものだ。なにせ学業をそれなりに収めて早々、巻戻士として就労した身だ。親以外に誕生日を祝う人物もいない中、単身2087年に来ていれば縁遠くもなろうというもの。
巻戻士本部における出生データは機密情報だ。特にシライのものともなれば、調べるだけでも各所に連絡が飛ぶ。同僚から雑に祝われることもないまま何年も勤務しているのだ。クロノを鍛えている時など、忙しすぎて気がついたら4月も半ばになっていたこともあるほどだ。
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