祝え、存在の忘却を CASE999は攻略された。しかし、本来の歴史通りには戻らなかった。クロノはトキネを助け出したが、最後に時計の面の男は正史という影を落としたのだ。
──本来、2059年でクロノは死んでいた、と。
ここに矛盾が成った。クロックハンズの介入によって死ぬはずのクロノは生き、トキネが死んでいた。それを解消したのは本来死んでいるはずのクロノだ。
正しい歴史に戻れば最後、CASE999は再び未攻略状態に戻り、クロノは死亡、多数のタイムパラドックスが発生する。無論、この任務に出る前にその可能性は十分に議論されていた。
結論から述べると、クロノはタイムパラドックスを回避した。そのために多くの研究費と人材が費やされた時間干渉を断つ部屋へと封じられることで。今後、時間干渉技術が発展し、タイムパラドックスを防ぐ別の手段が開発されるまで、クロノはこの部屋から出ることはない。
その弊害は(クロノ当人の人権や精神影響を無視しても)いくつかある。その最たるはトキネの死を回避した時間軸のクロノと、14歳特級巻戻士のクロノが異なる年齢で2087年に存在することだろう。また、クロノという人物の戸籍も、異なる年齢の……本来の時間軸で生きるクロノに所属することになってしまった。特級巻戻士クロノは巻戻士本部のデータベース上にしか痕跡のない影となった。
これは仕方のないことなのだ。天秤の両方の皿を沈まないようにするためには、下から誰かが支えなくてはならない。クロノはトキネと過ごす自分の姿を時折目蓋の裏に描いて、差し入れられる本を読んだりしながら、過ぎる時を肌で感じるだけの日々を送らされている。
礎の部屋に、何人もの巻戻士が出入りを繰り返す。