【虎若、一年生】
最初はまた変な先輩がきたって思ったけど、ぼくは火縄銃で先輩は火器全般が好きという共通点があって、共に行動することが多かった。
火器や火薬の知識は自慢するだけあって豊富だし実力もある。やっぱり変なところもあるけど、最近のぼくは田村先輩と一緒に練習する時間がわりと好きだ。
【虎若、二年生】
「田村先輩って前から虎若のこと虎って呼んでた?」
田村先輩に呼び止められて少し立ち話をした後、ふいに隣にいた団蔵が疑問を口にした。
「呼びやすいんだって」
ふ一ん、と団蔵はそれ以上の興味をなくしたようだったけど、ぼくは田村先輩にそう呼ばれるのは少し照れくさいけどなんだか特別みたいで嬉しい。
【三木ヱ門、六年生】
新学期早々虎若から来年の火薬免許試験に向けて勉強を見てほしいと頼まれた。
結局試験は元通りになっていたが、三年の今から勉強しておきたいらしい。まぁ今や火薬の知識についてはぼくが学園一だからな。頼りにするのは当然のことだ。何だよその顔は。ぼくが教えてやるんだ、落ちるわけないだろ。
【虎若、四年生】
念願の火薬免許試験。
田村先輩に去年一年みっちりしごかれたおかげで自信があったのに、学園長先生のおもいつきで試験方法が変わってしまった!
それでもばっちり合格できた報告とお礼の手紙をすぐに送った。先輩に届くのはもう少し先。すぐに会って伝えることのできない距離にはじめて寂しさが生まれた。
【三木ヱ門、卒業後二年目】
つい先日夏休みが終わったばかりでもう秋休みだ。帰省する必要ないのに虎若は帰ってくるという。そして帰宅した虎若に面食らった。嘘だろ。視線を合わせるのに少し見上げなければならない。夏まではまだぼくが目線を下げていたんだ。
「先輩約束しましたよね。背を越えたらって」
逃げ場はもうない。
【三木ヱ門、卒業後三年目】
「田村先輩」
元後輩の声に振り返る。大きく手を振る姿はとうにぼくより背が高くなったというのに、出会った頃のままのようだ。
「虎。外で先輩はやめろって言っただろ」
「先輩こそ村の人たちに聞かれたら怒られますよ」
「ぼくがそんなへまするわけないだろう」
顔を見合わせ笑う。このやり取りもあと2回。
【虎若、卒業】
ようやく毎日田村先輩と会えると胸を躍らせていたのは随分と認識が甘かった。
学園にいる間は身分とか立場の差というのが無かったし、ぼくがまだ生徒である限り先輩は勉強係ということで見逃してもらっていたようだ。
改めて自分が佐武を背負う身だということを思い知らされた。せめてもう一度、虎と。
【三木ヱ門】
海も陸上も封鎖きれた上、物量と人員の差はどうしようもなかった。自決を覚悟したが学園の関係者たちが手を回したようでぼくも虎もその前に生け捕りにされた。虎は無念だろうがぼくは虎が生きててくれて嬉しい。なあ虎、今晩福富屋の船が出る。幸い見張りもいない。ぼくと海の外を見に行かないか?