第一印象はお互いサイアクだった。
そう言い切れる程にはハッキリと覚えているし、そんなに時間も経っていない。たった1年ちょっと。500回の夜すら越えていない。
最初に違和感を感じたのは、いつも半袖な彼がとうとう長袖に腕を通した頃。いつも通りからかって、いつも通りの悪態が返ってきて。普段と変わらないやりとりの筈だったのに。ただ半袖が長袖に変わって、その日は偶然髪をパトロールの直前まで結んでなかっただけ。パトロールに出るときにはいつものように結んでたし。
あれ?と思った頃にはもう抜け出せないところまできてたんだと思う。そのときはまだ気付けなかったけれど。
例えばシャワールームから出てきた姿だったり、ホラー映画鑑賞会後お決まりの「夜中のトイレついて来い」だったり、キースの作ってくれたディナーを美味しそうに食べる姿だったり。キースとディノのアカデミー時代の写真を一緒に見せてもらった時だったり。
ハジメマシテの挨拶を交わした日から幾度となく見てきた姿なのに、妙に目について、目で追いかけちゃったりして。
案外人をきちんと見ているメンターと勘のいいメンター、それぞれに生暖かい目線を送られて、その度に否定と少しの意趣返しはしたけども、まぁ、自覚するのは思ったより早かった。
「何でだろうねぇ」
「ん?」
「何でもないよ、コッチの話」
自分のベッドの上で大事にしているギターを手入れしている背中に、独り言を投げかけてみる。面倒だなんだと言いつつもちゃんと相手をしてくれるのを、俺は知っている。
「今ギターの手入れしてんだから邪魔す」
「ところでおチビちゃん」
「ンだよ邪魔すんなって言ってんだろ」
その証拠にほら、ちゃんとこっちを見てくれた。凄く嫌そうな顔してるけど。
「俺、どうもおチビちゃんのことが好きみたいなんだよね」
「そーか……は?お前何言っ……え?」
「アハッ!分かりやすく動揺してる」
顔を真っ赤にしてあたふたしちゃって。それでもギターを落としたりしないのは流石だよね。
大事にしてるもんね、その、ビッグベンJr.?
「おチビちゃん」
「ピッ」
「ね、俺のことキライ?」
「そっ、そんなっことっ!」
「じゃあ、好き?」
「すっ!!き、とか!そういうんじゃ!!」
「だったら」
これから積極的にアピールしていくから。たくさん居たどんな彼女にも見せたことがないような、本気の俺を見せるから。
「覚悟しててね?おチビちゃん」