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    k_ame00d

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    蓮晶
    健全なR15くらい

    「指の付け根のこことか、ダンスでもよく使う部分だから効くと思うよ」
    「う………」
    ベッドの上、無防備に仰向けになったままの俺の足を掴んで、彼は慣れた具合に足裏を押さえて言った。腹の上に置いた手が自然とシャツの裾を掴んで遊び出す。土踏まずから来る感覚は少し痛くて、気持ち良い。身体の力を抜いて深く息を吐くと、水底に沈んでいく鉛になったような気分になれた。

    彼は毎日、寝る前にストレッチをする。それから一通り身体をほぐし切った後はマッサージも。特にバレエを主軸に踊るダンサーには足のマッサージは欠かせないらしく、のびやかに手脚を曲げたり広げたり、そうしてシーツの擦れる音と一緒にアロマオイルの香りが部屋を漂い始めるのが、彼のルーティンの合図だった。
    「それ、効くの?」
    興味のないふりをするのも飽きてきたある夜のこと。いつものようにベッドで寝転びながらゲームをしていた俺の一言に、彼は伸ばした足先にぴたりとつけた額を持ち上げた。
    「やってみるかい?」
    「やり方わかんない」
    「大丈夫、蓮太郎は横になっているだけでいいよ」
    乱れた前髪を整えながら予測していたと言わんばかり、彼は軽やかに起き上がり俺のベッドへやってきては、慌てて折り曲げた脚の分だけ空いたスペースに「失礼するよ」と正座してみせた。何の躊躇いも遠慮もなしに、骨張った足首に指が這いずる。
    「力を抜いてリラックスして」
    最初は止める気のなかったゲームも仰向けの状態で足を持ち上げられた途端、意識が足先へと移動し、コントローラーは手から自然とすべり落ちていた。親指の付け根辺りをぐりぐりと圧迫し弄ばれている感覚が、次第に強張った背筋を緩やかにほぐしていく。
    「これって肩こりとか治るツボあるかな」
    「さあ…俺が知っているのはバレエに使う部分のほぐし方だから、ツボはそこまで詳しくはないんだが……その肩こりはパソコンゲームのしすぎじゃないのか」
    「まあいいや」
    流石にやってもらっている身分で余計なお世話だなあ、とは口には出せなかった。ただ唇を噛んで不満をすり潰す俺を宥めるためなのか、その時はやけに優しく甘く名前を呼ばれた気がした。
    「蓮太郎」
    「ん?」
    「気持ちいいかい」
    「んー……」
    「こういうのは毎日続けることで効果が出るんだ」
    「うん」
    「気に入ったなら、毎日してあげてもいいよ」
    「本当に?」
    「もちろん」
    「……考えとく」
    天井を見つめたまま漠然と濁した答えを呟いたら、彼は珍しく黙りこくったまま手を動かし続けていた。わざと焦らしただけなのに機嫌を悪くしたのだろうか。異様に静かな秒刻がまばたきだけを加速させていく。唇が乾き切る前に何か言ってしまおうと口を開いた瞬間、すっかり油断しきっていた足の裏に激痛が走った。
    「いっっっ………!!!」
    叫びよりも先に腰が浮いてしまい、反射的に脚をばたつかせていた。痛みを堪えきれず滑稽にも腰を捩じれば、上半身だけうつ伏せになって声にならない声を枕へと押し付ける。すっかり忘れていた、今日の星座占いの最下位がここで効いてきたのかもしれない。
    「そ、そんなに痛かったかい?すまない、手加減したつもりだったんだ」
    「っ……」
    まだじんと痛みがそこに居座って言葉を捻り出す気力も湧かない。口を開いたらどんな恨み言を吐いてやろうかと、細めた目尻に情けなく滲む怒りを枕で拭い切った。さっきまでの恋人ごっこみたいな時間は煙のように消え失せて、残ったのは不機嫌そのものの俺の屍だけだ。それでも彼は心を擦り減らしたように声を上ずらせ、懲りずに拾い上げたくるぶしへ指を沿わす。それは泣く子をあやす大人の優しさを思わせ、俺の無反応という抵抗も虚しく引き寄せられてしまった。
    「蓮太郎、ごめん」
    「あっちいって」
    「わざとじゃないんだ」
    「わざとだったら蹴り飛ばしてる」
    「…許してくれるまでここにいるよ」
    すっかり不貞腐れた俺を憂う悲しげな声色と一緒に、ふわりと足先に温かい何かが触れては離れた。柔らかくて滑らかで、熱い息遣いが肌をくすぐる快感がぽつりぽつりと花開く。枕に押し当てた視界では彼がどんな表情で何を思っているのかさえ検討もつかない。けれども視界を塞いだ分だけ研ぎ澄まされた触感が、今俺の爪先で何が起こっているのかを否応なしに教えている。
    「蓮太郎。もう痛くしないから、こっちを向いて」
    何度も押し付けられた唇は俺の性感帯を焚きつけようと躍起になったみたく熱かった。血液が全身を巡るよりも生生しく、はっきりと欲情が下から上へ、脳へと這い上がる。こんな人狂わせなやり方はどうか全て彼の計算で、陰謀であってくれ。誰も知らない、俺のためにだけ向けるしたたかな誘惑か、そうでもなければもう青臭い俺の勘違いだと認めてもいい。顔を上げた先にいる彼はどうせいつもみたいに心配性を発揮して、不安に満ちた瞳でこちらを覗いているんだろう。今はただ湧き上がるこの空腹感を気づかれないように振る舞うことで精一杯だ。
    恐る恐る起き上がり光の指す方へ目を向けた。伸びた脚の先を目で追いかけ、彼のシャツから覗くデコルテから首筋、やがては口許へと辿り着く。見るからに火照った頬が林檎のように熟れている光景に俺は一瞬瞼を見開いて、喉の渇きを一層実感するしかなかった。俺の想い知らぬ間に、彼は一体いつから恍惚と身を持て余していたのだろう。ゆっくりと熱い右頬に足の裏を這わせ、もっとこっちへ、こっちへと胸の奥で唱える。距離が近づく間互いに目を反らす暇などなく、彼が俺の行儀の悪い足をそっとシーツへ降ろすのと同時に、俺の伸ばした指がシャツの襟を少し強引に掴んでいた。色素の薄い唇がよりはっきりと音を立てて振ってくるのを今度は離さぬように喰らいつく。品が良いというか夢見がちというか、彼の愛情表現は時に大胆で少々回りくどい。それでも性欲なんてイメージからは程遠い彼が、こうして藁にもすがる思いで俺の唇を塞いで、下手な息継ぎを交わし酸素を分け合っている。その事実だけで十分だった。

    「さっきの考えたんだけど、毎日って欲求不満すぎない?」
    なんて、服を脱がす合間つい茶化してみたのが良くなかった。きっと「あれはマッサージのことで、そういう意味なんてない」とか必死に首を振るんだろうと想像していたのに。ごそごそとシャツの裾から顔を出した彼の表情は見慣れないほどぎこちなく赤らんでいて、あからさまに目を合わせまいと視線を下げたあと情けなく謝られてしまった。
    「はしたなかった、と自分でも思っている。だからさっきの話は忘れてくれ……」
    すっかり調子の狂った様子の彼は訳もなく前髪を少しかきあげて、無意識に唇を噛む仕草は妙に色っぽくそそられた。
    「俺、毎日でも抱けるよ。あんたのこと」
    かっこつけて平然と呟いてみせたけれど、本当は生唾が喉に引っかかってそれどころじゃなかった。
    遠くから誰かの弾くピアノの音が聴こえる。壁一枚向こうにはいつだって誰かが自由に、当たり前に生活しているというのに。俺だけが今日もこの仕掛けられた陰謀に嵌まって、最新のゲームもクリア出来ていない。
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    k_ame00d

    DOODLE蓮晶
    健全なR15くらい
    「指の付け根のこことか、ダンスでもよく使う部分だから効くと思うよ」
    「う………」
    ベッドの上、無防備に仰向けになったままの俺の足を掴んで、彼は慣れた具合に足裏を押さえて言った。腹の上に置いた手が自然とシャツの裾を掴んで遊び出す。土踏まずから来る感覚は少し痛くて、気持ち良い。身体の力を抜いて深く息を吐くと、水底に沈んでいく鉛になったような気分になれた。

    彼は毎日、寝る前にストレッチをする。それから一通り身体をほぐし切った後はマッサージも。特にバレエを主軸に踊るダンサーには足のマッサージは欠かせないらしく、のびやかに手脚を曲げたり広げたり、そうしてシーツの擦れる音と一緒にアロマオイルの香りが部屋を漂い始めるのが、彼のルーティンの合図だった。
    「それ、効くの?」
    興味のないふりをするのも飽きてきたある夜のこと。いつものようにベッドで寝転びながらゲームをしていた俺の一言に、彼は伸ばした足先にぴたりとつけた額を持ち上げた。
    「やってみるかい?」
    「やり方わかんない」
    「大丈夫、蓮太郎は横になっているだけでいいよ」
    乱れた前髪を整えながら予測していたと言わんばかり、彼は軽やかに起き上がり俺のベッ 2909

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