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    なんでも許せる人向け

    ネタバレあり雑多 逆カプとリバはありません

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    POIPOI 3

    再掲 眞鳥さんと3年生になった明日叶ちん

    ##まとあす

    先輩後輩、同級生「明日叶ー。あーすかー」
    「…………ん……」

    体を揺さぶられる感覚に瞼をそろそろと開く。
    ぼやける視界の先に制服を着た眞鳥さんがいた。

    「……まとり、さん……? なんで……」

    昨夜は泊まってないはずなのに、どうして俺の部屋にいるんだろう。
    鍵をかけてても入ってくるのは、いつものことだから気にならないけど……。
    何か用事があるんだろうか?
    問いかけようとした瞬間、悪巧みをしている最中特有の不敵な笑みを向けられ、背筋がぞくりと震える。

    「夜這いに来ちゃいました〜」
    「よばい……っ、え……!?」

    突然の大胆な発言に驚いてベッドから飛び起きると、カーテンの隙間から薄らと差し込む陽の光に気づいた。

    「なんちゃってー。冗談ですよ」

    おはようございます、という挨拶の後、頬にキスをされて顔に熱が集まる。
    軽いリップ音と共に離れた柔らかな感触に気分が浮ついてしまうのと同時に、ある疑問も思い浮かんだ。

    「こんな朝早くにどうしたんですか……?」

    アラームを設定して枕元に置いてあった携帯の時刻を確認すると、俺が毎日起きる時間の二、三分前だった。
    俺はジョギングに行くのが日課だから早めに起きるけれど、早起きが大の苦手な眞鳥さんならこの時間帯はぐっすり熟睡中のはずだ。
    アラーム機能を解除しつつ、なぜ、どうして、と深まっていく謎に答えを示すかのように、機嫌の良さそうな声色で言葉を乗せられる。

    「いや〜。たまには明日叶に寝起きドッキリ、ってえのも悪くないかと思いまして。オレがこんな時間に起きてるなんて、びっくりしたでしょ?」
    「すごく……。こんな時間に部屋に来てるのもそうだけど、眞鳥さんがぐずらない朝があるなんて……。そっちの方が驚いた……」
    「アンタねぇ、人を子供みたいに……」

    信じられない出来事に呆然とする俺へ向けた乾いた笑いが、ふいに色気を含んだものに変わった。

    「オレが子供じゃないって、今からじーっくり教えてあげましょうか……?」

    ゆらりとベッドに乗り上げ、俺との距離を一気に詰める恋人から怪しい雰囲気を感じ取って、急いで後退る。

    「もっもう知ってます……! ちゃんと知ってるからっ!」
    「そ? なら、いいんですけど」

    くすくす笑いながら離れる眞鳥さんの様子から、またからかわれてしまったことに気づいて口を尖らせてしまう。
    熱くなってしまった頬の熱を誤魔化す為に、先刻からの疑問をぶつけてみる。

    「……どうして、こんな時間に起きられてるんですか?」
    「ふふー。どうしてだと思いますー?」

    朝早くからこんな平常運転の眞鳥さんが見られる日が来るなんて……。
    未だに驚きが止まらない。
    質問に質問を返されたのは納得がいかないけど、なんとか答えを出してみようと考え始めた。
    ベッドの縁に腰掛ける眞鳥さんと目を合わせて数秒。
    なんとなく違和感を覚えて、気づいたことを口にしてみる。

    「眞鳥さん……寝てないんだろ」

    おや、と上がった意外そうな声と表情に、予想が確信に変わった。

    「正解ですよ。実は、昨夜から一睡もしてませんでした〜。バレないと思ったんですけどねぇ」
    「目の下に少し隈があります。すぐわかりました」
    「オレの隈なんかに気づいてくれるのなんて、世界中探しまくってもアンタくらいしかいませんよぅ〜」

    なぜか妙に嬉しそうな眞鳥さんに髪をかき混ぜられて素っ頓狂な声が漏れる。
    解放されてすぐ抗議の声をあげようとした時、穏やかに笑いながら俺を見つめる視線と目が合って息を呑む。

    「青いタイを付けた明日叶を一番に見たくって、楽しみで眠れなかったんです。……なんかアンタの言う通り子供みたいですねぇ、オレ」

    内緒話を打ち明けるように囁いたと思ったら、困ったように笑い始める眞鳥さんに目を奪われる。

    今日は、俺が魁堂学園の三年生になる新学期の始まりの日で、留年した眞鳥さんとの新しい学園生活の始まりの日でもあった。
    これまでは学年が違っていた恋人と、同じ学年のクラスメートになることへの実感を噛みしめようとした瞬間。
    ふわりと大きなあくびをした目の前の彼に意識が持っていかれる。

    「あ……。やっぱり眠いんじゃないですか? 五分か十分……、いや、始業式ギリギリまででも仮眠した方が……」

    眠気を飛ばそうとしているのか、体を大きく伸ばす眞鳥さんに問いかけると、間延びした声が返ってきた。

    「まー、正直眠いですけどー……。今日は始業式だけですし。帰ってから寝ますよ」

    アンタの膝枕でうたた寝、ってぇのも魅力的ですけどねー、なんて軽い口調で言いながら立ち上がり、窓際に向かう姿を見守る。
    止まって、こっちに手招きをする眞鳥さんに吸い寄せられるように自身もベッドから離れた。

    「今日は、これを見ながら一緒に登校したい気分なんで。眠くても頑張ります」
    「これ……?」

    開かれたカーテンの先。窓の外の通学路には、薄い桃色が広がっていた。

    「桜……! すごい……。全然咲いてなかったのに……」

    昨日ジョギングに出た時や、ムッシューの散歩に行った時には蕾はつけていたものの、咲く気配はなかった桜が一面に花を開かせていた。
    雲ひとつない晴れた空の下、完全には登りきっていない太陽の光を受けて、柔らかな輝きを帯びる花と木々の光景に心が躍ってしまう。

    「昨夜、ぽつぽつ咲き始めたんですよ。まさか一夜でこんなに咲いちゃうとは思いませんでしたねー」
    「そうなんだ……。綺麗……」

    すごい、すごい、と呟く俺の隣から、静かな笑い声が聞こえてきて視線を向けた。

    「本当は、いつも通り自分の部屋でアンタを待ってようかと思ったんですけど、咲いてるのを教えた時の反応が見たくなっちゃって」

    目を細めた優しい笑みを浮かべながら、俺を心から愛しんでくれてるのが伝わる手つきで頭を撫でられて、胸が締め付けられる。
    緩んでしまう口元をそのままに、愛しい気持ちを込めて名前を呼ぶと、唇にそっと口づけを贈られた。
    触れるだけでも心地よくてたまらない蕩けそうなキスを数度交わして、擦り寄るように身を寄せる。

    「さて、と。寝起きドッキリに開花の報告もできたんで、オレは一旦部屋に帰りますね」

    朝からこうして眞鳥さんと話せている現状を嬉しく思っていたら、唐突に別れを告げられた。
    残念に思いながら口を開こうとした時、伺うように頬を指先で撫でつつ覗き込まれる。

    「ジョギング、行くんでしょ?」

    俺の日課を気にかけてくれる心遣いに胸を打たれたけれど、今は眞鳥さんと離れたくなかった。
    すぐに首を横に振る。

    「今日はいいです。……それより、これから少し……デート、しませんか?」

    気恥ずかしさに顔が赤くなっていくのを無視して、思いついたことを口にしてみた。
    突然の提案に驚いたのか、ぱちくりと瞬きをした眞鳥さんの表情が見る見るうちに明るくなっていく。

    「いいですねぇ〜。アンタから誘ってもらえるなんて、嬉しいです」
    「じゃあ、すぐ着替えます。待っててください」

    眞鳥さんと付き合い始めてから、朝は俺が眞鳥さんを起こしに行って、眠そうに身支度を整える彼を待つのが日課になった。
    そんな日々とは逆の立場になった今日という日に、なんだか新鮮な気持ちが芽生える。
    思わず小さく笑いをこぼしながら洗面台に向かっていると、「明日叶の生着替え、見ててもいいですか?」なんて、質問が飛んできて慌てて拒否した。
    俺の着替えなんて見ても楽しくないだろう……。
    悶々と考えつつ顔を洗った。

    まだ学校に登校するには早すぎる時間だ。
    朝食を食べる為に一度、寮に戻ってくるつもりだけど、何度も着替えるのは大変だと思ってそのまま制服を着ることにした。
    それに、青いタイを身につけた俺を見たくて夜更かしをしてしまうような恋人に、早くその姿を見せてあげたい。

    その一心で部屋に戻り、急いでハンガーからシャツを取って袖を通す。
    ジャケットを着る前にタイを付けようと手を伸ばし取った時、窓際の眞鳥さんから名前を呼ばれた。
    桜を眺めていたらしい彼が近づいてきたと思ったら、手の中の青をするりと抜かれる。

    「これは、オレがやってもいいですか?」
    「……はい。お願いします」

    ねだるような視線が可愛く見えて、彼の望むままに甘えてみることにした。
    眞鳥さんのタイを俺が留めるのは日常的に多かったけど、俺のタイを留めてくれる眞鳥さんの姿は記憶にないせいか、少しこそばゆい。
    慣れたようにクロスタイを整える手元を見つめていると、留め終わった箇所にぽん、と手を置かれた。

    「はい、完成」
    「ありがとうございます、眞鳥さん」
    「いえいえ〜。……素敵ですよ、明日叶」

    うっとりした響きと同じような蕩けた微笑みを見た直後、流れるように額にキスを贈られて胸が高鳴る。
    壁に掛けていたジャケットを手渡され、そのまま着るとボタンも留めてくれた。
    眞鳥さんと俺の胸元にある同じ青色のクロスタイからは、彼の選択と自分の成長を感じられる。
    湧き上がってくる想いのままに、眞鳥さんの手を取って部屋を出た。





    自室の窓から見ていた道まで進むと、辺り一面が桃色に包まれていた。
    時折、控えめに吹く風に乗ってひらひら散っていく小さな花びらが可愛らしい。
    甘く香る花の匂いを胸いっぱいに吸い込み、俺たち以外に誰もいない静かな道を並んで歩く。

    「日本の桜、久しぶりに見ました」
    「こっちのはいいですよねー。オレはここで見るの四年目ですけど、アンタと見てる今年の花が一番綺麗だと思います」

    視界に広がる桜の色以上に優しい眼差しで見つめられて、思わず立ち止まりそうになる足をなんとか動かした。
    ふと、部屋を出た時からずっと繋いだままだった手に意識が向く。

    「眞鳥さん、寒くないですか?」
    「んー、さすがに朝は冷えますねぇ……。でも、大丈夫。アンタがこうしてくれてるおかげ」

    重ねた手に力を込められたと思ったら、じゃれるように身を寄せられる。
    触れ合った腕からほんのりと体温を感じた気がした。
    寒がりの眞鳥さんが冷えてしまわないように、俺の方からもぎゅっと握り返す。
    嬉しそうに綻ぶ笑顔を見て、俺の身も心も暖かくなっていく。
    歩幅を合わせて隣を歩いてくれる眞鳥さんと、美しく咲く桜を交互に見ながらゆっくりと歩みを進めていると、同じように花を眺めていた彼が口を開いた。

    「オレね、本当は呆れられると思ってたんです」

    独り言みたいにぽつりと紡がれた言葉の意味を考える。

    「……もしかして、留年のこと……、ですか?」
    「そ。真面目なアンタには嫌な思いをさせちゃうんじゃないかって。これでも結構、不安だったんですよう?」

    口角は上がっていて軽い口調なのに、いつも俺にだけ向けてくれる穏やかだったり、不敵だったりする笑みが今は消えている。
    見ていて落ち着かない微笑に胸がざわつく。
    言葉をかけようとした時、でも、と力強く遮られた。

    「オレが留年しようとしてるって知った時のアンタはオレらしい、って。留年が確定してるって知った時は、オレと同級生になるのが楽しみだ、って笑ってくれて……本当に嬉しかった」

    立ち止まった眞鳥さんには、心からの安堵と喜びを溢れさせた笑顔が輝いていた。
    辺りを舞う花びら以上の美しさを持つ彼に暖かな想いのこもった瞳で見つめられる。

    「自分のやりたいことを認めてもらえるのが、こんなに幸福だなんて初めて知りました。……明日叶が教えてくれたんです」

    今まで一族の為に、周りの望む通りに生きてきた眞鳥さんは、俺の想像以上に自分で選択することは許されなかったんだろう。
    そんな彼が自分の考えと願いを持って選んだ選択は、とても勇気がいるものだったに違いない。
    俺の言葉に喜び、笑ってくれる眞鳥さんがどうしようもなく愛しくなって、衝動的に抱きしめる。

    「眞鳥さん……。これから、やりたいことができたらなんでも俺に言ってください。俺が全部、受け入れます」

    俺の背がもう少し高ければ眞鳥さんを安心させるように、包み込むように抱きしめられたのにな……。
    頼りない自身への不満を感じつつも、回した腕に力を込める。
    首元に顔を擦り寄せると、頭上から笑みが溢された。
    眞鳥さんの方からも力強く抱きしめ返されて、心が弾む。

    「……やりたいことって、えっちなコトでもいいんですか?」

    するりと腰を撫でさする手つきと共に問われ、一気に身が固くなってしまう。
    全身に熱が集まっていくのを感じながらもしっかり頷いた。

    「が……がんばり、ます……」

    本当はすごく恥ずかしいけれど、眞鳥さんにはのびのびと自由にやりたいことをやって、生きてほしい。
    そんな気持ちで受け止める覚悟を決める。
    緊張で震える声のすぐ後に、上機嫌な笑い声と共に頭に頬擦りをされて、くすぐったさに体の力が抜けていった。

    「留年初日に良い思い出ができちゃいました」
    「まだまだたくさんできます。これから一年間、学園を卒業するまでいろんなことがあるはずだから」
    「そうですねぇ。ふふふ、楽しみ」

    眞鳥さんと視線を合わせると、この上なく幸せそうな笑顔を浮かべてくれていて、釣られるように俺の頬も緩んでしまう。

    「明日叶。また一年、よろしくお願いします」
    「よろしく、眞鳥さん」

    眞鳥さんと出会った当初の先輩と後輩らしくない、と思った自己紹介を思い出す。
    学年が違った俺たちは、今日から同じ学年の同級生になった。


    「それじゃ、早速。新しく良い思い出、作らせてもらっちゃいます」
    「え? っん……!」

    不意打ちで唇を甘く重ねられて肩が跳ねてしまう。
    でも、そんな驚きは一瞬だけで、すぐにイタズラ好きな眞鳥さんらしい言動に愛しさが溢れてきた。

    咲き誇る桜がそよそよと揺れる音を聞きながら、そっと瞼を伏せた。
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