部室で勉強「栗山って勉強どうしてるん?」
映画を見る部の活動は受験勉強がひっ迫してきても続けられた。
部長である栗山がいなければカギは閉まっていたし、部活動は休みだ。
出場する筈だった合唱コンクールよりも狂児の無事を確認することを優先した聡実は図書室で合唱部の部員と会うことも気まずく感じ、解らない問題があった時の相談相手に悩んでいた。
「勉強?」
栗山はスクリーンから目を逸らすことなく聞き返してくる。
「うん。受験勉強。ちょっとわからんとこあって」
「先生に聞いたら?」
それは確かなのだが。
「タイミング悪いんかいつも聞き損ねる」
もしくは他の生徒の質問に答えていたりとどうも上手く質問できない。
「僕は、」
「うん?」
「ここで勉強してる」
塾も行ってるけど。もう一回見直したかったビデオ流しながら。
もう再生できないと思っていたビデオテープをもう一度といわず再生できる機会が出来たから、時間が惜しいので手元を明るくして勉強しながら見ている。
「ええな」
「せやろ。岡もここで勉強したら?」
そしたら教えあえるやん。
お互い勉強は出来る方だ。苦手教科を教えあうことも可能だろう。
「ええの?」
「ええよ」
そこから一緒に勉強することになった。
ビデオは再生したりしなかったり。
気分で変えたがいつからかビデオは流されなくなった。
勉強に集中するためかと聡実はどちらでも良かったので何も言わなかったし聞かなかった。
◆◇◆
推薦の合格発表が終わり、二人とも希望校に合格していた。
それを伝え合った日。
「岡に内緒にしててんけど」
「うん?」
そっと出されたスマートフォン。栗山が操作すると流れ出したのは聞き覚えのある歌声。
「え? これ…」
「岡、調子良ぅ問題とけてたりしたら鼻歌歌ってたん」
「え、そうなん?」
「そうなん」
流れている鼻歌は合唱曲だったり、狂児との思い出の曲もあった。
「照れるわ」
無意識に二人きりとは言え鼻歌を歌っていただなんて。
すっかり歌うことから離れていたのに、今更こんな風に自分の歌、というか鼻歌を聞くことになるだなんて。
「これ、家で勉強するときに良ぅ流しててん」
「余計恥ずかしいんやけど」
残されているのも困るな。と思った。それが表情に出たのか。
「消した方がいい?」
本当は消さずにいたかったのかも知れない栗山から言わせてしまった。
「うん。消してほしい」
もしかしたらバックアップは取ってある可能性があったとしても、聡実に話してくれたのだ。その正直さに他に聞かせないなら栗山がこっそりと持っているぐらいは目をつぶろう。
栗山はスマートフォンを操作して聡実の鼻歌のデータを消した。その後も映画を見る部の部活は続き、二人で卒業の日まで部活を続けた。
「高校行っても元気で」
部室をあとにする聡実を見送る栗山に言って聡実は部屋を後にした。