jhonshi
見返りを求めるなんて!
俺が視力を失った時 世界が終わったと感じた 文字通り全て見えなくなった。目をえぐられても息をしていられることが信じられなかった。
意識がはっきりして一番最初に聞こえた音は、ひどく悲しそうな男の声だった
「ケンシ、痛いか?」
俺の世界は終わったんだ もう何も見えない
全ての選択肢が、一族の未来が、見えない。
こんなに呆気なく奪われてしまうのか 。
次に感じたのは 傷口が染みる感覚 怖い 真っ暗だ
もうこのまま死んでしまいたかった。
「お前は俺の人生を救ってくれたんだ」
しばらくして聞こえたのは、俺の絶望とは裏腹に、真っ直ぐ 強い言葉だった。
「…けんし…………ケンシ!」
左の肩を強くゆらされ目を覚ます ジョニーが寝ていた俺を起こしてるようだ どうやらまたあの日の夢を見ていたらしい。
「……どうした」
「どうしたじゃねーよ、また悪夢を見たのか?うなされてた」
「そうみたいだ はあ、うっ…頭が痛い、セントーはどこだ」
「持ってくるよ、なあ、大丈夫だから」
俺の額にジョニーがキスをし、ベッドが軋み、軽くなった感覚であいつが言葉通りセントーを取りに行ったことが分かる。
あれから俺は、ジョニーの家に居候している。もうそろそろで1ヶ月になる。というのも、ジョニーが企画したモータルコンバットのシリーズに俳優として参加するにあたって、短期滞在用の仮の住まいが必要だった俺をジョニーが泊めてくれているのだ。 最初はモーテルで寝るから気にするなとか それらしい事を言って断ろうと考えていたが そんなのを受け入れるジョニーじゃないと分かっていたので 清く受け入れた。 ジョニーは簡単に俺の承諾を得られたことに若干驚いていた。
それからというもの、休日はほぼジョニーと過ごすようになった 昼まで眠ったり、セントーのテレキネシスなしでも生活ができるよう訓練をしたり、セントーの力に慣れたり、 2人で出かけたり 映画を見たり、時々手合わせをしたりして過ごした こんなふうに 漠然とゆっくりとした時間が流れるのは 小学生ぶりだったと思う。
小学生の時すら今より慌ただしかった。
数歩先からセントーを持ったジョニーが戻ってくる
セントーが近くにいないと時々不安でパニックになる俺に ジョニーは臨機応変に対応してくれる
「なあ、今夜はディナーを予約してあるから 夜には帰ってくるよ、それともなんか予定あった?」
「ジョニー」
「そのレストラン、ワショクも出してくれるんだ 本場の寿司職人がいるんだってさ!お前興味ある?」
「ジョニー、」
1度目の呼び掛けをわざと無視してたのがわかるくらい 簡単に押し黙る彼に俺は続けた
「…話したいことがある 丁度いい ディナーの時に話そう」
「…わかった。朝食ができてるぜ、」
「食べ物の話ばかりだな」
「偶然だよ、その顔やめろ!」
俺には自分がどんな顔をしてるか分からない。 でもジョニーが教えてくれる。
ジョニーが居なくてもできることはこの1ヶ月で増えた セントーが無くとも壁にぶつかることも減ったし、1人で着替えられる 歯磨きも、髪もとかせる 食事もひとりでできるようになった なったのにまだここに居るのは、ジョニーに引き止められたからだ。
曰く「俺がお前にいて欲しいから」そうだ。
それが誰かを引き止める最もらしいフレーズだと思っている所がこいつの面白いところだ。 初めて会った時も女性と揉めていたのを思い出し 少し笑った
ダイニングに向かうと 使用人が用意した豪勢な朝食が並んでいた。色んな匂いがする
温かいパン、フルーツのジャム 味付けされたたまご いちご、そしてジョニーの香水の匂い あれ この匂いはなんだろう ブドウかな
机はすごく大きいのにジョニーはいつも俺の隣に座っている、ジョニーも朝食を食べてはいるようだった。スクランブルエッグを小さくし、食器を鳴らしながら同業者のゴシップを話すジョニーは 話ついでに食べ物を俺の口へ運ぶ
「そんで、俺言ったんだよ、カーダシアンとは仕事しないってな、ほら前に話しただろ、あいつら…」
「ジョニー、1人で食べられる ほら」
ジョニーの手にあったスプーンを奪い、食べてみせる
「わかってるよ、俺がやりたいだけ 」
ジョニーが俺の口に食べ物を運ぶのにはもう慣れてしまった。俺がもういいと手を前に出すと、皿が片付けられる 残してないか心配だが、ジョニーはそういうのは教えてくれない。 本人が気にしてないのだろう。アメリカだとそれが普通なんだろうか。
ジョニーがいる時の朝食はいつもこうなので、実は食事もまだ難しいのかもしれない、
俺が出来てると思ってるだけで、本当は雛鳥のさし餌みたいになっているのかも ジョニーはそれを黙っているのかも 。
セントーを使ってない時はまだ時々怖い。
「ケンシ、大丈夫か?」
軽い口調だが 本当に心配してるのが伝わる
人の声色がはっきり分かることは今まで無かった。ジョニーが感情豊かすぎるだけかもしれない。なんだっていいけど、
「なあ 今朝のことだけど、 まだ俺に話す気にはならないのか?」
「…」
「ケンシ…」
ジョニーが悲しそうに名前を呼ぶ
「そんな顔するな お前は俺に良くしてくれてる 十分すぎるくらいに、これ以上は、迷惑かける訳には行かない」
「はは そーかよ 俺の隣で寝て、俺に起こされてる奴が随分慎ましいな!」
「言ってろ」
ときどき、この関係は結局どっちの都合で続いているのか分からなくなる。
「やば、今から打ち合わせなんだった そろそろ出ないと。じゃーな!」
俺の頭をくしゃっと撫で 俺の後ろを通ってジョニーが家を出ていった。
ジョニーは俺の全てを受け止めようとする
それを隠そうともしないのが、俺にはむず痒がった。
あいつが俺に与えるものに応えようとしても 俺にはそれが何かわからない。どう応えればいいか分からない。 形が掴めない いっそ俺たちがセックスとかするような、恋人同士だったら、楽だったかもと 少し考えた
ジョニーの優しさに応えたい。
ジョニーが出た後、後を追うように俺も朝の散歩に出かけた 散歩と言っても、ジョニーの家の庭をまわったり、少し歩くだけだ。こいつの家はバカみたいにでかいから それでも帰ってくる頃には1時間は経っていた。
ジョニーがいない間は俺は点字の勉強や携帯の音声操作を練習したり、いつでも戦えるようにセントーと自分を鍛えたりしていた 幸い必要なものは全てジョニーが用意してくれたので、だだっ広いリビングを壁沿いに伝えば、そこに筋トレ器具が置いてあり、自由に使うことが出来た。