無題ある天気の良い日にぼくの親友行秋は天衡山に行こうと言い出した。よく鍛錬でも通っているが……ダメだ。今日は日差しが強く、同行する行秋にどれほどの迷惑が……考えただけで恐ろしい。
それでもやっぱり断れず、連れてこられてしまった。アイスのストックは十二分、一応万全の対策はできているはずだ。
「重雲、今の気分はどう?」
「璃月港よりは涼しい気がするな。高い山は皆そうなんだろうか」
「元気そうだね。ならよかった」
ぼくの親友はいつも心配してくれる。気遣いができていいやつだ。
「行秋、ここに来た目的はなんだ?」
「ふむ……天気がよかったから眺めがいいだろうなと思って」
「いま一瞬考えただろ」
「ええと、本当は重雲を連れ出してどこかへ散歩しに行きたかったんだ」
「そうだったんだな」
正直、何の理由が無くてもぼくと会ってくれるから嬉しい。今日は商会の仕事は休みなのだろうか……? 気まぐれなやつだ。
ふと行秋を見ると、手に持っていた小包を開けていた。
「それは?」
「うちでいま新商品を開発しているらしくてね、こうやって光にかざすと……」
行秋が持っていたのは宝石のようなものだった。光にかざした循環、そこから無数の色が散らばって、キラキラと輝いた。
「すごく綺麗だな……!」
「だろう?ほら、君もかざしてみなよ」
手渡されて、行秋がしていたようにしてみる。
「ん?」
何故かさっきのようにキラキラとしないし色も出ない。
「どうしてだ……?」
もう一度光にかざしても何も起こらない。
「重雲はそうなんだ……」
「行秋?」
「……実はね、これ、近くにいる相手への思う気持ちを表してくれる宝石なんだ!」
え……?それなら行秋へのぼくの気持ちは……? そ、そんなはず……。
「重雲、大丈夫かい?そんなに悲しそうな顔をするなよ、」
「……行秋! ぼくはお前のことをとても尊敬しているし、信頼してる。ずっと好きだし、これからも好きでいる。 絶対に何かがおかしいんだ! 宝石が光らないなんて──」
「ふふ、重雲。本当にこの宝石に能力があると思う?」
「……なっ」
「そうか、重雲は僕のことが好きなんだ。その台詞を聞けて嬉しいよ」
「…………へ?……あっ!」
しまった、興奮して思わず……。って、どういうことだ? その言葉を聞けてうれ……しい……?
「行秋、いまのは」
「重雲は気づいてないかも知れないけれど、僕も重雲のことが好きだよ。ずっと昔からね」
ヘニャっと笑うその顔に、好きが込み上げてきて
「すまない、アイスを……」
「ああ、構わないよ。突然のことに気持ちが込み上げて暑くなっちゃったんだよね。そういえば最近よくそんなことが多かったよね。もしかして僕のことで頭がいっぱいになってたのかい?」
「やめてくれ……思い出してもっと暑くなりそうだ」
「おや、図星か」
「行秋…………‼︎ 」
その日は気付けば夕方ごろまで話し込んでいて、そこから見えた夕日はとても綺麗で、僕らを包み込んでいた。
璃月港に戻り、すっかり夜になっていた。
「今日は楽しかったよ。でも、もう少し話したかったな」
「流石に疲れただろう、もう寝た方がいい」
「じゃあ僕の家に泊まってく?」
「そ、それはご家族に迷惑が……!」
「僕が良いって言ってるんだから、泊まっていきなよ。それとも明日の朝早くに依頼を受けているとか?」
「そうではないが……」
「決まりだね!」
「わっ、ゆ、行秋‼︎ 」
ほら、やっぱり断れないんだ、お前の頼みは。
話をたくさんした後、温かい布団に包まれてぼくらは寝たのだった。
おわり