『かき氷』諸菱と何故か一緒に公園に居て、何故か一緒にランニングをしている。もちろん旬はシステムから出されるデイリークエストをクリアする為に走っており、諸菱は必死にこちらに合わせようとしているが、息切れを起こして一周ほどでギブアップし、手を膝に当てている。そのまま置いて行こうかと前に進んでいたが、気の毒に思えてきた旬は溜息を付きながら、諸菱の方へと戻る。
「無理についてこなくていいよ、諸菱くん」
「い、いえ、このぐらい……だいじょぶです…」
「うん、大丈夫には見えないね」
肩で息をしている諸菱に苦笑いしながら、持っていた冷たいペットボトルを額に当てると悲鳴を上げた。
「ひぇっ…!」
あまりの冷たさに諸菱は反射で額に触ろうとして、ペットボトルが当たる。旬はそのまま手を離して諸菱にあげた。
「それ、飲んでる間にもう一周してくる」
と諸菱の返事を待たずに旬は駆け出す。それを見送った諸菱は、ベンチに座ってペットボトルの蓋を開けて中の水を飲む。
「水篠さんから貰った水……」
ちょっと嬉しそうにペットボトルに対して微笑みながら待っていると、物凄いスピードで旬が一周を回ってきた。
少々汗が出ている程度で、こんな大きな公園を一周する汗の量じゃない事に若干驚きつつも
――やっぱり水篠さんは凄いなぁ…
なんてのん気な事を考えている諸菱は無意識に水を差しだすと、受け取った旬はキャップを開けてゴクゴクと飲んだ。
「あ…」
途中で気づいた諸菱は手を浮かせたまま固まり、旬がどんどん水を飲んでいくのをじっと見つめた。
「ん?」
「はわ……」
突然顔を赤くした諸菱に旬はぎょっとし近づくと旬から少しだけ離れる。
「諸菱くん?」
「う~!何でもないです!!!それより水篠さん!!!」
手を退けると耳まで真っ赤になった諸菱は大声で叫びながら旬の肩を掴んだ。
「な、何」
「暑くないですか!!」
「暑いけど…」
じゃあ!!!と大きい声で諸菱は勢いよく指をさした。その方向にはキッチンカーらしきものが止まっており何か売っている。
「かき氷食べませんか!?」
「そんなに食べたかったの?」
「ちちちちち、違うんです、ちが…」
目をぐるぐると回しながらも頭を横に振り正気に戻り、旬の腕を掴んだ。
そのまま諸菱は旬をひっぱりかき氷屋の前に着くと、先に旬にメニュー渡す。
「どれがいいですか!」
「……、このいちご練乳で」
「えっ……じゃなくて、俺は、メ、メロンで…」
店員は慌てながらかき氷を2つ作り、旬が受け取っている間に諸菱はお金を置く。
「僕が誘ったので!!!」
「まだ何も言ってないよ、諸菱くん」
メロンを受け取り氷の山を崩しながらメロンのシロップと氷を混ぜる。シャリシャリと音をさせながら食べていると、諸菱の目線は旬の口元へと行く。そして少し開いた口から舌がチラリと見えて
「ひわわ…」
「さっきからその声なんなの…」
目を細め睨む旬は、赤い色に染まったかき氷と少し垂らしている練乳が混ざったのを口に入れる。その練乳がまた諸菱には刺激が強く、口を開けたまま閉じることが出来ない。途中で物凄い顔で見られている事に気づかれ急いで食べた諸菱は頭がキーンとなり目をギュッと閉じる。
「~~~~ッ!!」
「何やってんの…」
ジト目で見てくる旬はメロンに付いているストローをグルグルと回した。
「それ、一口貰っていい?」
「」
「え?」
「い、いいいいいいいですよ」
何をそんなに焦る必要があるのか諸菱の変な反応に疑問を持ちながらも旬はメロンをスプーンで掬って口の中入れる。
「ぼ、僕も貰っていいですか?」
「うん」
恐る恐るいちご練乳のかき氷を掬い、口の中に入れて咀嚼する。正直色々緊張しすぎてあまり味は分からなかったが、諸菱にとってこの日はとんでもなく頭を使った日だった―――。
end