感情表現「水篠さん、カラーでも入れて来たんですか?」
「は?」
旬が眉を顰めて返すと同時に色が薄く赤く変化していた。さっきまで青色だった毛先が勝手に赤くなるのは、きっと水篠さんの能力だろうと一人で納得する諸菱。その様子に若干引き気味の旬の毛先は緑色に変わっていた。
「…水篠ハンター、珍しく髪を染めているんですね、毛先のみにしたんですか?」
「諸菱君にも言われたな…俺は髪、染めてないですよ」
「はい?」
毛先が青色で、染めてないと言われても納得は出来ない。最上は手を伸ばして毛先を触るが、特にタネも仕掛けもなさそうだった。
クリクリと毛先を撫でていると、段々と赤色になっていくのを目にして驚いた。
「何ですか、さっきから……」
「いえ、触り心地がいいなと……」
毛先だけを弄っていてもつまらないと思い、こっそりと項も触れば、体が跳ね、ピンク色へと変わる。
「あぁ……そういう事ですか」
「どういう意味ですか」
「いえ、僕の独り言ですので」
再びピンク色から赤色に変わった。
なるほど、この色は怒りを表しているのか。
毛先から手を離し、ニコニコの状態で離れて行った最上に、旬は首を傾げた。
ハンター協会での新年会に我進ギルドも参加する事になった。
数週間前から感情で色が変わる旬に、諸菱は外に出すのはいかがなものかと一時は参加を見送ろうと考えていたが、珍しく旬が行きたいと言いだしてしまったので、止めるに止めれず現在会場前になる。
「水篠さん、あの、あんまり色変えないでくださいね?」
「何を…?」
「何でもないです…」
何を言っても無理かと諦め、諸菱と旬は会場の中へと入る。
それぞれ高級なスーツを着たハンター達が集まり、会話を楽しんでいたが、旬が入ってきた事によって静まり返る。
「水篠ハンター、こちらです」
手を上げ、手招きする最上に気づき、自然とそちらへと向かって歩いてく。最上の周りには黒須や美濃部たちも居た。
「んん?水篠ハンターは毛先だけ色を変えたのか?いいねぇ、俺もイメチェンしてみるか?」
「アナタがすると目が痛いのでやめてもらえますかね」
「はぁ?お前の髪だってうるせぇじゃねぇか」
自身の髪に文句を言われた黒須は、赤すぎる最上に言い返す。
旬には毛先の色は見えていないので何故髪の話をされているのか分からない。もやもやとしはじめたのか、毛先はエメラルドのような色合いに変わる。
「いいな、見えやすい」
白川は旬に近づき、エメラルドカラーに染まった毛先を掴み、撫でる。
「あんまりウチのギルドマスターをからかわないでくださいよ……」
ぎゅっと旬の腕にしがみつく諸菱に白川は笑いながら手を放した。
流れにそって美濃部も毛先を触ろうとしてのがバレ、すっと背中に手を隠す。
「何所まで反応があるのか気になるな、俺は」
黒須はゆっくりと顔を近づけるが、旬は顔一つ変えずに、ただ見つめた。
髪色も変わらず、ただ距離が近いだけだった。
「……なぁんだ、なんにも変らねぇの……か………」
毛先を見ると、ピンク色になっているのが分かる。これはもしや逆鱗に触れたかと、黒須は冷や汗をかきながら旬の様子を伺う。
諸菱も今までこんなにピンク色になった所を見たことが無く、思わず腕から離れてしまった。
「………その、止めてください……からかうのは…」
「あ……いや……、その、悪い……」
毛先も耳も、ピンク色に染まったのを見てしまった黒須は、目を逸らし顔を赤らめた。
最上は後ろで笑いながら、諸菱は黒須から旬を守るために後ろへと隠した。