イグ旬 バレンタイン「イグリット」
そう呼べば自身の影は人の形から変わり、中から鎧を纏った赤いプルームが特徴の黒い影が跪きながら現れる。
名前を呼ばれるということは、それなりに重要な事なのだろうとイグリットは下げていた頭を上げると、目の前には黒色の箱に赤いリボンが付いた物がこちらに差し出されていた。
『—————————?』
旬の顔と箱を交互に見ながら、受け取っていいのかどうかを伺うと。旬は「ん」と箱を一歩前に差し出される。
イグリットは受け取っていいのだと判断し、有難く頂戴すれば旬は「もうもどっていいぞ」と影の世界へと帰らされる。
何も分からないまま戻ったイグリットはキバ達の所に戻らず、どこか物陰で赤い紐を解き、箱を空ければ中身はイグリットの兜の形をしたチョコが沢山入っていた。
兜の下からチョコを入れれば苦味と甘みがにじみ出る。
『—————————』
「ん……?」
数時間後、突然出てきたイグリットに旬は頭を傾けた。
手に持っていたものは、旬が渡した箱とはまた別で紫のリボンで結ばれていた。
「俺にか?」
『———————』
頷いたイグリットに、旬は箱を受け取るとすぐに影の中へと戻ってしまった。呼び止めようと思ったが、こちらもすぐに帰してしまった事を思い出し、旬は一人になった。
紫のリボンを解けば、それぞれの影たちの顔の形をしたチョコが入っており、一番最後には旬の顔が一粒。
「律儀だな」
そうして一粒、指輪の様な形をしたチョコを口の中へと入れた。