矛盾にて笑む/樹仙樹 死んでも霊界には、行きたくない。次こそは魔族に、生まれますように。それはどちらも心底望んだ、忍のことばだった。
霊界に行かなければ、次も何も、ありはしない。その矛盾には彼も気付いていて、けれどそうは決して、言わなかった。樹に、すべてを心底託したのだ。どちらを、選ぶか。償いのさきの遠いいつかの“次”か、それとも、嫌いなやつらに任せぬ末路か。――樹になら、彼にならすべてを一任していいと、そう信頼篤く、すべて心ゆるしたのだ。痛い、だとかつらいだとか、それを忍として言うことだけはただしなくて、それは樹に、心配されているとは承知でもなぜか、少し強がってしまったに過ぎなかった。大願果たすまで死にはしないさ、と、そう言う、代わりとばかり。そうだ樹は、すべてを承知して、それでもなお忍のそんな在りようさえ、すべて、まるきりあいしていた。忍は、それにすこし、あまえていたのだった。
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