エンドロールはまだ早い Scene1.
「――ねえ、早く!」
熱気に湧くステイプルズ・センターのメインゲートをくぐりながら、私は振り返って恋人の名前を呼ぶ。試合開始まではもう少し余裕があるが、もう一秒だって我慢出来そうになかった。くしゃくしゃに皺がつきそうなくらい強くチケットを握り締める私を、恋人、――オリバーは、仕方ないなと言わんばかりの笑顔を浮かべながら見ていた。オリバーは、留学中に知り合った同級生だ。私よりも身長が三十センチ高くて、日焼けみたいなそばかすと癖のあるブロンドが可愛らしい人。
オリバーは大学のバスケ部に入っていて、ポジションはスモールフォワードなのだと知り合ってすぐの頃に聞いた。流川楓と一緒だ。だけどどうやら、オリバーは流川選手があまり好きではないらしい。今日だって、ちょっと険しい顔をしている。アリーナ二階の指定席に腰を下ろして、私は眉間に皺を寄せているオリバーの顔を覗き込んだ。
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