【ギルレイ】貴方の心臓が欲しい 求められるまま、まだ青い果実を差し出した。
けれど、それは間違いなく、自ら望んだ行為だった。
冷えた指先が背を撫でた。まだけだるさの残る身体に微かに灯った熱が煽られるように温度を上げる。
ひどいひとだ。心を受け渡す気はないくせに、いつだって指先は愛しむような手つきで触れてくる。いいや、本心で、彼は自分を愛しんでくれているのだろう。きっと。だから余計に質が悪い。
かぶる吐息が、たった数時間前の情景を思い出す。
生理的な涙。潤んだ双眸に絡む眼差しは間違いなく自分のはずなのに、求められる姿は異なる誰か――否、『だれか』とは白々しい。それはただひとり。彼が求めてやまぬ存在でありながら、もう二度と交わることのできない相手であることは、はじめから明白だった。
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