【新K】ミラクルマジカル🍌✨世界有数の資産家、エティン・ピドゥ。
彼が生前に好んで身に付けていたとされる、赤と白のバイカラーダイヤ、通称:魔法使いの嘆き。指輪に加工されたその石は、持ち主に巨万の富を与えると噂される反面、とある曰くがあった。
何でも、若い男性の手に渡ると、忽ちその人間は死んでしまうと言うのだ。
巡り巡って鈴木次郎吉氏の元へ辿り着き、対怪盗への挑戦状として選ばれた石の情報を調べた快斗は、ため息を吐いた。
物騒極まりない品ではあるが、パンドラの可能性がある以上、盗まないワケにもいかない。向こうは怪盗が、よもや学生だとは想像だにしていないのだから。
「呪いの石ねぇ…」
エメラルドカットの施された珍しい二色の石は、そうと知らなければショートケーキのように見えて好ましいのに。快斗は、ビルの屋上で手にした今宵のお宝を眺め、ふぅんと呟いた。
「よく分かんねぇけど、さっさと確認済ませ…ッうぉおお、っぶねー!元に戻った途端コレかよ。容赦ねーなぁ…名探偵!」
目の前を轟速で横切った白黒の影に、快斗は非難を込め、パリ、パリッと放電特有の音がする方へと向き直る。
「オメー相手に手加減なんか出来るかよ。これからは、全力で行かせて貰うぜ」
見知った青いブレザーに緑色のネクタイ。縮んでいた時の装備を丸ごと手に入れてしまった好敵手は、これまでの相手とはレベルが違う。快斗の本能が鳴らす警鐘に、つぅと汗が頬を伝った。
現場で姿を見つけた時から此処に来るだろうとは思っていたが、快斗の予想より大分早いのはどうしたことか。
(ゲッ…やっべぇ、リーチの差忘れてた!)
工藤新一の姿を目視で確認したのに、今までの癖で、つい小学一年生のままシミュレーションしていたらしい。
とりあえず、何とか隙を見て宝石を検めなくては。快斗は、焦りと緊張感からばくばくと煩い心臓を抑え付け、表面上はそんなことはおくびにも出さず、おどけたフリをする。
「ちぇ、この前までこんなに小っちゃくて可愛かったのによー…」
快斗が指で五センチ程を示し肩を落とすと、そんなワケあるかと言わんばかりに、また顔の横すれすれを風が通り抜け、モノクルが揺れる。この探偵、短気にも程がある。
「ひぃっ、何で二発目が飛んでくんだよ…っ!」
通常ボールは一発ではなかったのか。外したかと舌打ちをする好敵手に目で訴えかけると、ニヤリと悪魔の笑みを返された。
「そりゃあ、改良してるからに決まってんだろ」
「ひぇ…」
ドゴォッと鈍い音を響かせた貯水タンクを振り返ると、綺麗にボール型の窪みが出来ただけではなく、明らかに全体的が傾いてしまっている。何ならちょろちょろ水も漏れ出ており、ゾゾゾっと顔を青くした快斗は、一刻も早くこの場を立ち去ろうと決意する。こんなやり取り、命がいくつあっても足りない。
「え?…あ、あれ?」
「お探しモノはこれか?キッド」
手にしていた筈のダイヤがない。
わたわたとジャケットやスラックスのポケットを叩く快斗に向かい、人差し指と親指で指輪を拾い上げた名探偵が、クッと喉を鳴らす。
「えぇえ、嘘ぉ…」
「ったく、ダイヤで良かったな」
二度目の不意打ちシュートで、うっかり落としたらしい。今日はこんなポカミスばかりだ。
硬度のおかげで傷一つ無いことにはホッとするが、そもそも落としたのはオマエのせいだと言ってやりたい。
「……チッ…」
あのじーさんと名探偵を躱して盗むのは骨が折れたというのに、快斗は回収されてしまったリングを眺め、悔しげに唇を噛む。
元より返却はお願いするつもりでいたが、肝心の確認がまだであり、パンドラかどうか分からないまま警察に渡っては、今夜の全てがパーだ。
(下手するともう展示されねぇ可能性もある…)
細工無し、正面きっての対決は分が悪いがどうする。快斗がトランプ銃を手に取ったところで、名探偵が肩を竦めて見せた。
「どうせ、まだいつもの済ませてねぇんだろ?代わってやってやるよ」
「ぅえ?いいの」
「なんの意味があるか知らねぇけどな」
シューズの通電を止めた名探偵が、きょろきょろと月の位置を確認する。片手をスラックスに突っ込んだまま、怪盗を模倣し指輪を月に翳した直後、眩く鋭い光が走る。
「なっ」
「ッ名探偵…!」
快斗は慌ててマントで視界を覆うと、隙間から手にしたトランプ銃で名探偵の指元を狙い、石を弾き飛ばす。
カン、カンカン。乾いた音を立てコンクリートに転がった指輪は、程なく光を失い、辺りは元に戻ったが…何だか重苦しい嫌な空気に包まれた。
「何だ今の…?」
「名探偵!!目が変だったり、気持ち悪かったり、してねぇか!?」
快斗は駆け寄り、顔を押さえよろけた名探偵の両腕を掴み問うと、目が眩むのか僅かに顔を顰めた名探偵が苦笑する。
「何、慌ててんだよ。少し眩しかっただけで問題ねぇよ」
「心配ぐらいすんだろ!何かあったらどーすんだよ」
「……」
ぱちぱちと瞠目する名探偵は、本気で驚いているようだ。自分は血も涙もない人間だとでも思われているのだろうか、と快斗は眉を寄せるが、そんなことよりも好敵手の体調が優先だ。
確認を急ぎたいが、先程の光には警察も気付いたらしく、ファンファンとサイレンが集まって来ているのを感じる。
(下手に飛んで、名探偵の家までつけられても厄介か)
名探偵の手を取りグライダーを広げた快斗は、躊躇なくアジトの一つを目指した。
「なぁ名探偵、本当に平気か?」
「オメーも大概しつけぇな」
キョロキョロと辺りを窺う名探偵は、一連の騒動で、すっかり捕物の気分ではなくなったらしい。ハンカチで包んだ宝石をポケットに仕舞い、現在は戸棚に並んだ手品道具を興味深そうに眺めている。
「……頭痛とか吐き気とか、出てねぇ?」
「んなに気になるなら、好きに調べればいいだろ」
快斗が未開封のペットボトルを手渡し、周りでちょろちょろと様子を観察していると、一口水を含んだ名探偵が、呆れたように目を細めた。
不調はないとの事だが、後々何かあっては寝覚めが悪いではないか。
ふむと思案した快斗は、好きにしていいという言葉に甘え、正面を陣取り、確認をさせて貰う事にした。
「ふむふむ、目は大丈夫そうだな」
「…オメー、正体隠す気ねぇだろ」
至近距離で顔を覗く快斗に、名探偵がひくりと頬を動かすが、快斗は意に介さず、名探偵の下瞼を軽く引っ張って眼球等の様子を探る。
視力は問題なく、血色も良好、目眩の症状等もなさそうである。ベロの色も正常だし、額や首筋で測った熱や脈にも特段おかしな点はない。
「発熱もしてねぇし…よし、腹にも変な模様は出てねーな」
「………オメーのあの儀式、どんだけ命懸けなんだよ」
名探偵が頭上で更に顔を引き攣らせた気配がするが、快斗は聞き流し、膝立ちのまま捲っていたワイシャツを元に戻す。とりあえず大丈夫そうか。そのまま立ち上がろうとした快斗は、ふと視界を入った膨らみを見咎めた。
「………デッカくなったよなぁ」
「あ?何を今更…ッオメー、何処見て言ってんだよ」
堂々セクハラ発言に、名探偵から非難と共にぽかりとげんこつを食らった。何も叩くことは無いではないか。小学生だったイメージがあるから余計にかもしれないが、だって何か凄い。
恨みがましげに頭を擦りながら立ち上がった快斗の前に、ひらと何処からともなく一枚の紙が降ってきた。
「何だぁ?」
「オメーのマジックじゃねぇのか?」
「違ぇよ。えー、なになに?」
『石に呪われし者、七日以内に【中出しセックス】をしなければ其方は死ぬ』
「………」
何とも卑猥な不幸の手紙である。
思わず固まった快斗から紙を取り上げた名探偵も、盛大に顔を顰め、ぐしゃっと紙を丸め屑籠に放った。
「くっだらねぇ」
名探偵に快斗も概ね同意だが、突如湧いた紙の存在と、あの光と石に纏わる曰くとが無関係と思えず、どうにも気に掛かる。
警察も近くには居なさそうだし帰るという名探偵に宝石を預けた快斗は、言い知れぬ不安から、もう一度あの宝石について調べることにした。
「はぁ?」
「だから、マジで死ぬかもしれねーんだって!」
翌晩。快斗は怪盗装束を纏い、名探偵の自室を訪れて居た。
あの後ほうぼう調べた結果、かなりの人数があの宝石を手にした数日後に亡くなっている事が分かった。単なる偶然と言ってしまえばそれまでだが、亡くなった所有者が十代~二十代に集中しているのは些か出来すぎている。
「たまたまだろ。あの光も、石が月光を乱反射させただけ。それとも…まさか、あの胡散臭い紙の通りにでもしろとでも言うつもりか?」
「っそれは…」
訝しげにコチラを窺い見る名探偵に、快斗はぐっと言葉に詰まる。
確かに本当に呪いを受けたかは疑わしいし、えっちで解呪出来るならそんなにも犠牲者が出るのは可笑しい、と快斗も思っていた。
しかし、笑って流すにしては看過できない要素が多いし、漠然とした不安が残る。
ふと、快斗は名探偵の腕に巻かれた真新しい包帯を見咎め、指を差す。
「名探偵、それ…怪我でもしたのか?」
「ん?あぁ、今日たまたま工事現場を通った時な…風で立て掛けてあった資材が倒れてきたんだよ」
「…ッ」
やはり呪いなのでは。快斗が顔を青くし黙り込んだのを見た名探偵が、深くため息を吐いた。
「……………明日そういう店にでも行って済ませる。もう、それでいいだろ」
「!」
不本意といった様子ではあったが、快斗がホッと息をつくと、仕方ねぇなと嘆息した名探偵からぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。鳥の巣よりも尚悪い頭髪にされ、ぶすくれた快斗に大笑いをした名探偵を見て、快斗も漸く気分が持ち直す。
そう言えば亡くなってしまった人達の共通点を伝えるのを忘れていた。グライダーでの帰り道、はたと思い出す快斗であったが、今更引き返すのも悪いかとその日は真っすぐ帰路についた。
「で、また来たのかよ」
「だって、気になんだろ…何かあったのか?」
一日空けて水曜日。
前回と同じ時刻にベランダへと降りた快斗は、ベッドに腰掛けた名探偵の顔色がおかしい事に気付く。
「……な……った」
「え?よく聞こえねぇんだけど」
ちょいちょいと手招かれ、靴を脱いで名探偵の自室へと入った快斗に向かい、名探偵が深々とため息を吐いた。
「……出来なかった」
「え?」
「だから、断られたんだよ悉く。そんな化け物ちんこは無理だとよ」
「は?」
化け物。何が。ナニが。
思わず視線を名探偵の下半身へと下ろした快斗は、スラックス越しに浮かび上がるシルエットに目を見開く。確かに身体検査をした時にもデカいなとは思った記憶はあるが―…
「…それは冗談キツいだろ、名探偵」
「………気になるなら好きに調べればいいだろ」
あのアジトでのデジャブである。
だが、流石に男の股間を弄る趣味はないし、どうせドッキリか何かだろう。首を振り謹んで辞退する快斗であったが、深刻そうな名探偵の表情と下肢とを交互に見ては好奇心とハートフルとが首を擡げる…いやでもまさか本当に?
隣合って座るのも何だか違う気がして、ちょこんと名探偵の前にしゃがみ込んだ快斗は恐る恐る膨らみへと指を伸ばす。
「え?待っ…ぇえ!?どこから、どこまで…ぅええええっ!!?」
「っ、結局しっかり触りまくってんじゃねーか」
「だ、だってこれ、マジでスプレー缶じゃねぇ…の?」
太さ、長さといい質量といい、凡そ日本人のそれじゃない。いつまで触ってんだと、僅かに顔を赤くした名探偵に手を引っぺがされるまで無意識に握り込んで快斗は、手に残った何とも言えない感触に同じく赤くなる。
「こんなにデカくねぇんだよ」
「へぁ?」
「だから、少なくとも日曜までこんなにデカくなかった…っつってんだよ」
「え…じゃあ、ま、まさかあの光の?」
七日以内に中出しセックスをしないと死ぬ。一見簡単そうに見えた解呪条件だが、ちんこが化け物仕様になるなら、達成出来ずに死んでしまう人間が多発するワケだ。
「名探偵。気になってたけど、顔のガーゼと頭のそれって」
「…顔のはガラス片、頭のは鉢植えが掠った」
「ーッ」
「あのなぁ、こんなのたまたまに決まってんだろ?オメーが、気に病む必要ねぇよ」
「…っでも」
「呪いなんて所詮プラセボ効果だろ。偶然続いた不幸を、関連付け思い込んでるに過ぎない。…コレも放っときゃ、その内治んだろ」
名探偵はああ言ったが治らなかったら。そもそも本当死んでしまったら。すごすごと工藤邸を後にした快斗は、脳内を埋めつくすネガティブな予測の数々に快斗はぶるりと身を震わせた。
「化け物ちんこで、えっちが出来ればなぁ…」
海千山千のお姉さん達がこぞって匙を投げるのだから可能性は低いかもしれないが、とスマホで諦め悪く検索をしていた快斗は、とあるページを見て指を止めた。
「…………」
どうやら、尻穴でも広げればそれなりにデカい物が入る…らしい。男のだと萎えてしまうかもしれないが、変装をすればどうだろうか。
もしかしたら名探偵の言う通り偶然かもしれかい。噂も呪いもデマカセかもしれない。けれど満々万が一何かがあったら。身近な人間が死ぬかもしれないなど、快斗にとっては、想像するだけで恐ろしい。
例え杞憂に終わったとしても快斗は男だ。お尻に少しデカい座薬を受けたと思えばどうってことはない。
「こんばんは」
「…今日は何の用だ?」
翌晩。快斗がコンコンとベランダの硝子をノックすると、デスクで本を読んでいた名探偵が窓の鍵を外してくれた。連日の訪問に諦めたのかまたか、とは言わない。
入室を許され、蛍光灯の下で確認した名探偵にはやはり生傷が増えており、きゅっと唇を噛んだ快斗は、念の為にと問う。
「あれから、その件は?」
「まだ拘ってんのか?言ったろ、無視するってよ」
「オレがする」
「は?」
「名探偵とセックス」
「………正気か?」
こくんと頷いた快斗に、名探偵が驚いたように目を丸くした。
「何でオメーがそこまで」
「本当はオレが受けてた呪いかもしんねーし、万一名探偵に何かあったらって考えると」
「あのなぁ、どうせ迷信だって」
「例えそうだとしても、後悔はねぇ。不安が消えるならそれでいい」
名探偵の目を見据え快斗が迷いなく言い切ると、名探偵は長く息を吐いた後、分かったと頷いた。
「そもそも男の身体は受け入れるように出来てねぇ。おまけにオレのはコレだ。あの紙の言うリミット…日曜まで可能な限り慣らすが、それでも無理だと思ったら止めさせるからな」
「…分かった、それでいい」
時間がないから今日から始めたいと快斗が伝えると、名探偵が天を仰いで顔を手で覆う。ぼそりと拷問だと聞こえて来た。
男とえっちしなきゃいけないんだから、そりゃあ当然だよな。今日は変装道具を置いてきてしまった為、リボンやつけ毛くらいで妥協して貰えないだろうか。明日はメイド服や帝丹のスカート等も用意しておこう。そう考えを巡らせた快斗は、タオルと着替えを手に名探偵の後について、個人宅にしては大き過ぎる風呂場へと向かった。