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    わかめ

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    わかめ

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    先生がシーナちゃんと再会する日

    再会/ルフォシュラ保健医を辞めて一年、この一年は心境的に色々なことがあった。
    というのも、ことの発端は昨年の親友の命日にデージーが差出人不明で僕の所に届いたことだった。
    親友の宿した花はデージーではなかったけれど、『死』とそう書かれたメッセージカードは確かに…あの人の字だった。
    僕の親友は生きているけれど、きっと僕の中のあの人はもう居ないのだと…そう伝えたかったのだろう。
    じゃなければあの時、あんな風に死ぬフリなんてしない。

    あの人が生きていると分かった当時は、父や祖父を問い詰めたけれど…二人は決して口を割ろうとはしなかった。
    その代わりに、医学に関わるという強制をしなくなった。
    それが何を意味するのかは分からないけれど、今思えばあの人の事は追うべきではないと…そう言いたかったのではないかと思う。
    もしあの時ちゃんと異変に気づいていれば、また未来は変わっただろうか?
    後悔はまだ残るが、この件についてはもう後戻りができない。
    …であるならば、この先起こることで少しでも変えられる未来があるなら…後悔しない様に、もう逃げないで生きようと思う。

    僕は今、好きな植物に関する職…植物園で勤めて、希少な生き物と平和な毎日を送っている。
    人と関わるよりも、植物達と心を通わせている方が幾分も楽で、自分に合っている。
    それでも時々、保健医だった頃を思い出す時がある。
    担任じゃない、クラスも持っていない保健医という僕の立場が、生徒達にとっては相談しやすい、話しやすい対象だったのだろう。
    毎日怪我や体調不良は殆どないのにも関わらず、保健室の訪問者は途絶えなかった。
    殆どがサボりや相談者だったが、中には珍しくも僕と趣味があったりして通う子もいた。
    そんな僕は…相談をされでただ聞くだけで、それでも懲りずに話しかけてくれる生徒たちのことを忘れられるはずも無くて、今君たちは元気しているだろうか…と、思い出と共に思うことがある。
    …そういえば、保健室に来る生徒の中で特に心配な子がいた。
    彼女は当時まだ一年生で、親から暴力を受けることがあると言っていた。
    でも僕は…そんな彼女に一定の距離を保ち、担任にそれを言うでも無く、ただその事実を受けとめるだけだった。
    なんとかしてあげたい気持ちはあったけれど、僕なんかが彼女の為に何ができるだろうだなんて思っていた。
    でも、もし今僕が彼女に会ったら…少なくとも前のように放っては置かないだろう。

    「ウィリアムさん、お手紙です。」

    家にいるお手伝いさんからそう言われて手紙を受け取ると、噂をすればなんとやらで…その彼女が通っている学校からの手紙だった。
    何だろうと封を開けてみて中身を見ると、内容は「保健医の不足に伴い、急ぎ臨時で保健医をして欲しい。」というものだった。
    こういうのは学校から直接来るものなんだろうかと思いながらも、直ぐには返事が出来ないので、紙を封筒に戻して目の前にあるデスクに置いた。

    翌日。
    いつも通り職場にいる植物たちを眺めながら、植物園のお客さんの相手をする…いつもの仕事をこなしていた。
    相談されることも私情じゃなく植物関係のことで、やはり受け答えは以前よりもだいぶ楽である。
    これがずっと続けばいい…と思いながらも、ふと昨日届いた手紙を思い出す。
    今あの学校に戻って彼女に再会したら、何か出来るだろうか。
    そう思いながら園内をぐるっと見回すと、彼女によく似た女性を見かける。
    茶色の髪が少しウェーブがかっていて…何処にでもいそうだけれど、少しだけ声をかけてみようと、何故かそんな気になった。

    「コキア・コウアイ。」

    彼女の目線の先にある花の名前を呟くと、見えなかった素顔がゆっくりとこちらに向けられた。
    僕の顔を見てびっくりしているのか…僅かだが、向けられた瞳の奥にある瞳孔が開いたような気がした。

    「これは、コキアの中でも珍しく希少な花なんですよ。」

    「知っています…高校の先生に教えて貰いました。」

    僕が昔あの子に教えた花の一つ。
    まさかと思って横にいる女性の顔を確かめるように見ると、あの子と瓜二つの顔をしている人…多分本人がそこに居た。

    「きっと、その先生は貴方に覚えて貰えて嬉しいでしょうね。」

    何気なく教えた花の名前、彼女も植物が好きだから覚えていたのだろうか。
    この花の全般の花言葉は今の僕たちにピッタリで、僕たちがここで再会するのが必然だったかのようだ。

    「そうだと嬉しいです。」

    ふわっと笑う彼女はどこか寂しそうだった。
    元々あの学校で保健医をしていたのは臨時で、僕があの学校に行かなくなることは生徒たちに伝えられることがないまま退職してしまった。
    だから…彼女の過去の件も、中途半端に逃げたようになってしまったのにそういう風に笑うのだと少し驚いた。

    「みなさんは変わりないですか?」

    僕の問いにまた驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに「はい、みんなも…私も変わりないです。」と返事が返ってきた。
    彼女の"変わりない"は…つまりそう言うことだろうか。

    「…先生は、…もう戻ってこないんですか?」

    「私は、…本当は医学に携わることはしたくなかったんだ。」

    「そう…ですか。」

    「どうして、…そんなこと聞くのですか?」

    「…先生が居なくなった保健室に、少し違和感を感じているから…です。」

    彼女にとって、僕が居なくなったことが違和感を感じるほどのことだったことに驚きを隠せない。
    自分は優れている保健医ではなくて…寧ろいい加減な方だったはずだ。
    彼女がそう思ってくれる程のことを、僕は彼女に…生徒達にしてあげられていただろうか?

    「私は保健室にいることが違和感でした。でも…、少なくとも貴方にそう思って貰えて嬉しいです。」

    「先生…。」

    「もう戻ることは無いと思っていたのですが…。」

    「私だけじゃなくて…みんな、先生を待っています。」

    そう言う彼女は真剣そのもので、嘘はついてないようだった。
    保健医である僕を待ってくれる人がいると言うなら…今度こそ、向き合わなければいけない事に向き合うべきなのか。

    「…考えておきます。」

    「はい。」


    ー後日
    彼女と再会して1週間後、僕は今彼女の通う学校の保健室にいる。
    今日は臨時の保健医をする初日である。
    僕が保健医をしていた時が嘘かのように、来訪者が少ない…というか居ない。
    いない方がいいのだけど、こうも来ないと前の保健医はどんな人だったんだと考えさせられる。

    「それにしても…暇だなぁ。」

    数分前に自分で入れたお茶を啜りながら書類業務をこなす。
    相変わらず自分で淹れたお茶は不味くて、なんだか懐かしい。
    そんなことを考えていると…保健室のドアが数回ノックされた。

    「どうぞ。」

    恐る恐る開かれたドアの先には女子生徒…多分二年生が不安そうに立っていた。
    しかし、僕を見るなり目を見開き驚いて…部屋に入らぬままどこかに行ってしまった。

    「…何だったんだろうな。」

    そう思って数分後…彼女が戻ってきたのか、ドアがゆっくりと開かれた。
    しかし、その開かれたドアの先には先程の女子生徒ではなくシーナさんがいたのだった。

    「先生。」

    シーナさんは少し嬉しそうに僕を呼ぶと、静かに部屋の中に入ってきて…一年前、いつも座っていた場所に腰をかけた。

    「先生…戻ってきてくれたんですね。」

    「前よりも臨時だし殆ど居ないと思うけど…定期的に様子は見に来ようと思ってるよ。」

    「嬉しいです。」

    「…学校じゃなくても私はいつでもあの植物園に居るんだけどな。………そういえば、あの時私だと気付いていましたよね?」

    「はい。でも、髪が短くて…名前も違っていたので。」

    「…あぁ、ウォルという名前は偽名でウィリアムが本名なんだ。好きなように呼んで構わないからね。」

    有名な医師の苗字を名乗る自身がなかったってだけで、今はそんなことはない。
    現に、以前の僕とは違うというケジメをつけるために髪まで切ったのだ。
    …まぁ、髪に対して特に思い入れは無いけれど。

    「はい、ウォル先生。」

    せめて、彼女が僕を信頼して打ち明けてくれた事を後悔させぬよう…未来が少しでも明るく、彼女から笑顔が消えぬよう一人の職員として援助したいと思う。
    だなんて言えばかっこいいかもしれないけれど、本当のところは…今まで学んできたこと、進んできた道が間違いでは無いのだと、僕がもう後悔をしたくない為に…そうするのだ。
    そして医師を目指していた自分に…終わりを告げるのだ。
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