蒼君のお誕生日/鶯皇今年のこの日は幸いにも休日で、今は本日誕生日の主役様を香学に送る所だ。
「今日は楽しかったねぇ!久しぶりに会えたし、嬉しかったよ。」
少しだけ大人になった蒼は、変わらずの笑顔で本当に嬉しそうに言った。
多分、会おうと思えば会える距離だけどお互いにこまめに連絡を取り合う性格では無い為、いつも会う時は"久しぶり"だ。
去年までは毎日、走れば数分の距離にいた蒼。
…毎日会えないのは寂しいと言ったら寂しいけど、ずっと会ってなかったあの時期に比べたら苦では無い。
「1日はあっという間だねぇ…。」
残念そうな蒼の声を聞いて視線を前に向けると、見慣れた校舎が見えて来た。
本当に、流れている時間は長い様であっという間だった。
「今日は俺も楽しかった。蒼の誕生日ちゃんと祝えて良かったし…。」
「うん、ありがとう。」
あと数分、数秒で校舎に着いてしまうのに俺たちの足取りは次第に速度を落としていた。
それでも門の前まで来てしまって、蒼は突然足を止めた。
「ん、どした?」
「えっと……ね、もう少し、………。」
最後の方は消え入りそうな声でよく聞こえなかったけど、名残惜しそうに下を見ながらそう言う蒼を見て何となく察する。
俺が返事の言葉を発そうとしたその時、蒼はパッと上を向いて作り笑いをしながら言った。
「何でもない!じゃ、…またね!」
くるっと後ろを向いて、少し小走りで校舎の門を潜ろうとする蒼。
「ちょっ…。」
何でいつもこうなるんだろうなぁ…って少々呆れながら、早足で逃げているような蒼の右手を捕まえる。
俺の行動にびっくりしたのか、びくっと肩を上に上げて、足を止める。
「せんぱい…?」
「やっぱりもう少しここに居るわ。」
「…へ?」
蒼は間抜けな声を出しながら困惑した顔でこちらを振りむいた。
「ダメか?」
「んーん、ダメじゃない!嬉しい…!」
さっきまで作り笑いしていたのが嘘かの様にパッと明るくなり笑顔を見せているのに俺も自然と笑みが溢れる。
「よし、じゃあ蒼の部屋でも行くか?」
多分ダメって言われるだろうけど試しに、冗談で言ってみる。
すると、案の定凄い勢いで首を横に振り「絶対ダメ!」と拒否した。
「はは!冗談なのに必死すぎ。部屋まで送るだけだから。」
「揶揄わないでよ…。」
「悪かったよ。それにしてもあんなに断るなんてな…、見られたら困るもんでもあんのか?」
俺が何気なく聞いてみると心当たりがあるようで、口籠もりながら何か言い訳をしている様だった。
「ま、いいけど。ほら…行くぞ。」
「…あ、…うんっ!」
蒼とは手を繋いだまま、寮とは反対方向で少し回り道をしながら帰ることにした。