手紙/ルフォシュラ学校での仕事が終わり家に帰ると一足早く帰っていたシーナがリビングにあるソファで眠っている。
私は彼女が眠っている様子を少しの間じっと見て規則正しい寝息を耳に焼き付けた後、自室に荷物を置いて来てからまたリビングに戻ると、シーナの座るソファの目の前に腰をかけた。
私の気配にも気づくことなくずっと規則正しい寝息を立てて彼女を向かい合わせでじっと見守っているのも良いが、眠っている彼女を起こしてしまうのも悪いので近くにあった本を手に取り彼女が起きるまで読書をして待つことにしよう。
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彼女が眠ってから一時間、全く起きる気配がなくて、彼女より先に私に声をかけて来たのは私の家で家事をしてくれている使用人の女性だった。
"晩御飯の用意が出来たと"伝えられたが、シーナを起こすのも忍びなく…でも折角作ってくれた晩御飯を覚ますわけにもいかない。
それに、今日は…あまり嬉しくはないが私自身の誕生日で、所謂私の好きなものが並んだ食卓なのだ。
起こしたくは無かったが、折角の使用人の私への気持ちを無碍にするのも良くないので、少しの間考えた後結局シーナを起こすことにした。
持っていた本を元あった場所に戻してから彼女のソファの前まで来ると、そっと肩を叩きながら声をかける。
「シーナ、…ご飯が出来たそうだよ。」
「んっ……。」
シーナは私の声に少し身じろいだ後、ゆっくりと目を開けると柔らかな笑顔で「おかえりなさい。」と言った。
もう帰宅してから一時間以上は経過しているのにそう言うと言うことは、私の帰宅をソファで座りながら待っている間に眠ってしまったということだろう。
「ふふっ、ただいま。」
自分の為に帰りを待ってくれていたシーナがなんとも愛おしくて彼女の髪を撫でながら微笑み返すと、私の笑っている意味がわからないと言ったように首を小さく傾げた。…無論、その仕草も可愛らしい。
「ご飯、出来たって。食べられそうかい?」
私がそう言うと、シーナはハッとして時計を見てバツが悪そうな顔をした。
「…ごめんなさい、眠っていました…。」
「いいんだよ、さぁ…行こうか。」
シーナにいつものように手を差し出すと、私の手の上に置かれたのは彼女の手では無くて綺麗に封がされた青色の封筒だった。
「…これは?」
「ウィリアムさんを待っている間に…手紙を書いたんです。」
「手紙?」
「…後で、見てくださいね。」
シーナは照れているのか、足早に料理が並ぶダイニングへと行ってしまった。
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愛しい人と過ごす誕生日を無事に終えて今は1人、書斎で彼女から貰った手紙を読んでいた。
内容は、これまでの感謝と……私への気持ちを綴った物だった。
"愛していますウィリアムさん"
最後の一行を読み終わった後、また丁寧に封筒に入れて鍵付きの引き出しに仕舞おうとして一枚のメッセージカードが目に入ってきた。
この上にシーナからの手紙を置くわけには行かず、私はメッセージカードを手に取り宙へと投げ、そして宙へと浮いた一瞬の間に私の魔法で出した炎で燃やしてやった。
このメッセージカードと共に送られて来たデージーはもう既に枯れてしまっているのでもうあの人と私を繋ぐものは何もない。
それでもいい。
……私はもう、君を追いかけることも思い出すこともないだろう。
今は…いや、これまで、そしてこれからも、私は私の愛しい眠り姫と一生を過ごしていくのだ。
メッセージカードが完全に燃えて無くなるのを見届けてからしばらくして、私は手紙を引き出しにしまった。
「さて、…手紙の返事はなんと書こうか。」
目を閉じて思い出すのは彼女との記憶だけ__。
これがこの先ずっと続くことを願いながら…私も彼女への想いを紙へと綴ることにしよう。