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    わかめ

    創作の絵をあげるだけ

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    わかめ

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    間違い電話/綾鷺「僕を頼ってくれ。」
    自分を隠す僕に、君は真剣に…それでいて寂しそうにいつも言う。
    それでも僕が彼にも、他の誰にも頼らないのは…頼ってしまうのが恐いからと思っていたから。

    僕が君を頼ったところで何かが変わる訳じゃないし、きっと救われるのは僕の方だっていうのは考えればすぐに分かる。

    「分かっていながら動かない、なんて酷く、怠惰だ。」

    以前同級生にこんなことを言われたけれど、そんな事はどうでもいい。
    本当は誰かに頼りたい、頼った方がきっと生きやすいことなんて分かっている。それでも意地を張って頼ろうとしないのはそう言うことだろう。
    本当は全て意味のないことだって分かっているのに、あるべき自分はこうじゃないと言い張っているのは自分自身。…とても頑固だ。

    今まで僕は兄として家族からは頼られて、学級委員やサッカー部の部員としても頼られて来た。
    優しくて面倒見がいいのが未鷺先輩、いつでも受け入れてくれるのが未鷺。
    そう言われ続けて生きて来たのだから…簡単に頼れる訳ないんだ。

    「はぁ…、今日も疲れたな。」

    一日中自分を偽り、身も心もボロボロで天を仰ぐ。
    あまりに疲れているのか、少しぼーっとするし気怠さも感じている。
    でも家に帰ったら弟妹の勉強を見て、一緒に遊んで…なんてすることがたくさんある。
    他にも色々と考えて帰り道を歩きながらも家に着きドアを開けると、今日も賑やかな声が玄関越しに聞こえて来る。

    「おかえりなさい、今日も遅かったわね。」

    笑顔で出迎えてくれる母さんの顔を見て少しだけほっとしながらも、「ただいま。」と一言だけ返して洗面台に。
    しかし、いつもよりそっけない僕を見てからか「何かあったの?」と母さんが引き止めた。

    「…うん、色々と頑張りすぎたみたい。」

    そう、…善人を演じるのに疲れただけだ。
    僕の本当の意図までは汲み取る事が出来ない母さんは僕を優しく撫でてくれ…「偉いね。」と言った。

    "偉い"…。
    これが、"頑張らなくてもいいんだよ"だったらどんなによかっただろうか。
    まぁでも、母さんは部活や勉強を頑張ったと思っているから仕方のない話で。

    「部屋に行くよ。」

    手を洗って、いつも行くリビングじゃなくて自室に行くように母に告げる。
    今日ぐらいは兄としての未鷺じゃなくて、一人の…何者でもない僕になりたかった。

    自分の部屋に入るなり、制服を着たままでベッドに倒れ込む。

    「僕は一体何なんだろうなぁ。」

    本当の自分は一体何なのか、それは魔物になった去年からずっと考えている事。
    一時期、誰かのように人を傷つけてしまえたら良かったのにと思った時期があった。
    でもそれはただの腹いせで、何の意味もない事だって分かってるからすることは無かったしする勇気もなかった。

    そういえば、一人だけ僕が深く傷つけてしまっている人がいる。

    「綾人…、何してるかな。」

    彼は僕が自分を演じる度に心配してくれ、僕以上に僕のことで傷ついている。
    本当は傷つけたくないけど、……僕自身どうすればいいかなんて分からなかった。
    初めは、単純に頼るのが怖かったし…弱みを見せて幻滅されたらって思うと何も言えなかった。
    今は幻滅されないと分かっているし怖いわけでもないけど…こうも頑なに頼りたくないって言い張ってるから今更頼るなんて出来なくなっていた。

    携帯を取り出して彼のSNSのアイコンをじっと眺める。

    「声…聞きたいな。」

    今日が特別疲れている訳じゃないし、別に何かあった訳でもないけど…彼の声を聞いて安心したい。
    でも電話してもいいか連絡するのも嫌だし、突然電話かけたら失礼だし…と葛藤して数秒、やっぱり失礼だからと電話するのは辞めようとした時、

    「あっ!!」

    間違って通話ボタンを押してしまい焦って即終了に指をスライドさせた。
    間違えて押した事はあっているが、僕から電話する事自体がそもそも滅多にない事なので何て言い訳しようかと考えて正直に「間違えた、気にしないで。」と一言誤りを入れ、自分の顔を枕にうずくめた。折り返しの電話がかかって来たら面倒だから…このまま寝てしまおうか。



    夢を見た。
    遠くもなく、近くもない…四年ぐらい前にあったことが夢に出て来たのだ。
    あれは僕が中学3年生の時、生徒会室に行って書類を出しに行こうとした最中に大変そうな綾人を見つけ…僕が手伝いを申し出たのだ。
    まさかあの時に話していた冗談だったが現実になろうとは…この時の僕は一ミリも思っていなかっただろう。

    当時の彼は僕がこうなるって思ってただろうか…。
    いや、…彼もまさか咲学であんなことが起ころうとは想像もしていなかっただろう。
    そういえばあの時、彼が僕に言ってくれた「話聞くくらいは何でもする。」って言う言葉は嬉しかったな。
    いや、そう言う類の言葉は綾人以外にも言ってくれる人はいたけど…今もなおこんな僕と仲良くしてくれる彼だったからこそ、今余計にそう思っているのかもしれない。
    だって、「僕を頼れよ。」と怒ってくれたのは綾人が初めてだったから。
    言葉では大丈夫だ、心配いらないなんて言ってたけど、本当は…そう言ってくれて嬉しかったのを覚えている。
    彼の言葉はいつだって直球で、耳が痛いほどの正論。
    どう潜り抜けようとしても追いかけて来て、僕の心を鷲掴みにする。

    あの時の僕は正直言うと、本当に鬱陶しいと思ってたしイライラしていた。
    でも今、夢で改めて思い返してみると…良かったと思う。
    直接的に頼る事が無くても、傍にいてくれるだけで…少しは僕の力になってるだなんて…君は知らないだろうな。

    「やっぱり電話、かけようかな。」

    再び携帯を取り出して通話をしようとすると…着信音と共に携帯の画面に結城綾人という文字が大きく書かれていた。

    「うわっ?!」

    少しびっくりしながらも通話を繋ぎ、恐る恐る耳に携帯を当てた。

    「…もしもし。」

    「もしもし。間違えたって嘘だろ…何かあったのか?」

    少し心配そうな声だったが、まぁいつも通りの綾人の声に少しほっとした。

    「…いや、電話を掛けたのは本当に間違えた。」

    「本当か?」

    正直に話しても納得してくれていない様だったので…少しだけ、ほんの少しだけ素直になる事にした。

    「いや…その、声が聞きたいな〜……って思って。」

    言ってる途中で恥ずかしくなって最後の方までちゃんと言えた自信がない。

    「…ははっ、今日はやけに素直だな?」

    色々な辛い気持ちが重なり、安心したくて電話を掛けている事は伏せているけど、彼の嬉しそうな声に、少しだけ自分の口元が緩む。

    「僕だって、たまには素直になることもあるよ。」

    「たまにじゃなくても僕はいいけどな?」

    それがエゴか、僕を思って言ってくれている言葉かなんてどっちでも良かった。
    もう少しだけ…ほんのもう少しだけ甘えたら君は…。

    「てか本当にそれだけか?本当は何かあったんじゃないの?」

    「………うん。」

    自分でも言ったか言ってないか聞こえないぐらいのか細い声でそう答えた。電話越しにこんな僕の声を拾うなんて出来ない事は分かっていたが…。

    「よく聞こえなかったけど、今、うん……って言ったか?」

    「………。」

    「…言ってくれなきゃ分からない。頼むから…何があったか教えてほしい。」

    段々と必死になって来る彼の声に、今回は言うべきか言わぬべきかと決めかねている。

    「別に…何もないよ。」

    今日何をされたと言う訳じゃないからこれは事実だけど、これを信じてくれるほど彼は馬鹿じゃない。

    「頼むから、…僕を頼ってくれよ。」

    そう言う消え入りそうな彼の声を聞くのが今が初めてじゃないけど、なぜだか今日は特に心が痛んだ。

    「本当に、今日は何もなかったよ。………でも。」

    「でも…?」

    「…疲れたなぁって。」

    僕自身がいつもより心が痛んだから、そして今日は酷く傷ついているから少しだけ…珍しく弱音を吐いてみる。

    「…未鷺は頑張らなくても良いことまで頑張ってるからな。」

    "頑張らなくても良い"
    それだけで、少し楽になった気がする。

    「ははは…そうだね、言えてる。」

    「無理して笑わなくていい。」

    今はまだ気持ちを打ち明けるだけで、何に落ち込み何を考えているのかはきっと言えないけど…それでも君は許してくれるかな?
    今はそれで十分だって…あの時みたいに言ってくれるかな。

    「あ、そろそろ切らなくちゃ。下の子の面倒もあるし、明日は部活も…行かなきゃならないからね。」

    壁掛け時計をみると、さっきまで寝ていたのもあるからか、僕が帰宅してから結構な時間がかかっていた。

    「明日…部室寄っても良いか?」

    「え…?」

    自分の言ったことを思い返してみると、その理由はすぐにわかった。

    「あ…うん。でも今は楽しいから大丈夫だよ。ほら…綾人の弟君もいる訳だし。」

    昔は部活なんて辞めてしまいたいぐらいに辛かったけど、一年生のおかげで流石にそれは無くなった。
    今は頼まれて綾人の弟君にサッカーのやり方を教えてる訳だけど…張り合いがあって本当に楽しい。家での綾人の姿も聞くことがあるけど…そう言うの含めて全部。

    「ならいいけど。それじゃ明日な、おやすみ。」

    「うん、おやすみ。」

    そう言って電話を切ろうとして最後、「愛してる。」って綾人が突然言うもんだからしばらくその場に硬直していたのは言うまでもない。
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    Replies from the creator

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    gohan_oic_chan

    PAST行マリ
    卒業後同棲設定
    なんか色々最悪です
    証明 朝日を浴びた埃がチカチカと光りながら喜ぶように宙に舞うさまを、彼はじっと見つめていた。朝、目が覚めてから暫くの間、掛け布団の端を掴み、抱きしめるような体勢のまま動かずに、アラームが鳴り始めるのを待っていた。
     ティリリリ、ティリリリ、と弱弱しい音と共に、スマートホンが振動し始める。ゆっくりと手だけを布団の中から伸ばし、アラームを止める。何度か吸って吐いてを繰り返してから、俄かに体を起こす。よしっ、と勢いをつけて発した声は掠れており、埃の隙間を縫うように霧散していった。
     廊下に出る。シンクの中に溜まった食器の中、割りばしや冷凍食品も入り混じっているのを見つけると、つまみあげ、近くに落ちていたビニール袋に入れていく。それからトースターの中で黒くなったまま放置されていた食パンを、軽く手を洗ってから取り出して、直接口に咥えた。リビングに入ると、ウォーターサーバーが三台と、開いた形跡のない数社分の新聞紙、それから積み上げられたままの洗濯物に囲まれたまま、電気もつけずに彼女はペンを走らせていた。小さく折り曲げられた背が、猫を思わせるしなやかな曲線を描いていた。
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