花束を君に/リアメラ湖に張った氷の上はしんしんと降り積もる雪で一面埋め尽くされている。
ここから少し離れたところに見えるホグワーツ城では今バレンタインの話題で持ちきりで、恋人を作ろうと女の子たち同士で話している姿をよく目にするようになった。その中で恐らく自分に向けられているだろう少数の視線と好意から逃れるように、僕は湖のほとりへきたのだけれど…。
僕もまた彼女らと同じで、愛しい恋人へ贈る物は何がいいかと考えているのだった。
(…甘味がいいか、それとも。)
僕の父は生前、この日に必ずガーベラの花を4本母に贈っていた。
母はガーベラが好きで…本数の意味は確か「あなたを一生愛し続けます」だっただろうか。
(一生はちょっと重たいかな。)
両親と同じように、僕に運命の人が出来たら自分ができる限り愛を伝えていきたいと思っている。
別にバレンタインというイベントにあやからなくたって気持ちは伝えてはいるつもりだが、何もないと言うのは寂しい物だとも思う。
(とりあえず部屋に戻ろうか。)
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数日後。
バレンタインの日彼に贈る為の花束を作るためにビウィルダリング・ブルームズで購入した花の種を三つ栽培テーブルに植えていたのだが、今日それがようやく成熟した。
花を摘もうと手を伸ばせば植物特有の棘が指に触れ、その後鋭い痛みに襲われた。
(いたっ……。)
痛めた指を見ると、傷口からドクドクと流れる鮮やかな紅が形を徐々に大きくしている。
「エピスキー。」
静かに治癒呪文を唱えて今度こそはと丁寧に摘むと、ほのかに甘く優雅な香りが僕の鼻を掠めた。
(さて、これを持ってまたビウィルダリング・ブルームズに行かなきゃ。僕の気持ち、ちゃんと伝わるかな。)
僕は渡す時のことを考えながらお店へ向かう為に身支度をする。
どんな言葉をかけようか、いつあげようか…何をとっても彼にとって素敵な思い出となればいいな。
これまではバレンタインが近づくと誰にも見つからぬように静かな場所、寝室の窓から海を眺めているばかりだった僕が心をときめかせどこかそわそわとしている人々を見ていると自分の両親を思い出してしまい、きっと答えられない僕へ向けられる気持ちに申し訳なってくから。だから…人目を隠れるようにしていた。
でも、人というのは単純でいざ自分が当事者になってみると今まで恋をしてこなかった…知ろうとしなかっただけだったのだと痛感する。