漂流 ある日、夜中の散歩で浜辺を歩いていた時のことなのだけど。僕の家は市内にもいくつか持ち家があってね。その日はたまたま海の近くの家だったんだ。体調もさして悪くなかったし、使用人たちも最低限の人数しかいなくて、まあ僕にしては結構監視──いや、この言い方だと囚人みたいだね。見張りが手薄だったんだ。これでもまだ囚人のようだけど。
ああ、それでね。この海辺の近くの家はあまり寄り付かないんだ。その日もなんでそこの家にいたかはよく覚えていないんだけど、とにかく僕はそこにいた。それで、抜け出したくなったんだ。日中はどう頑張ったって使用人の目があるからね。ものを食べるにしても、本を読むにしても、寝るにしても。それに、夜の海ってなんだか良いだろう? うーん、君には分からないかな。ともかく、使用人たちも僕が寝たことを確認したら休憩室で睡眠をとるんだ。ばかだね、目を閉じて息を吸ってれば寝たと思ってる。案外外に出るのは簡単なんだ。鍵の在り処も知っていたから、しっかりと鍵をかけて出てきたのさ。
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