残月に別れを告げて 産まれてはじめて髪を染めた。兄貴と同じ色をした黒髪に別れを告げ、アップルパイの生地によく似た色にした。髪の色を変え、名前を捨てる。これは別れの儀式だ。
俺は今日、この家を出ていく。
親父が死んでからというもの構成員たちは好き勝手に振る舞っている。
新しくマフィアのドンの座についた兄貴の言葉には耳を貸さず、自分たちの欲に赴き動いている。私欲を優先しカタギを危険にさらすなんざ親父の代では考えられなかったことだ。
決して兄貴に落ち度があるわけじゃねえ。兄貴は構成員をまとめようと日夜、身を粉にしている。自分よりも少し産まれるのが遅かった。それだけの理由で構成員たちは兄貴に従わない。
何名かの構成員たちが俺の前で、わざとらしく兄貴の陰口をいった。
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