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    ひふみの赤いネックレスの話
    2020年頃に書いていてどひふの諸々の設定が明らかになり没になったものの供養です。pixivの独歩視点から読んでもらった方がわかりやすいかも。ほんとに公式の設定と全く違うので…。書いてる途中だったのでところどころ抜けてます。

    ネバーランド 中学くらいの頃かな、急に周りの友達の話がわかんなくなることが増えた。だってつい最近までみんな遊戯王とかドッジボールとかスマブラの話してたのにさ、急にあの女子が好きとかあのグラドルがエロいとかセックスがどうとかさ、わけわかんねーじゃん。面白くないし。そういうとき決まって独歩が気付いて、輪の中から連れ出してくれた。優しいっしょ?
     高校になって急に女子から告られたりするようになったときも、俺が困ってたらすぐに気付いて独歩は助けてくれた。俺っちそれまではどちらかというと女子に嫌われてる方だったからさあ。伊弉冉うるさい! とか言われて。仲良くしてくれるのは嬉しかったんだけど、付き合うとかはよくわかんなかったんよね。女の子より独歩の方がおもしれーし。
     体が大人になっていくにつれて周りの奴らはどんどん変わっていったけど、独歩は変わんなかった。小学生の頃からほとんど変わんなかった。一緒にマリカーして、とんがりコーン指に差して食べて、ナルト走りで競走してギャーギャー笑ってた。そういや独歩からそういう話って聞いたことない。あいつだって興味あるんだろうけど、俺っちの前では言わないようにしてんだろうな。女の子苦手になっちゃってからは特に。だってやさしーもん。
     小さい頃から独歩のことが大好きだった。暗いし、やべー奴だし、かなり変だけど、そこが面白いし、優しいし、真面目で、面倒見が良くて、一緒にいると安心する。知ってる? 独歩ってみんながいるとこだと全然喋んねーけど俺っちと二人だけのときはたまにちょーテンションたけーの。先生もクラスの子たちも「観音坂くんと伊弉冉くんが仲良しなの不思議だね」って言うけどブチ上がってるときの独歩見たらみんな納得すると思うな。マジおもしれーし。
     独歩は最高の友達。独歩の良さがわかんねー奴は人生の半分損してる。こんなに良い奴だから、もっとたくさんの人に独歩と友達になってほしいのに、俺っちの独歩の友達いっぱい作戦はいつもなんだかんだで失敗に終わる。大体消極的すぎる。なんでこんな優しくて面白いのにそんなに自信がないかなあ。まあそれが独歩だし別にいいけどね。独歩の良さをもっとみんなに知ってほしい気持ちはほんとだけど、友達が他にいないおかげで俺っちは独歩とたくさん遊べんだし。俺っちにだけ猫被んないのもさあ、心開かれてるっぽくてなんかうれしーし。でもやっぱ、独歩の良いとこがみんなに知られてねーのは、悲しいかな。
     独歩は優しくて気が弱いせいでいつもちょっと損をしている。仲良くなったきっかけのきっかけも、確か同じ係の子に仕事を全部押し付けられて一人で花壇に水をやってた独歩を不思議に思って俺っちが話しかけたんだった気がする。植物係ってことは植物に詳しいのかな? と思って、前の家の庭に残してきた母ちゃんが好きだった花がなんて花かわかるか聞いたらわざわざ植物図鑑で調べてくれた。ちょー優しくね?「お母さんに聞けばいいんじゃないのか」って聞かれて「母ちゃん死んでんのに聞けるわけねーじゃん! 独歩バカだ〜」と笑ったときのあいつの顔は未だに思い出せる。あれ今思うとちょっち可哀想だったな。あの頃はまだ母ちゃんが死んだってことを上手く理解出来てなくて、ただ楽しくて優しくて大好きな母ちゃんとおしゃべり出来ないってことだけわかってた。なのに独歩は当事者よりもちゃんと母ちゃんがいない寂しさを理解して、なにも知らなかったんだからなにも悪くないはずの自分の発言に小さな胸を痛めて、まだ出会ったばっかりだった俺に寄り添ってくれたんだ。
     そんなことがあったから俺っちは独歩が大好きになったし、独歩は俺っちに迷惑をかけられまくる人生になってしまった。じゃあちょっと損じゃなくてかなり損じゃね? って感じだけど俺っちがいなかったら独歩は友達ゼロで「二人一組を作りましょう」がトラウマになってる人生だったので大幅加点されて結果的にちょっと損って感じだと思ってる。独歩は絶対に大幅に損の方が多いって言ってるけどそんなことないね。マジ不器用だから絡まった紐が全然解けなくてよく半泣きなってるし、そのたびに俺っちが解いてやってる。あれを無くしたあれがないと困るってテンパってよく半泣きになってるし、大体鞄の下の方に沈殿してるだけだから一緒に探してやってる。ほらね、結構お互い様じゃね? あー、でも俺っち途中から学校行かなくなっちったからそっからはかなりマイナスかも。独歩、二人一組のとき先生と組んでたのかなあ。想像してウケた。
     出席しなかった卒業式の日、独歩が持って帰ってきてくれた高校の卒業アルバムは女子の写ってるところがすべて黒塗りされていて、黒塗り教科書じゃんやべーってすげー笑ったけどそれで助かったのかもしれない。独歩は変で面白くて優しい。一度も会ったことのないクラスの集合写真の右上には、高二の学生証の写真の俺っちが空に大きく浮かぶような形で合成されていて、そのすぐ隣に高三の独歩の陰気な顔が並んでいた。……独歩は学校が嫌いだとか行きたくないとか言うわりに休まず遅刻せずきっちり皆勤する奴だったから、わざとなんだってすぐにわかった。俺っちを一人にしないために撮影の日にわざと休んだんだ。あんな目立ちたくない一心で生きてる奴がスーパー目立つ位置にいることにめーっちゃ笑ったし、その日、独歩が帰ってからちょっち泣いた。





     高校を卒業して、大学生になっても独歩は独歩のままだった。バイトを始めて忙しくしてるみたいだけど、週に何度かは必ず俺っちの家に来る。独歩は優しいし、面倒見が良いから。変わったのは制服を着なくなったくらいのものだった。俺っちも何年も制服は着てないから、おそろっちじゃんとうれしく思っていた。
     俺っちの部屋で独歩はずっと変わらずに、高校の頃と代わり映えのしない私服を着て、死んだ目でゴロゴロして、ゲームをして、漫画を読んで、イヤホンでよくわからないパンクバンドの曲を聴いて、俺っちに聴かせてそのままよくわからないという顔をするのをニヤニヤしながら見ていた。
     だから独歩が俺っちの知らないところで大人になっていってるのなんてまったく気付いていなかった。
     独歩の二十二才の誕生日の夜、前に独歩がおいしいと言っていたミルフィーユを作って、家に届けようとしていた。パーカーを被ってサンダルを突っかけて、小さい頃から何度も何度も行き慣れたどっぽんちまでの道を歩く。
    「一二三、」
     突然スーツを着た男の人に声をかけられて驚いた。誰かと思って顔を見上げると独歩でさらに驚く。細身の黒いスーツを着た独歩は、なんだか知らない人みたいに見えた。
    「なんでスーツ着てるの」
    「就活だろ。リクルートスーツ」
    「独歩誕生日まで就活なの?」
    「そんなもんだろ」
     そっか、独歩大学四年生だもんね。そっか。就活するんだ。来年から働くんだ。そっかあ。なんだか喉が詰まったような心地がして、心臓がどくどくと焦燥を告げる。
    「電話でも言ったけど誕生日おめでと。ケーキ作ったから独歩に渡そうと思って」
     ケーキ!? と独歩がぱあっと顔を明るくしたので慌てて手を振り否定した。
    「あっでも独歩の家の人が用意してるだろと思ってバースデーケーキっぽいのは作ってない! ミルフィーユ。明日の朝にでも食ってよ」
    「マジか。一二三のミルフィーユ美味いんだよな……。ありがとう」
     それでもやっぱりうれしそうな顔をして提げていたケーキをかっ攫った独歩は、俺んち来るだろ? と当たり前みたいに言った。
    「え、いや、いい……」
    「なんで」
    「誕生日なんだから独歩のかーちゃんもとーちゃんも弟くんもお祝いの用意してるっしょ」
    「二十二にもなって家族でお誕生日のお祝いなんかしないだろ」
    「するっしょ。てかよく考えたら夜ケーキ食べんのに明日の朝もケーキとかキツいよな。ごめん」
    「なんで。一二三のミルフィーユ美味いのに。ありがとうって言っただろ。うれしいよ」
     一二三も来ればいいだろって何度も言われた。いつもなら当たり前みたいについていくところだけど、今の俺っちはちょっと独歩に気後れしてて、独歩の家族の前に顔を見せるのが急に不安になってしまっていた。
    「じゃあ送ってく」
     俺っちがあんまりにも頑なだから独歩は小さく溜息を吐いて、少しムッとした顔でそう言った。
    「なんで!? いいよ……。それよりケーキはやく冷蔵庫入れてほしいかも」
     今度は大きな溜息。それから露骨にがっかりした顔になる。
    「…………わかった……。うん……。ありがとな。最近一二三に会えてなかったから、今日も会えると思ってなかったから、お前いんの見つけてすげーうれしかった」
    「先週の日曜来たばっかじゃん」
    「今週は会えてなかっただろ」
     なんだよ。ちょーデレるじゃん。独歩は照れ屋だからこんなに素直なことってあんまない。マジ疲れてんだろうな。疲れてるっていうか消耗してる?
     俺っちは怖いとき辛いときいつも独歩にいてもらってるのに独歩が辛いときに一緒にいてやれないのってどうなんだろ。スーツを着た独歩がなんだか知らない人みたいに見えて、気遅れするからって、俺はいつも自分のことばかりじゃないだろうか。
    「……やっぱ家行く」

     スーツ姿の独歩と歩くいつもの道はなんだか違う景色で、ちらちらと横目に見る独歩はなんだかすごく大人に見えて、隣で歩く自分が酷く子どもらしくて、恥ずかしいような気持ちがした。
     独歩だけは変わらないでいてくれてると思ってた。けど、違った。俺に合わせてくれてただけだ。人並みに大人になっていた独歩は、俺といるときだけ子どものまま成長を辞めてたんだ。ネバーランドみたいに。
     並んで歩いているのに、どんどん大人になっていく独歩の隣で取り残されてる。
     俺っちが行けない外の世界で友達たくさん作って、好きな人も出来て、結婚して子どもを育てて、独歩はそうやってどんどん大人になっていく。独歩のこと好きな人がもっとたくさん増えればいいと思ってたし今もそう思ってるのに、その想像はなんだか辛い気がした。
     変わらないといけない。いつまでもこのままじゃいられないんだ。とーちゃんに甘えて、独歩に甘えて、みんなに迷惑かけて、いつまでも高校の頃のことを引きずって、ガキじゃん。そんなわけないのに。俺が部屋にこもってる間にも時間は流れていってるのに。俺っちは、来月には二十二才になる大人だし、煙草も吸えるし、酒も飲めるし、二十二時以降に外を歩いてても補導されない。





     いつもの夕暮れ。昼寝して、ゲームして、飯食って過ごしたいつものふたりの夕暮れだったのに、独歩は妙に真剣な顔をして「内定が取れたんだ」と打ち明けた。
     すげーうれしくてちょー喜んで、それから今しかないと思って告げた。
    「俺っちも最近考えてっことあんだけど」
     ホストになろうと考えていることを伝えると、独歩は瞠目して、「何言ってんだこいつ」って顔をした。
    「俺っち顔はいいっしょ?」
    「いやそれはそうだが、そうじゃないだろ。ホストってお前……」
    「荒治療ってやつ?」
    「俺っち女の子の何が怖いって、多分考えてることが全くわかんねーのが怖い、と思う。ホストって女の子といっぱい喋る仕事っしょ? いっぱい喋ったら女の子の気持ちとか何考えてるのかわかるかなー、的な?」
     口を挟む隙を与えないよう、最近ずっと考えていたことを早口で捲し立てる。独歩はいや、いや、だってお前……、とかもぞもぞなんか言ってて、全然賛成してくれてないみたいだった。
    「いつまでも独歩、俺っちのこと心配っしょ? 優しいからさあ、来年から社会人で忙しくなったら、今までみたいにうちに来れるはずねーのに無理しそうじゃん。独歩のこと親友だと思ってるからこそ、そういうの求めてねーっつうか……」
     その瞬間独歩の顔が真っ青になった。絶望の二文字がドドーン背後に見える。そのまま虚な目をして、かちんこちんに固まってしまった。
    「独歩? どっぽちん? ぽちん? おーい」
    「意識あっか〜? なんで固まった? 故障か? おーい、のんざか〜? って、え!? なんで涙目なん!? 独歩!? どしたん!?」
     じわじわと溢れ出す涙に驚いて抱きついた。頭をいいこいいこと撫でる。そしたらぐすぐす聞こえてきて、えっこれガチ泣きじゃん俺っちなんかしたっけ!? って思った。そのあと胸元に顔擦り付けてふざけだしたからそんなにガチじゃないなって安心したけど。
    「め、迷惑だったのか……」
    「そんなことねーよー! 俺っちは嬉しいけど独歩大変っしょ? だから俺っち自立しねえとって話!」
    「い、いい家に行くのが駄目なら……!」
    「いや駄目とは言ってねえよ!?」
     ネガティブモードに入ってしまった独歩には俺っちの声は届かない。いきなり強い力で両肩をつかまれて瞠目した。独歩は必死の形相で言葉を繋げる。
    「……い、一緒に住まないか。二人で。ルームシェアっていうか……。ホストやるにしても慣れるまではいろいろと厳しいだろ。無理だ、向いてないと思ったらすぐ逃げていいしさ……。一二三一人くらいならまあ、多分、養えるだろうと……。いや、養われるつもりないんだよな、一二三は……。でも一二三がホスト頑張るってのはわかってる上での備えの話を俺はしててだな……。備えあれば憂いなしって言うだろ。俺は石橋は叩くタイプなんだ。一二三の分も。余計なお世話だよな……わかってる、俺ごときがこんな……」
    「ど、独歩?」
    「でもバイトでそこそこ貯金もあるんだ。一緒に住んでたら俺の扶養にお前も入れられると思うし、だから……。いや違う! 俺が、俺がさ、一人暮らしとかしたことないし、家事とかしたことないし、一二三得意だろ? だからだな……」
     独歩が何を言いたいのか、俺っちは首を傾げて聞いていたが、一つ一つ分解してやっと理解すると、必死の形相も相まって面白くて堪らなくなってしまった。
    「え、なん? 独歩おれっちのこと扶養に入れてくれるつもりだったん? ウケんだけど!」
    「う、ウケる!?」
     独歩の方をバシバシ叩いて俺っちは爆笑した。独歩らしい、優しくて良い奴で俺っちを大切にしてくれるが故の思考の暴走。
    「どっぽちん思い詰めすぎっしょ〜!」
    「お、俺は真剣にだな……っ」
     なんでこんなにどっぽちんは、俺っちを大切にしてくれるんだろう。
    「なあなあ、独歩、それさぁ、俺っちにプロポーズしてんの?」
     それとないように出来るだけ自然を装った声は震えていたかもしれない。
    「はあ!? な、何言ってんだ一二三……ッ」
     覗き込むと独歩はカァ、と顔を赤くした。俺も頬が熱かった。けどなんでもない顔を一生懸命作った。だって、だってさ、そんなん友達超えてんじゃん。
    「独歩が俺っちのことそこまで考えてくれてたことはうれしーけど、」
    「今でもいっぱい迷惑かけてるし、これ以上おんぶに抱っこってわけにもいかねーと思うんよね。俺っちこんなんだけど、でもそれは俺っちがなんとかすることで、独歩は俺じゃねえんだし」
     これ以上優しい独歩に漬け込んで迷惑をかけたくなかった。ガキのままの俺と確実に大人になっていってる独歩。そんな変なバランス、いつか壊れてしまう。俺っちは、独歩との関係がいつかバラバラに崩れてしまうのが怖かった。
    「……でも独歩が大人になっても俺っちと一緒にいてくれるつもりだったのは、めっちゃうれしい」
     でも、でも、ガキのままの俺っちでも、頑張るから。もっともっと頑張るから、だから独歩の隣にいたかった。
    「……まだ一緒にいていいの?」
    「……俺が一緒にいたいんだよ」

    「時間はかかるだろうが、きっとお前はやれるよ」
    「なんでそう思うの?」
    「頑張り屋だから」
     独歩に手首を掴まれる。どきりと心臓が跳ねた。
    「……うん、ありがと」
    「お前が頑張ってるから、俺も頑張んないとっていつも励まされてる」
    「俺っち頑張ってんのかな……」
    「頑張りすぎてるくらいで、心配になるよ。まあその心配がお前からしたら重いんだろうが……。こういうのは性分だから許してほしい。ガキの頃からお前を心配するのも巻き添え食らって迷惑被るのも、ほんとは好きでやってんだ」
    「ははは、なんで迷惑被るのが好きなんだよ」
    「なんでだろうな」
     あんまりにも優しい目で笑うから、俺はなんにも言えなくなってしまった。独歩が俺っちのこと、ほんとに好きだってわかってしまった。じゃあ、さっきのプロポーズも本気だったんだ。
     全然、全然嫌じゃなかった。むしろ嬉しくてドキドキしてそわそわして、心臓が破裂しそうだった。独歩、これって恋かな。
     そっか、俺っち、独歩のこと好きなんだ。小さい頃から好きだったけど、友達としてだけじゃない。独歩にすげードキドキしてる。
     自覚したばかりの感情が溢れて溺れそう
     手首を掴んでいた手のひらを握り直して指先を絡めた。二人とも手汗をかいていて熱かった。だけど離さないように離れないようにしっかりと握りしめた。あんまり独歩が強く握ってくるから、俺っちは「手、いてーよ」と笑った。独歩はわざとにやりと笑ってみせるので、おかしくってわははと声を上げた。

     今度海に行こうと誘ってくれた。女の子いると駄目だから人のいない海をわざわざ探して。電車乗れないから免許取ったあと全然運転してないのに運転するって。こんな面倒くせえ友達、放っておけばいいのに。ずっと独歩のことなんでこんな優しいんだろと思ってた。ぜんぶ俺のこと好きだったからなんだと思ったらなんかたまんなくなった。恥ずかしくてうれしくて頭がおかしくなりそうだった。
    「……あんね、独歩だいすき」
     心臓をバクバク鳴らして呟いた告白を独歩はあまり本気にしてなさそうだった。でもよかった。独歩ってそういう奴だし、俺っちも今まで気付いてなかったし。



     数ヶ月後、本当にホストになった俺っちを、独歩は本当に海に連れて行ってくれた。夜の海は静かで、波の音だけが聞こえる。
     雇ってくれたオーナーは「100%顔採用のロマン枠だから最初から使い物になるなんて思ってないよ」なんて笑ってたけど、自分がすげー迷惑かけてることくらいわかる。
    「俺っちね、変わりたいよ。ほんとはネバーランドなんてどこにもないんだからさ」
    「……右で光ってるあの赤い星の方向にネバーランドはある」
    「ガチ? ネタ?」
    「ほんと。ピーターパン見てみ、お前」
    「独歩ピーターパン愛好家なん?」
    「俺んちは昔からジブリとディズニーのDVDは全部揃ってんだ。何故か」
    「なんでだよ」
    「知らん」
    「どうやって行くの」
    「飛んでいく」
    「どうやって」
    「楽しいことを考えたら体が浮くんだとさ」
    「じゃあ俺っちたちふたりとも行けそうにないね」
    「うるさいぞ」
     天の川の端っこにその一際輝く赤い星はあった。
    「なんて星なんだろう」
    「アンタレス。さそりの心臓だな」
    「さそりの心臓?」
    「星があんまり見えないからいまいちわかりづらいけど、あの赤い星がちょうど心臓になるような形でさそり座になるんだよ」
    「さそりの心臓は燃えているから赤いんだ」
    「なんで燃えてんの?」
    「……罪滅ぼしかな。自分本意に生きて、誰の為にもなってやれずに結局死んだことを後悔して、今度はみんなのために使ってくれと神様に頼んでその身に火をつけてもらった。赤い炎で夜の闇を照らせるように」
     そのさそりを自分だと思った。あんまり子どもだから、人の好意にも悪意にも鈍感だった。人が自分をどう思ってるかなんて考えもしてなかった。だから死んだ。俺はあの日確かに死んだ。あの日から独歩の気持ちに気付くまで俺はずっと十七才の幽霊だった。
    「じゃあ俺っちが罰として神様に燃やされたら、独歩のことも照らしてやんね。それ見てひふみんじゃーんって思ってよ」
    「別にさそりは罰で燃やされたわけじゃないんだが……」
    「みんなのために、夜空を照らすために、一二三が星になるなんてそんなの嫌だよ」
    「……ごめん。でも俺はなるよ」
     あのネオンで明るい歌舞伎町の夜空でも輝けるような星になりたい。そのためなら俺は心臓を燃やしたって構わない。
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