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    krk_ktrf

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    午亥、未満の話 サザメくんにとっての『お兄さん』の話を聞くたびに「ああ、救われたことがあるからこそ脆くなった人なのだな……」と思ってしまう

    面影を夢見る あの人の笑顔はきっともう思い出せないだろう、と核は思っていた。そう思うたびに自身の着ているその袖口を口元に持っていき、目を瞑る。核にとってのライナスの毛布。そこにもう残り香も何もないが、唯一あの人がいたことの証明であった。
     人が出払っている時分に帰ってきたした部屋の中で、核は久々によく眠った。眠るつもりはなかったから少しベッドに横になっただけだったし、よく眠ったといっても彼にとってはという意味で、近くに人が来たことで起きる程度のものだった。寝起きの己が機嫌が悪いことは皆知ってるはずだ、そもそも近寄ってこない。であれば、と目を薄らと開けた。うつ伏せになって眠ったベッドの端に腰掛けて核を見ている一つの青は、ぱちんと瞼を開けた核に「悪い、起こしたか」と眉を潜めた。そうだ、近づいてくるとしたら、孳か、この男だった。忤、と名前を呼ぶことはせずに、核は「もっと上手く気配を消せそもそも何の用だ……」と応じる。
    「……別に、寒いのかと思っただけだ」
     その言葉に、1枚、寝落ちるときには掛けていなかったブランケットの重みがあることに気づく。「余計な世話を」と思わず口走って、目を逸らした。核の胸中に気付いているのかいないのか、忤は無言で手を伸ばすと、ぐい、と乱暴な手つきで核の目元をその親指で撫でた。
    「起こしたのは俺だが、隈が酷い。もう少し寝ろ」
    「……いや、もう起きる」
    「寝ろ」
    有無を言わさない忤に核は反発しようとしたが、その低めの他者の体温に身体が勝手に眠気を誘発されたらしい。核は不満そうな顔で、それでももう一度枕に顔を埋めた。聞こえた僅かな呼吸は、忤が安堵したもののようだった。
    離れていく掌に無性に凍えを感じて核は、「……起こしてといて寝ろと言った責任取れ」と言いながら忤の服の端を掴んだ。「……いや、俺がここにいたら寝にくいだろう……」と呆れた声が降ってくるが、無視して掴んだまま目を閉じた。自分だったら服が伸びると文句の一つは言っているだろう。けれど忤はそのままじっと動かず、核の手を振り払うこともなかった。
    核は毛布の中でごそごそと動いて、着たままだったあの人の服の袖に唇を寄せた。ブランケットの重み、暖かさ、この服の感触。にわかに思い出の中のあの人が実体を伴った記憶として形作られるようで、それでも、向けられた笑顔は思い出せなかった。
    ちらりと見上げた忤の斜め後ろの姿は、在りし日に後を付いて歩いていたときの視界に似ていた。思えば忤の笑った顔は見たことがない。けれど核には、そのまだ知らぬ微笑はあの人の笑った顔と同じなのだろうと、そんなことを夢想してしまって仕方なかった。
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