面影を夢見る あの人の笑顔はきっともう思い出せないだろう、と核は思っていた。そう思うたびに自身の着ているその袖口を口元に持っていき、目を瞑る。核にとってのライナスの毛布。そこにもう残り香も何もないが、唯一あの人がいたことの証明であった。
人が出払っている時分に帰ってきたした部屋の中で、核は久々によく眠った。眠るつもりはなかったから少しベッドに横になっただけだったし、よく眠ったといっても彼にとってはという意味で、近くに人が来たことで起きる程度のものだった。寝起きの己が機嫌が悪いことは皆知ってるはずだ、そもそも近寄ってこない。であれば、と目を薄らと開けた。うつ伏せになって眠ったベッドの端に腰掛けて核を見ている一つの青は、ぱちんと瞼を開けた核に「悪い、起こしたか」と眉を潜めた。そうだ、近づいてくるとしたら、孳か、この男だった。忤、と名前を呼ぶことはせずに、核は「もっと上手く気配を消せそもそも何の用だ……」と応じる。
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